卒業白書(1983年アメリカ)

Risky Business

親の留守の間に、コールガールを呼んでパーティー開いて若者を呼んで大儲けするという、
不届きな若者を描いた青春ドラマで、当時はまだ“ブラット・パック”という当時の若手スターの一人であり、
スターダムを駆け上がる前だったトム・クルーズが、一躍ブレイクするキッカケとなった作品ですね。

今となっては、たいして驚くような内容の映画ではないのですが、
当時は“ませた子ども”が、センセーショナルな体験をして大人になっていく姿を描いた青春映画が流行り、
80年代半ばは数多くの映画が作られましたので、本作はそんなブームの“はしり”とも言える作品ですね。

監督は本作が監督デビュー作となったポール・ブリックマンですが、そこまでの出来ではないですね。
正直言って、平均的な出来でこれならば、同時期にもっと質の高い青春映画はあると思います。

ただ、やっぱり本作のインパクトって...何と言ってもブリーフ一枚で踊るトム・クルーズだと思うんですよね。
彼のスター性を導き出したことが大きな功績であって、本作の魅力って彼を主演にキャストしたことに尽きると思う。

まぁ・・・どこの国の高校生もこんなものでしょうが、大学進学という重要な局面を控えつつも、
頭の中は性のことでいっぱいで、毎日のように友達から色々とけしかけられつつも、ガールフレンドがいるわけでもなく、
日々の退屈な生活にストレスを溜め込む。良い大学に進学し、良い就職先に就職することだけを求める親に対しても、
心の内側に秘めたる反発心を隠しつつ、いざ親が留守となれば徐々に彼の心のブレーキが利かなくなっていきます。
映画はそんな高校生ジョエルの姿を通して、それまでの“殻”を破って大人になっていく瞬間を描いています。

トム・クルーズは良いけど、ヒロインのコールガールであるラナを演じたレベッカ・デモーネイも良い。
現代の感覚で言えば、少々、女性蔑視なニュアンスとも解釈できるキャラクターではありますけど、
ジョエルから見れば、少し年上のラナの大人の女性の魅力にやられて、すっかり彼女に魅了されてしまう。
本作が絶妙に上手かったところは、“性の手ほどき”を受ける感じを強く出さず、2人は対等に駆け引きをし合うところ。

そのラナもヒモのポン引きと手を切りたいがためにジョエルを利用するところがあって、地味に計算高い。
自分に惚れたと感じたラナは、ジョエルを自らの計画に巻き込んで、大儲けしようと企むのですが、
そのときのジョエルはまだ両親にバレたらヤバいという思いがあったから、早くラナに居なくなってほしいというわけです。

ところが、チンピラと完全に手を切り、且つ次の収入源を作るために拠点が欲しいラナからすれば、
親のいないジョエルの実家は、何でもあって絶好のパーティー会場。気付けばラナは女友達を連れ込んで、
ジョエルの友人を味方に付けるようにして、次第にジョエルが心を許していくように仕向ける“策士”のような女性だ。

映画の序盤では、まだまだウブな高校生にしか見えないジョエルでしたが、映画の終盤にはすっかりキマってる。
マリファナは吸うわ、やりたい放題のパーティーの影の主催者だわ、最初はジョエルにとっては背伸びしていたはずの
チョットした火遊びという感覚だったものが、いつしかドップリと浸かり込んでしまい、すっかり抜け出せなくなります。
そんなときに、ラナら“金づる”を奪い取られ、イライラMAXのヒモであるチンピラが絡んでくる展開は、なかなか上手い。

音楽の使い方も、この時代に流行ったポピュラー・ミュージックが主体ではありますが、
それぞれ使い方が上手い。トーキング・ヘッズ≠ネんて Swamp(スワンプ)を使っちゃうあたりも、シビれる!(笑)

本作の音楽全般はプログレのカルト的存在であるタンジェリン・ドリーム≠ェ担当していますが、
70年代から映画音楽をやっていたとは言え、本作のような系統の音楽を書くとは少々意外な組み合わせですね。

しかし、どうせなら回り道した青春であっても、映画を観終わった後に「この時代は良いなぁ〜」と
思わせる感覚が欲しかったが、それが本作には皆無だ。この時代は早く自立した大人になりたがるもので、
一人暮らしに憧れたり、自分で自由に時間やお金を使う生活に移りたがるものだけれども、いざそうなる大変なわけで
そういった生活をあれやこれやと思い巡らせ憧れている時期が、僕は一番良い気がするし、人生に必要な時期です。
だからこそ、本作にはジョエルがそういった時間を過ごす意義のようなものを、しっかりと描き込んで欲しかったなぁ。

映画を最後まで観終わって感じたのですが、本作は残念ながらそんな感じではないのですよね・・・。

だって、普通に考えれば、こんなパーティーだって出来ないし、一晩で大儲けなんて甘い話しも無い。
どんなことやっても、将来を色々と思い悩んで、まだ選択できる立場なわけですね。将来の可能性、無限大ですよ(笑)。
確かに小学生、中学生、高校生とステップアップしていって、その将来の選択が間近に迫っている状況ですがねぇ。
それでも、本作の主人公ジョエルにしても、まだまだ彼の人生どうとでも出来る段階なわけで、スゴく良い時期なはず。

