卒業白書(1983年アメリカ)

Risky Business

トム・クルーズが初期にこういう映画に出演していたこと自体が驚きと言えば驚きですが、
両親が不在中にコールガールと組んで、ひと稼ぎを目論む姿を描いた青春ドラマ。

おりしも、トム・クルーズは“ブラッド・パック”と呼ばれた、
当時のハリウッドでも期待されていた若手俳優の一人であり、本作がヒットしたことにより、
86年の『トップガン』への出演があったと言っても過言ではないぐらい、本作の存在は大きいです。

正直言って、映画の出来としてはたいした出来はなく、
当時、ハリウッドでも大流行りだった、年上の女性に高校生が性の手ほどきを受けるという映画の中でも、
もっと出来の良い映画があったと思うし、本作はトム・クルーズではなく、ヒロインを演じたレベッカ・デモーネイの
存在の方が大きい映画という印象で、おそらく彼女がキャストされなければ、映画は魅力的にならなかっただろう。

監督ポール・ブリックマンはあまり知名度は高くないのですが、
どうやら脚本家出身のようで、89年に日本では劇場未公開作扱いですが、
ジェシカ・ラング主演で『メン・ドント・リーブ』を撮った以外は、監督業としての仕事は無いみたいですね。

実際、本作も脚本が良く描けているというほどではないと思うのですが、
やはり経営を勉強したい青年がコールガールとひと儲けという発想自体は、斬新だったのかもしれませんね。

音楽も当時、流行りの選曲になっていて、ある意味で本作は当時のライフスタイルを象徴しているのかも。
音楽の主担当がタンジェリン・ドリーム≠セというのも驚きで、当時、映画音楽にも携わっていたようですが、
ここまで規模の大きな映画の音楽も担当していたんですね。思えば、エンディングの曲は彼ららしかったかも。

日本でも、クラフトワーク≠ネどヨーロッパ音楽に注目が集まったせいか、
ドイツ出身のタンジェリン・ドリーム≠煦齊條、人気があったようで、今は日本人メンバーもいるようです。

まだ、この頃のトム・クルーズは初々しさを隠せず、
どことなく少年っぽさも残っているせいか、彼がサングラスをかけても悪ガキという風にしか映らない。
しかし、ある意味でこの映画はそういったイメージを利用していて、結局は女性が一枚上手であるという、
この手の映画のセオリーをしっかりと常に観客に意識させる作りになっているのが、大きなポイント。

そういう意味で、やはりこのレベッカ・デモーネイのキャスティングは絶妙でしたね。

かの有名な窓辺でのラブシーンにしても、地下鉄でもラブシーンにしても、
どこか主人公が彼女に操縦されているという感覚があって、この辺のバランス感覚がとても良いですね。
ポール・ブリックマンも数多くの映画を撮っているわけではありませんが、このバランス感覚は良かったですね。

とは言え、おそらくもっと映画の出来を良く出来たとは思う。
まず、コメディ映画としては致命的なほどに笑える部分が無いということである。
やはりこの手の映画にあっては、少しでも笑える箇所がないと、映画としては苦しいでしょう。
主人公がジョー・パントリアーノ演じるヒモに追い掛け回されたりするエピソードを観たって、
この映画がコメディ寄りであることは明白なわけで、そうなのであれば、もっと映画を盛り上げて欲しい。

せいぜい、儲けたお金で家具を買い戻すというとこぐらいで、
それ以外に目立った笑えるエピソードもギャグも無くって、作り手が何を狙っているのかよく分かりませんでした。

いや、これが仮にレベッカ・デモーネイのセクシーさだけを見せたい映画だと言うのなら、
極端な話し、僕はそれだけでも映画は十分に成立するとは思うのですが、その割りには中途半端ですよね。
トム・クルーズにしたって、もっと引き立たせられる描かれ方をしたっていいと思うのですが、これも中途半端。

だからこそ、この映画はトム・クルーズ主演作としての存在感が薄いんじゃないですかね。
少なくとも僕は、この映画はトム・クルーズのキャリアの中ではとても大きな存在ではないかと思うんですがねぇ。

この映画での共演が縁で、トム・クルーズとレベッカ・デモーネイは数年間、
同棲生活を送ることになるのですが、なんだかその展開も凄いですね。映画の内容が内容なだけに(笑)。
残念ながらレベッカ・デモーネイはトップ女優になることはできませんでしたが、本編を観る限り、
おそらく彼女の出演作としては91年の『ゆりかごを揺らす手』に続くベスト・アクトではないでしょうか。

80年代に誕生した青春映画としては、かなり異質な作品ではありますが、
トム・クルーズのファンなら外せない一本でしょうし、何よりこの時代の空気を象徴した作品として観ておきたいです。
特にオープニング・クレジットで、夜間、都心部を疾走する地下鉄から映した街の空気感が、たまらないですね(笑)。

個人的にはクライマックスでアッサリと部屋を片付け終わってしまうよりも、
結果的にとっ散らかったまま間に合わなかったという展開に期待したのですが、
どうも本作の作り手が考えていたことは違ったようで、やはり作り手自身も他の青春映画とは一線を画すような、
チョット違ったことをしたいと思っていたようですね。それが一概に良い方向に進んでいるとは限らないんだけど。

あと、欲を言えば、主人公を狙うヒモ男を演じたジョー・パントリアーノが弱過ぎる。
この役者さん、93年の『逃亡者』なんかで印象深い存在感を示していたのですが、
映画を引き立たせる名バイプレイヤーの一人なのですが、ここまで目立つ役だと、なんだか違和感が(笑)。

それと、もっといやらしい役柄にできそうな気がするんですが、
どうも映画を良い意味でかき乱す存在にならず、いやらしい悪党にはなり切れないあたりが物足りないですね。

結局、主人公に同情的になってしまうという、訳の分からないヒモになってしまい、
どうせなら、もっと執拗に主人公をつけ狙う存在になって、映画を盛り上げて欲しかったですね。
この辺が本作の中でのスリルが生じなかった大きな原因なのかもしれません。どうも、これは勿体ない。

まぁ18歳の少年が、両親が数日、不在となれば、家で悪いコトやろうと考えるのは当然で、
この映画の主人公の両親も、多少、ステレオタイプな感じで、主人公を信じ切っているというのも妙だ。
こういう細部はもっと丁寧に描いていれば、映画は変わっていたでしょうけれども、こういう部分を観てしまうと、
ポール・ブリックマンが脚本家出身の映画監督であるというのが、にわかに信じ難いんですよねぇ・・・(苦笑)。

そういえば、何故か家具屋でヒロインのラナがベッドに横になって、
主人公をベッドに招き入れるというシーンがあるのですが、これが現実にあったら、なんかイヤですね(笑)。

さすがのトム・クルーズも躊躇していたようですがね・・・(笑)。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ポール・ブリックマン
製作 ジョン・アブネット
    スティーブ・ティッシュ
脚本 ポール・ブリックマン
撮影 レイナルド・ヴィラロボス
    ブルース・サーティース
音楽 タンジェリン・ドリーム
出演 トム・クルーズ
    レベッカ・デモーネイ
    カーティス・アームストロング
    ブロンソン・ピチョット
    ラファエル・スバージ
    ジョー・パントリアーノ
    ニコラス・アンダーソン
    ケビン・アンダーソン