リオ・ブラボー(1959年アメリカ)
Rio Bravo
名匠ハワード・ホークスと西部劇スターのジョン・ウェインのコンビ作の一つ。
ディーン・マーチンにウォルター・ブレナン、アンジー・ディッキンソンと今思えばキャストも豪華で
特にアンジー・ディッキンソン演じる女ギャンブラーのフェザーズなんかは、当時の女性像としては先進的で
ハワード・ホークスが好んで描いたとされる、スマートで男性にも積極的でとても強気な女性像を見事に体現している。
このアンジー・ディッキンソン、着替えのシーンがあったりして下世話な話しではありますが...
この当時の映画の表現としては、ハワード・ホークスなりにかなり“攻めた”映画でもあるのかなぁと思います。
ジョン・ウェインの代表作でもあるし、ハワード・ホークスが本作で描きたかったことは分かるんだけれども、
個人的にはどうにもノリ切れない作品でして、あまり良い印象を持てなかった。俗な感想にしかすぎませんが、
もう少ししっかりと盛り上がるところが欲しくって、胸躍るようなワクワク感が本作からは感じられないんですよね。。。
確かにアンジー・ディッキンソン演じるフェザーズが飛び抜けて良いキャラクターなのですが、
やっぱりジョン・ウェインとの年齢差が気になってしまうし、どうして粗野で年老いた保安官である主人公に
惚れてしまうのかがよく分からず、僕は映画の最後まで“違う”目的があるのだろうと、穿った見方をしてしまった。
ところが映画は何も波乱が無く、フェザーズの納得性が今一つに感じられる。もっと違った描き方があるだろう。
それにしても、この主人公も保安官という身でありながら、自分勝手にフェザーズの部屋に
ズケズケと上がり込んでいく姿があるというのも、この時代だからなのでしょうが、チョット驚かされる。
こういう西部の世界の女性観って、何気に後年のイーストウッドの映画なんかにも色濃く影響しているように見えます。
アルコール依存症に苦しみ、すっかり銃を撃ったり、西部の町の保安官らしいことができなくなっていた、
相棒を演じるディーン・マーチンにしても、相変わらずの美声を聞かせるシーンはあるが、それ以外の見せ場が皆無。
一緒になって、ギター伴奏でカントリー・ソングを歌うリッキー・ネルソンも印象的だが、イマイチ前に出てこない。
とすると、やっぱりこの映画の親玉はジョン・ウェインのはずなんだ。ところが、もうこの頃のジョン・ウェインに
キレのある動きをしろと言っても無理だっただろうし、ハワード・ホークスも違った志向の映画を撮りたかったみたいだ。
まぁ、映画のクライマックスにやっと直接対決するシーンがやってきて、
ウォルター・ブレナン演じる牢屋の監視役のスタンピーが投げるダイナマイトを、ジョン・ウェインが全て
ダイナマイト本体に銃弾を命中させて、相手のアジトとなる家を燃やしてしまうという、スゴい発想のラストシーンだ。
これも、そこまで凄腕のガンマンだったのかと、映画のラストになってやっと主人公の能力の高さを見せ始める。
それまでも、遠巻きに逃げていく馬上の男を、ライフルで撃ち殺したりカッコ良いシーンもあるにはあるのですが、
具体的に主人公が西部の世界で生き残る能力の高さを見せたのは、唯一、このラストシーンということになるだろう。
それには、さすがに遅過ぎた。つまり、あまりに時間がかかり過ぎだ。なんせ、この映画、2時間を大きく超えるので。
このゆったりとした時間の使い方も含めて、ハワード・ホークスの狙い通りなのだろうけど、
これが西部劇の醍醐味と言ってもいいジョン・ウェインの所作をジックリと撮っている良さはあるものの、
悪く言えば、全体的に冗長な傾向にあるように感じられた。もっとタイトにまとめようと思えば、出来たように思える。
しかし、それでも本作のようにドシッと構えたキャラクターを演じ続けたからこそ、
ジョン・ウェインは長年、西部劇のスター俳優として君臨し続けられたのだろう。本作はその典型だと思う。
