ロッキー3(1982年アメリカ)

Rocky V

いきなりハルク・ホーガンとのチャリティー・マッチがあって、
これに映画の序盤20分以上かけるものだから、チョット面喰っちゃう映画ではありますね。

アクション映画スターとして君臨していたシルベスター・スタローンへの評価も
分かれつつあった頃の第3作で、結論から言うと、これはロッキーとアポロの馴れ合いの映画だ(笑)。

映画は前作のタイトルマッチでアポロとの死闘に勝ったロッキーが、
トレーナーのミッキーに導かれるように次から次へとタイトル防衛し続け、チャンピオンベルトを守ったロッキーも、
肉体的な限界を感じつつあったロッキーは引退を口にするが、安全な闘いに終始することに不満を持つ、
新進気鋭のチャレンジャーであった黒人ボクサー、クラバーが挑発的にロッキーに闘いを挑みます。

挑発に乗ったロッキーですが、彼はすっかりチャンピオンとしての生活に慣れてしまい、
トレーニングを怠るようになっていた姿を見て、ミッキーは「お前はアイツには勝てない」と防衛戦に反対します。

前作でも突然、金が入ってきたロッキーが散財するようになり、
肉屋でアルバイトするまでに落ちぶれるところから再び這い上がるという、妙に人間臭い内容になっていましたが、
本作でもすっかり富豪としての生活が定着し、やたらコマーシャル性を意識した生活に溺れるようになるなど、
強いロッキーというよりも、人間的に弱みを見せるロッキーという姿を意識的に描くようになっています。

そこで登場するのが、クラバーに無礼な態度をされ怒りに震えるアポロというわけで、
突然、ロッキーのタイトル奪還戦にあたってのトレーナーとして名乗りを上げ、ロッキーの再生に様々な手を貸し、
これまでは永遠のライバルとして描かれていたアポロが、いつの間にかロッキーの親友のような存在になり、
映画を最後まで観れば分かりますが、映画の最後の最後まで二人の馴れ合いで成り立つという、予想外の展開です。

これはおそらくシリーズを継続させるための判断だったのでしょうが、
ロッキーの精神的に不安定な部分を立ち直らせるのは、アポロしかいないというスタローンの考えだったのでしょう。

今回もチャンピオンであるという事実にすっかり慢心してしまったロッキーが、
チョットした勘違いからクラバーの挑発に乗ってしまうという、実に人間らしいエピソードがあるのですが、
スタローンはどうしても、ロッキーの弱い側面を描きたがるんですよね。これは彼のテーマの一つだったのでしょう。

そして本作で初めて、ロッキーはエイドリアンに弱音を吐きます。
「そうさ! オレは初めて怖いんだ!!」と。こうして本音を吐くことで、彼は再起すると言っても過言ではなく、
映画の中盤にある、ロッキーをエイドリアンが叱咤するシーン、これは間違いなく本作のハイライトだろう。

そういう意味では、本作は複数回あるファイト・シーンの迫力が今一つ物足りない。
確かに冒頭にある、ハルク・ホーガンとのチャリティ・マッチはインパクトがデカいが、
本来、ボクシングを題材にした映画であることを考えると、この冒頭のシーンは本シリーズの本筋から逸れる。
こう考えると、最初にクラバーの挑戦を受けるシーンと、クライマックスのファイト・シーンに集約されるのですが、
前2作までの描き方と比較すると、どうしても見劣りすることは否めず、あまり死闘という感じがしない。

特にクライマックスのファイト・シーンは僕が勝手に予想していた迫力と比べると、
かなりアッサリした感じで終わってしまい、率直に言うと、物足りなさを感じずにはいられなかった。

とすれば、本作での最も大きな収穫は、
主題歌に採用したサバイバー≠フ Eye Of The Tiger(アイ・オブ・ザ・タイガー)だろう。
これはおそらく本シリーズが生んだ、最も有名な主題歌であり、サバイバー≠焜nッキリ言ってこれだけが有名(笑)。

洋楽に詳しくない人でも、この Eye Of The Tiger(アイ・オブ・ザ・タイガー)のイントロを聴いたら、
ピンと来る人も多いはずだし、本作の内容のインパクトよりも、この曲のインパクトの方が大きいかもしれない。

それは、このシリーズ本来の大きなコンセプトであったはずの、
アメリカン・ドリームの体現というものとは、映画の内容が大きくかけ離れたものになってしまったということがあり、
僕は後から言えることでしかないけど、このシリーズは本作で打ち止めにしておくべきであったと思う。

ところが本作が世界的にヒットし興行的大成功を収めたことにプロダクションも目を付け、
スタローンに第4作の製作を持ちかけ、結果的に90年に第5作を製作させるまでシリーズを継続させます。
06年にスタローンが第6作を製作しますが、第6作は原点回帰したようなムードがあったことを考えると、
彼にとっても第4作、第5作の存在は想定に無かったわけで、今でも悔いが残っているのではないだろうか。

勿論、第4作も第5作も手抜きした映画というわけではないのですが、
どちらかと言えば、後付けなエピソードであることに加えて、ロッキーとミッキーのコンビがなくなることが大きいですね。

明らかにスタローンは本作でシリーズを一旦、終わらせるためにシナリオを書いていることは、
このミッキーの扱いを見て分かる通りですが、そんな後で付いてきたものが第4作、第5作とするとツラい・・・。
そういう意味では、映画のシリーズ化というのはツラいもので、計算して作ることの重要性を感じる。

そんなに酷い続編ではないのですが、個人的にはロッキーとアポロが親友のようになるのは由としても、
ロッキーにトレーニングをつけるアポロの表情に、どこか友情を越えたような感情がにじんでいるように見えたのは、
映画を観ながらも、どこか余計なことばかり考えてしまう悪癖で、僕の心が不純だからなのでしょうか?(笑)

なんか、海岸で競争する二人の姿に、たまにロッキーを笑顔で見るアポロの表情に、
それまで二人が永遠のライバルのように闘ってきた関係性とは大きく変化して、既に戦友という感覚を通り越して、
何か二人にしか分からない特別な感情が芽生えているかのような、余計な邪推をさせられてしまう。
スタローンもどういうことを意図して、こういうシーンを撮っていたのか分かりませんが、これは本作の大きな特徴だろう。

前2作までの系譜を蔑ろにした内容ではないし、
ロッキーとアポロの友情を強く示唆した内容であるからこそ、本作が好きだという人の意見もよく分かるけど、
僕個人の正直な感想としては、やはり第1作の頃のような映画製作に於けるチャレンジ性が減り、
映画自体にも訴求するものが弱くなってしまったことを考慮すると、標準的な水準なのかなぁと思ってしまう。

ただ、何度も言うけど...主題歌はスゴくカッコいい(笑)。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 シルベスター・スタローン
製作 ロバート・チャートフ
    アーウィン・ウィンクラー
脚本 シルベスター・スタローン
撮影 ビル・バトラー
音楽 ビル・コンティ
出演 シルベスター・スタローン
    タリア・シャイア
    バート・ヤング
    カール・ウェザース
    バージェス・メレディス
    ミスター・T
    ハルク・ホーガン
    トニー・バートン

1982年度アカデミー歌曲賞 ノミネート