ロード・トゥ・パーディション(2002年アメリカ)

Road To Perdition

劇場公開時から指摘されてはいましたが...
確かに主役のトム・ハンクスがミスキャストな感は否めませんが、
これはあくまで映像作家サム・メンデスの仕事としては、実に素晴らしい出来栄えではないでしょうか。

特に遺作とったコンラッド・L・ホールの美しいカメラは特筆に値する。
僕は本作の終盤の、あまりに素晴らしいシーン演出の連続に、完全にマイってしまいましたねぇ(笑)。

ポール・ニューマン演じるルーニーが雨の夜にサリヴァンと対峙するシーン、
そして薄汚いアパートの一室でサリヴァンを待つ、彼の息子を壁一枚隔てて、
サリヴァンが帰宅してくるシーンなど、とにかく昨今の映画としては突出した高みを感じますね。

実質的にポール・ニューマンの遺作になってしまったわけですが、
観る前に僕が予想していた以上に、ポール・ニューマンの出番が多かったですね。
まぁ映画賞にノミネートされるほどの存在感とは言い難いのですが、それでも十分過ぎる役割を果たしています。

『アメリカン・ビューティー』で絶賛されたサム・メンデスですが、
本作でもひじょうに高い演出能力を示せていると思いますね。一つ一つのシーンを丁寧に撮っているのが、
実に素晴らしく、それだけ当時は映像作家としてノッていたということの表れでしょうね。
『アメリカン・ビューティー』では、アメリカのどこにでもありそうな一般家庭を主題にしながらも、
実は何もかもがおかしな方向へ動いてしまい、崩壊寸前であることを描いておりましたが、
本作では慎みを持って、数奇な親子関係を描いており、これが絶妙に絡み合うのを上手く描けていると思います。

惜しむらくは、内容の割りには映画に重厚感を出せなかったことで、
ある意味では必要最小限にエピソードを整理できたことが、これだけスリムにできた要因なのですが、
個人的にはチョットだけ、エピソードを割愛し過ぎたかなぁと。もう少し、全体的にボリュームが欲しかったですね。

例えば、主人公の息子が父の車の後部座席に忍び込み、
父の深夜の仕事を目撃してしまう“くだり”にしても、もう少し前後関係をジックリ描いても良かったかなぁ。
どことなく唐突に事件が発生する印象が拭えず、詳しい人間関係などを描くことが困難になってしまいましたね。

それと、主人公のサリヴァンがかなり悪事をはたらいてきていたはずなのに、
映画の終盤で親子愛を描いた映画として強調したかったためか、映画の序盤からサリヴァンを美化して描き、
決して彼のダーティな側面を描こうとしなかったのも、おそらく賛否両論でしょうね。
作り手の選択は間違いだったとは言い難いのですが、サリヴァンのダーティな側面を少しでも描いておけば、
また本作の不条理な部分や、物語の複雑な部分をもっと言及できたような気がするんですよね〜。
(そういう意味で、サリヴァンにトム・ハンクスはイメージと合っていなかったのかも・・・)

良く解釈すれば、映画が焦点ボケするのを防いだのでしょうが、
やはり全体的に表面的な作りに感じられて、イマイチ掘り下げられなかったような印象が残りますね。

で、結局、エピソード的なボリュームもでずに、映画に重厚感を与えられなかったかなぁ。
サム・メンデスの演出そのものは悪くないどころか、むしろ素晴らしいのに、チョット損をしていますね、この映画。
(サム・メンデスの演出は結構、クセがあるので、嫌いな人はとことん合わないだろうけど・・・)

でも、好き嫌いハッキリ分かれてしまうような、ギャンブルみたいな映画になってしまった、
『アメリカン・ビューティー』よりは、比較的、万人ウケしやすい内容になっているし、
親子愛を描いた映画という意味合いでは、ひじょうに良く頑張った映画だと思いますけどねぇ。
これで前述したもう少しエピソードを捕捉して重厚感があれば、僕は傑作と呼んでも良かったと思いますがねぇ。

ハッキリ言って、映画の冒頭から結末の予想はつく作りになっているし、
明確にハラハラドキドキさせられるようなスリルは確かに無いかもしれない。
しかしながら、それでも十分に観客にある一定の納得性を持って映画を構成できるあたりに、
サム・メンデスの力量の高さがよく出ているし、やはりサム・メンデスの実力は本物という感じがしますね。

やはり、この映画はポール・ニューマン演じるルーニーの存在が利いている。
サリヴァンの家族をよく知っており、サリヴァンの息子たちからを孫のように可愛がる。
そんな中で、不肖の息子と言ってもいい息子コナーの粗暴な振舞いに手を焼き、トンデモない事件を起こしては、
コナーがルーニーが望んではいなかった更なる事件を起こし、ルーニーは大きく困惑します。

ここで興味深いのは、ルーニーがまるでサリヴァンを息子のように可愛がり、
ある意味ではサリヴァンと彼の家族を特別扱いしますが、コナーはそんな扱いも面白くはありません。
そこでコナーが起こした、更なるトンデモない事件を知っても、ルーニーはコナーを罰することができないのです。

これは言ってしまえば、人間の業の深さを象徴したシーンで、
自分の息子を必死で守ることはできなかったことを悟り、コナーを処罰することをしないという決断をするんですね。
本作の主題って、文字通り親子愛であり、それは主にサリヴァンのことであったはずなのですが、
僕にとってはむしろルーニー親子の、少し屈折した親子愛の形の方が、ずっと興味深く観えましたね。

敢えて、この映画の中で“善”と“悪”を定義するとしたら、
真の意味での“悪”はポール・ニューマン演じるルーニーということになるのでしょうが、
本作の見事だったところは、雨の中でサリヴァンと対峙するシーンで、いわゆる“善”と“悪”の対決という、
安直な空気を流さなかったところで、これはコンラッド・L・ホールのカメラの美しさの功績と言っていいだろう。

コナーを演じたダニエル・クレイグも、まさかこの4年後に“6代目ジェームズ・ボンド”に
なっているなんて、本作の時点では予想もしていなかったのですが、なかなか悪くない芝居ですね。

あまり通常のギャング映画をイメージされると肩透かしを喰らう内容ですが、
親子の絆を描いた作品として、今一度の再評価を促したい一本ではあるんですよね。
どうも、日本に紹介されたときにアクション映画であるかのような触れ込みだったと記憶しており、
未だにそういった扱いを受けていることを考えると、どうも適正な扱いを受けていない気がするんですよねぇ。。。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 サム・メンデス
製作 サム・メンデス
    ディーン・ザナック
    リチャード・D・ザナック
原作 マックス・アラン・コリンズ
    リチャード・ピアース・レイナー
脚本 デビッド・セルフ
撮影 コンラッド・L・ホール
美術 デニス・ガスナー
音楽 トーマス・ニューマン
出演 トム・ハンクス
    ポール・ニューマン
    タイラー・ホークリン
    ジュード・ロウ
    ダニエル・クレイグ
    スタンリー・トゥッチ
    ジェニファー・ジェイソン・リー
    ディラン・ベイカー
    リーアム・エイケン

2002年度アカデミー助演男優賞(ポール・ニューマン) ノミネート
2002年度アカデミー撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
2002年度アカデミー作曲賞(トーマス・ニューマン) ノミネート
2002年度アカデミー美術賞 ノミネート
2002年度アカデミー音響賞 ノミネート
2002年度アカデミー音響編集賞 ノミネート
2002年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
2002年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
2002年度ラスベガス映画批評家協会賞撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