ロック・スター(2001年アメリカ)

Rock Star

全米で大人気のハードロック・バンド、スティール・ドラゴン≠ノ魅せられて、
仲間とトリビュート・バンドを組んでいたヴォーカリストが、偶然、ヴォーカルの交替期にあった、
スティール・ドラゴン≠フバンド・メンバーにスカウトされたことがキッカケとなって、
栄光と思っていた世界ではない現実の厳しさを痛感する姿を描いた、音楽ドラマ。

監督は『飛べないアヒル』のスティーブン・ヘレクで、
95年に『陽のあたる教室』で大成功を収めたディレクターではあるのですが、
どうにも本作の出来はそこまで良くなかったですね。勿論、描きたいことはよく分かるのですが、
幾度となく使い古されたというか、多くの映画やドラマで描かれてきたことを、そのままストレートに
映画化しただけにしか見えず、どうにも工夫が感じられない映画という印象が、最後の最後まで拭えなかった。

おそらく当時、ハリウッドでもスターダムを駆け上がっていた
マーク・ウォルバーグにスポットライトが当たるような企画をジョージ・クルーニーが与えたかったのか、
本作にも製作総指揮として参加しているのですが、企画の段階からそこまで魅力的なものとは思えないなぁ。

本作の前年、『あの頃ペニー・レインと』でロックの良さと、現実の厳しさを描いていただけに、
既に類似した題材を映画の中で描いてしまった既視感と、あまり過剰にドラマを描こうとするのではなく、
華やかな部分を中心的に描こうとした志向が、逆に映画の中身にインパクトを与えられなかったのかな。

まぁ、確かに多くのロック・ミュージシャンが通る道なのかもしれないけど、
どうしてもセックス&ドラッグというイメージばかり描こうとすることも、どこかステレオタイプに感じるし、
本作も例外になることなく、半ば無理矢理にそういうエピソードを描こうとするのが、どうも賛同できない。

主人公を演じたマーク・ウォルバーグや、彼の恋人を演じたジェニファー・アニストンも
よく頑張っているとは思うのですが、残念ながら映画の出来はそこまで良くないと思いますね。

結局、最後はどこか落ち着いた雰囲気に落ち着くというのも、ありがちなパターンではあるのですが、
これはトップスターであり続けることの難しさの裏返しなのでしょうか、なんとも微妙な展開なんですね。
本作はそういった選択を肯定的に描いていることは間違いないのですが、描き方があまり上手くない。
そのせいか、主人公がまるで現実と闘い、敗れた結果、このようなことになったという風にも見えなくはない。

確かにトリビュート・バンドを続けていても、趣味の域を出ないというのは現実だと思うし、
一方で憧れから始まったトリビュート・バンドに違う性格を持たせたくはないという気持ちも、よく分かる。

日本にも数多くのトリビュート・バンドはあったし、今でもライヴバーなんかで、
トリビュート・バンドが演奏するバーも、一時期ほど多くはないと思うのですが、まだ僅かにあります。
個人的には、本作にはそういうトリビュート・バンドの存在を肯定的に描いて、底抜けに明るく頑張る彼らを
応援するような内容の映画にして欲しかったし、それの方が映画にエネルギーを与えられたのではないだろうか。

そういう意味で、今時、グルーピーの描写なんかに時間を割くなんて、チョット理解し難いんだよなぁ。

おそらく作り手には、80年代のMTV隆盛に伴って発生した、
ヘヴィメタルやハードロックのブームに対するリスペクトがあって、こういう企画を立ち上げたのだろうけど、
そんなブームもグランジ・ロックなんかの一時的なブームで無くなってしまったことを惜しむ気持ちもあるのだろう。

でも、そんな名残惜しいような気持ちだけでは、映画が魅力的なものにはならない・・・。

正直言って、この映画はそんな作り手の想いと映画の中身が、
少しずつ噛み合っていない感覚が、映画の最後の最後まで拭えなくって、大きく損をしている。
別にそれが本作がヒットしなかった理由というわけではないけど、もう少し映画の中身を工夫していれば、
おそらく、商業的な結果だけではなく、映画の出来そのものも変わっていただろうと思えるだけに、なんだか残念。

映画がヒットしなかったのは、本作が当時、「9・11」の余波を受けたのも、正直言って、あると思う。

と言うのも、本作が日本で劇場公開される当時のことを覚えているのですが、
2001年9月11日に発生した、アメリカ同時多発テロ事件、通称「9・11」の際には日本でも、
数多くのハリウッド映画の劇場公開が待機状態でありましたが、その影響を受けて、
映画の中身が「9・11」を想起させるものは精査され、劇場公開が延期になったり、再編集になったりと、
当時の映画会社は様々な対応が迫られ、その中で急遽、劇場公開が早まったのが本作だったと記憶しています。

特に日本では、本作はヒットする要素が無かったわけでもなかったとは思うのですが、
あまり大々的に宣言されることなく、いきなり劇場公開された印象があって、少し不遇な扱いでした。

マーク・ウォルバーグは日本でも知名度を上げていたし、
ジェニファー・アニストンは当時、ブラッド・ピットと結婚した直後であり、テレビドラマの人気シリーズに
出演していたこともあって、映画女優として本格的に売り出し始めたこの頃にあって、とても重要な作品でしたね。

それが、まるで慌てて劇場公開されるような扱いを受けてしまったのは、チョット運が悪い。

もう少し扱いが良ければ、日本ではもっとヒットしたと思うんですよねぇ。
『あの頃ペニー・レインと』とは異なりますが、明るく80年代を懐かしむ企画として、
きっと当時もファンが多くいたはずなだけに、作り手にとって不遇な扱いだったのは可哀想ですね。

映画の出来は、今一つと感じましたが、おそらくバンドを結成して、
かなり熱中していた方々には、熱く通じるメッセージ性がある映画なのかなぁとは思います。

ジョージ・クルーニーが本作に投資したというのは、
やはりマーク・ウォルバーグがスターダムを駆け上がるのをプッシュしたかったのだろうけど、
正直言って、彼にハードロック・バンドのヴォーカリストというのは、あんまり合っていなかったなぁ・・・。

欲を言えば、この映画にはジェニファー・アニストンをもっと輝かせて欲しかったなぁ。
当時は話題性ある女優さんだっただけに、本作の作り手ももっと考えて欲しかったですね。
さすがに映画の終盤で出番がグッと減ってしまうのは、チョット可哀想としか思えなかったですね。

ところで、エンドロールにオマケ映像みたいなのがありましたが、あの意味は何だったんだろう?

(上映時間105分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 スティーブン・ヘレク
製作 ロバート・ローレンス
    トビー・シャッフェ
脚本 ジョン・ストックウェル
撮影 ウエリ・スタイガー
美術 メイン・バーク
音楽 トレバー・ラビン
出演 マーク・ウォルバーグ
    ジェニファー・アニストン
    ドミニク・ウェスト
    ティモシー・スポール
    ティモシー・オリファント
    ダグマーラ・ドミンスク