ロッキー(1976年アメリカ)

Rocky

言わずと知れたシルベスター・スタローンが作った大成功作。

映画の内容的にも、映画の位置づけとしても、アメリカン・ドリームを体現した名画で
ポルノ映画に出演したり、俳優の道を志していたスタローンも、映画俳優として成功するという意味では、
最後のチャンスとも言える温めていた本作の企画を映画化するチャンスを得て、僅か3日間で脚本を書き上げ、
自身が主演することによって、スターダムを駆け上がり、正にアメリカン・ドリームを体現することになりました。

当時、既に下火になっていたとは言え、ハリウッドにはアメリカン・ニューシネマの風潮が色濃く残っており、
当初、スタローンが書き上げたシナリオも、そんなニューシネマの影響を強く残した内容だったらしいが、
当時のスタローンの妻が反対し、敢えてハッピーエンドになるように変更したようで、これが正解でしたね。

おそらくアメリカン・ニューシネマが本格的に終息し、完全に息の根が止まったのは、
本作の登場と、同じ年にドン・シーゲルが撮った『ラスト・シューティスト』だと僕は思っているので、
アメリカン・ニューシネマ好きとしては、対極する存在の作品ではあるのですが、これはこれで次の時代を迎えるために
必要な映画であったことを考えると、本作の価値は高いと思うし、第一、映画の出来自体、素晴らしいと思う。

スタローンにしても、おそらく本作での成功がなければ、
後の80年代以降のようなアクション映画のスターとして君臨することはなかったでしょうね。

監督は73年に『セイブ・ザ・タイガー』を撮ったジョン・G・アビルドセンなのですが、
これまではB級映画を中心に活動してきただけに、ギャランティーは安かったことも追い風になったようです。

正直言って、映画の前半はそこまででもないのですが、
個人的には中盤にベテランの老トレーナーである、ミッキーが「お前のマネージャーになりたいんだ!」と
自ら夜中にロッキーの自宅に押し掛けて、売り込みに来るシーンから、映画はグッと良くなっていく。
このシーンにしても、実に変わったニュアンスで映画を撮っていると思うのですが、まるで負け犬のように
家から寂しげに去っていくミッキーの後ろ姿に、まるで追い討ちをかけるように、これまでの不満が沸き上がるのを
ロッキーが抑え切れず、アパートの階段を下りるミッキーに敢えて聞こえるように、怒鳴り散らします。

ここまでやっておきながら、結局、ロッキーはミッキーの後を追う(笑)。
通常の映画なら、ミッキーをあそこまで罵倒する姿は描かないと思うし、仮にあそこまで罵倒するなら、
むしろこれまでミッキーに冷遇されたことを見返すために、ロッキーがトレーニングするというセオリーにすると思う。

そこを一見すると、アンバランスな感じにしてまでも描いてしまう。
ただ、観終わって冷静に考えると、ロッキーって口は悪いけど、どこか心に温かさがあるキャラクターとして、
一貫して描かれていることを考えると、大人げなく罵倒する姿に彼の人間らしさを、それでもミッキーを追いかけ、
見捨て切れない姿に、ロッキーの性根の良さ、と言うか心の優しさを描きたかったのだと思います。

やや都合の良い解釈かもしれませんが、スタローンのこういった粗削りさは、映画に対して、むしろ良く機能している。

そして、何度観ても、この映画はクライマックスのファイト・シーンには燃える。
思わず心が熱くなるものを感じることを禁じ得ない、圧倒的なまでの高みを感じるのですが、
ロッキーが偶然とは言え、幸運にもチャンピオンへの挑戦権を得て、必死になって闘い成功を得ようとする姿、
そしてマイク・パフォーマンスだけではない、真のチャンピオンである対戦相手のアポロの強さが表現されています。

お互いに壮絶な打ち合いとなり、ロッキーも幾度となく、KO負けのピンチはあっただろうし、
アポロにしても最初にダウンをとられ、第3ラウンドでKOすると宣言していたにも関わらず、
まさかの大苦戦で、思わず最後に「お前とは、もう二度と闘わない」と言ってしまうほどの大熱戦。
この映画の凄いところは、そういった凄まじいファイトを実に見事に映像として表現できていることです。

当時、まだ映画界ではスタンダードではなかったステディカムを大々的に使った映画であり、
おそらく製作費の大部分をそこに使ったのではないかと思うのですが(笑)、後年にも数多くボクシングを撮った映画は
ありましたが、技術革新が進む昨今の映画と比較しても、全く遜色ないどころか、実に優れたカメラと言えるでしょう。

この臨場感の高みは、スタローンの撮影に対する意気込みの強さのおかげでもあると思うんですよね。

それ以前に試合に臨むためのトレーニング・シーンにしても、その過酷さも印象的だ。
意外にアッサリと描いているのですが、よく言われる通り、まずはありとあらゆる禁欲生活から始まります。

そして雪がチラつく季節のフィラデルフィアの早朝4時に起床して、
ロクに聴きもしないラジオ番組を流しながら、寝起きにいきなり冷蔵庫から取り出した、
生卵を5個ジョッキのようなコップに入れ、黙々と一人、一気飲み。良質なタンパク質を摂取するためなのだろうが、
僕ならまずできない芸当で、こういった食生活を含めたトレーニングが有名になったのは、おそらく本作の影響だろう。

当時、ハッピーエンドで終わる映画って数少なかったのですが、
おそらく当時、ニューシネマの影響を受けた陰鬱な映画に食傷気味になっていた風潮もあったのだろうし、
第一、長期化したベトナム戦争、ウォーターゲート事件、オイルショックなど、社会的にも経済的にもアメリカにとって、
向かい風になっている時代だったからこそ、本作のようなアメリカン・ドリームを描いた映画を求めていたのでしょうね。

だからこそ、本作は存在価値があると思うし、内容が充実していたからこそ、評価されたと思います。

結末はある意味で予想外と言えば予想外ですが、
明るい未来を感じさせる結末であることに変わりはないですし、納得性の高い帰結ではある。
そういう意味で、破綻のない納得性の高いシナリオを用意できたスタローンの功績がデカいでしょう。

ちなみに本作で描かれるロッキー、スタローンがよく演じている、
やたらと強い屈強なボクサーというほどではないあたりが、とても人間らしくて、また良いですね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジョン・G・アビルドセン
製作 ロバート・チャートフ
    アーウィン・ウィンクラー
脚本 シルベスター・スタローン
撮影 ジェームズ・クレイブ
編集 スコット・コンラッド
    リチャード・ハルシー
音楽 ビル・コンティ
出演 シルベスター・スタローン
    タリア・シャイア
    バート・ヤング
    カール・ウェザース
    バージェス・メレディス
    ジョー・スピネル
    セイヤー・デビッド

1976年度アカデミー作品賞 受賞
1976年度アカデミー主演男優賞(シルベスター・スタローン) ノミネート
1976年度アカデミー主演女優賞(タリア・シャイア) ノミネート
1976年度アカデミー助演男優賞(バージェス・メレディス) ノミネート
1976年度アカデミー助演男優賞(バート・ヤング) ノミネート
1976年度アカデミー監督賞(ジョン・G・アビルドセン) 受賞
1976年度アカデミーオリジナル脚本賞(シルベスター・スタローン) ノミネート
1976年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
1976年度アカデミー音響賞 ノミネート
1976年度アカデミー編集賞(スコット・コンラッド、リチャード・ハルシー) 受賞
1976年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(タリア・シャイア) 受賞
1976年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1976年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