だからこそ、この青春時代の良さをもっとダイレクトに伝える映画であって欲しかったというのが本音なのです。
本作は原題にもある通り、ジョエルにとってのリスクを作り手は描いているので、青春の良さを描く気はないのだろう。

まぁ、普通に考えれば、ジョエルとラナは“住む世界が違う男女”であると言えば、それは間違いではないわけで、
ポン引きのようなヒモと組んで仕事をしていたラナに一方的に取り込まれたとは言え、彼女と一緒にビジネスすれば
ポン引きからは「金づるを取られた」と誤解されてしまう可能性が高いわけで、そうなればジョエルは狙われるわけです。
ジョエルからすれば、これ以上にハイリスクなことはないわけです。結局、最後に面倒なことになってしまいます。

ちなみにこのポン引きのグイドを演じたのは、『逃亡者』などの名脇役のジョー・パントリアーノでした。
映画の性格上、やむを得ないところはあったと思いますが、もう少しグイドもしつこく絡んできても良かったですね。
理由はよく分からないのですが、グイドはジョエルのことに一目置いているという設定でもあるので、家具を売るくらいで
あまりしつこく絡んでくる感じではなかったので、もっと厄介な存在として描いた方が映画が面白くなったと思います。

ちなみに本作での共演が縁で、トム・クルーズとレベッカ・デモーネイは一時期交際関係にあったらしいですが、
トム・クルーズはこの頃から映画での共演が縁で、共演女優と恋愛関係になることが“始まって”いたわけですね。
思えば、後年のニコール・キッドマン、ペネロペ・クルスと共演女優とのロマンスが大きな話題となることが多いです。

確かに本作でレベッカ・デモーネイが演じたコールガールのラナはヤバい仕事をしているけど、
もともとはそこまで悪いオンナはなさそう。彼女が希望した、地下鉄でのアバンチュールは意味不明だったけど、
彼女なりにプライドはあって、自分のポリシーもしっかりしている。ジョエルを“利用”した部分はあるにはありますけど、
彼女もジョエルのことを愛していたという見方もできなくはない。この辺のバランスがなんとも絶妙で良いですね。
トム・クルーズよりは少し年上で、絶妙に彼をリードするように引っ張る大人の女性としての魅力が大きい。
残念ながら、あまり数多くのヒット作に恵まれているわけではないですが、もっと活躍できる魅力はあったのですが・・・。

本作はドタバタ艶笑劇というわけではなく、“ブラット・パック”の俳優たちが出演した青春映画の系譜を
感じさせるようなモラトリアム的な時期を迎えた若者を描いた作品であって、シリアスな側面も強くありますね。

映画の出来自体はそこまでのレヴェルではありませんが、当時としてはセンセーショナルな内容ではあったのでしょう。
トム・クルーズの名を一躍、世界に知らしめた出世作として注目を浴びた作品ですが、まだまだ発展途上な感じがする。
それでも、80年代前半から流行り始めていた青春映画の一つとして、もっと評価されてもいい作品なのかもしれません。

どうでもいい話しですが...ポン引きのグイドがラナをジョエルに取られた腹いせに、
ジョエルの実家に侵入して勝手に家の家具をトラックに積み込み、ジョエルに買い取らせることで
ジョエルがラナと組んで得た収入を頂いてしまおうとします。しかし、グイドは家具をトラックから下ろすだけ。
あの短時間で家の中を元通りに戻すというのは極めて困難だと思いますが・・・一体どういうマジックを使ったのだろう?

自分の家に置き換えて考えると、自分の物だけだったとしても元通りは無理ですものね。
意外に全ての物の配置や置き方、順番などを覚えているものではないのですが、勝手に変えられると
初めて違和感が生じるもので、ジョエルがこのように慌てて元に戻すというのはマンパワーがあっても無理でしょうね。

経営学に興味があったジョエルが今後、どのように成長するかは不透明ではありますが、
一旦の成功を手にしたジョエルからすれば、プリンストン大学に入学するチャンスを得たとは言え、
名門大学で学ぶ経営学がジョエルにどう映るかと言われる、ひょっとしたら彼には空虚なものに映るかもしれませんね。

ひょっとしたら、この時代にジョエルのような体験をした当時の若者が
80年代のバブリーな時代を作り上げたのかもしれませ。それが良かったのか、悪かったのかは分かりませんが。。。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ポール・ブリックマン
製作 ジョン・アブネット
   スティーブ・ティッシュ
脚本 ポール・ブリックマン
撮影 レイナルド・ヴィラロボス
   ブルース・サーティース
音楽 タンジェリン・ドリーム
出演 トム・クルーズ
   レベッカ・デモーネイ
   カーティス・アームストロング
   ブロンソン・ピチョット
   ラファエル・スバージ
   ジョー・パントリアーノ
   ニコラス・アンダーソン
   ケビン・アンダーソン