個人的には、晩年になって、ようやっと出演したような現代劇にもっと積極的に出演して、
俳優としての新しい魅力を探って欲しかった気もしたけど、一方でジョン・ウェインは押しも押されぬヒーロー俳優だ。
そのイメージは固定化していただろうし、彼のファンが見たかったものはやはりガン・ファイトであったことは間違いない。
だからこそ、ジョン・ウェインは老いても尚、西部劇か戦争映画にしか出演せず、彼のポリシーを貫いたのだろう。
そう思って観れば、主人公の相棒を演じたディーン・マーチンにしても、うるさい牢屋晩の爺さんスタンピーを
演じたウォルター・ブレナンにしても、しっかりとジョン・ウェインに花を持たせるために割り切ったポジションに徹し、
主演のジョン・ウェインの邪魔にならない程度に存在感を出していた。ジョン・ウェインは大きな存在だったのだろう。
ジョン・ウェインも激しいガン・アクションが体力的にキツくなってきた頃の出演作品だったこともあり、
敵対する勢力の一味から銃で脅された主人公がやって来て、向う見ずな若者を演じたリッキー・ネルソンが
機転を利かせてアンジー・ディッキンソン演じるフェザーズに、物を投げて窓ガラスを割るように指示して、
相手の気を逸らして主人公のピンチを救うなど、激しいアクション・シーンが無くても盛り上がるように工夫しています。
おそらく当時のジョン・ウェイン自身もそれなりに自覚はあったのだろうし、
それは前述したクライマックスのダイナマイトを使ったアクション・シーンの派手な演出にも、よく表れている。
言葉は悪いですけど、あれだけド派手な演出をすれば、多少なりともキャストが体を張らなくても満足感が出ますからね。
まるで戦争映画であるかの如く、ド派手に敵対勢力のアジトを爆破していく演出に驚かされるけど、
思ったほど、敵の連中が強くないというのは僕の中ではマイナスかな。やっぱり強い悪党じゃないと倒し甲斐が無い。
どうやら、クエンティン・タランティーノら多くの映画人が本作のことをリスペクトしているようなので、
特に欧米の方々が感じる西部劇の醍醐味を得られる作品なのだろうと思うし、押しも押されぬ名作の一つなのだろう。
ただ、正直言って、馬上のアクションだとか早撃ちとか動的なシーンが欲しい人には、少々物足りないかと思います。
映画の尺としても、2時間20分ほどあるので結構な長編であるという点からしても、
中身のヴォリューム感がスゴいというよりも、敢えてゆったりと時間を使った映画という印象があるせいか、
ここは賛否が分かれるところだと思う。正直、僕はこの内容ならばもっとタイトにまとめることは出来ただろうと思うし、
逆に相棒のアルコール依存症についてはあまり掘り下げないなど、拡げられるのに拡げない部分も物足りなさが残る。
ディーン・マーチン演じる相棒のアルコール依存については、手が震えたり、コップを手に取るのに悩んだりと、
それなりに触れてはいるのですが、どうせ描くのあれば、もっと彼の依存症が弊害となって失敗してしまったり、
克服にあたってのハードルをしっかり描いて、克服したときの爽快感を表現できるようにして欲しかったですね。
まぁ、足を撃たれたはずの人間がどうやってバーの天井に上がるんだ?って疑問はあるけど(笑)、
それでもディーン・マーチンがバーに逃げ込んだと睨んで入って、逃亡者を探すものの見つからず、
それどころか他の客から自身のアルコール依存症を笑われて、「飲めよ!」と囃し立てられて苦悩の表情を浮かべつつ、
天井からコップに垂れてきた血を見て、天井に向かって銃撃して、一発で相手を仕留めるシーンはカッコ良かった。
こういうシーンを観ると、ハワード・ホークスが名匠たる所以が分かるし、本作がリスペクトされる所以なのだろう。
しかし、こうして観るとジョン・ウェインの高齢化に伴って、ハリウッドの西部劇の熱も冷めていった気がします。
つまり、やっぱりハリウッドに於ける西部劇の歴史というのはジョン・ウェインのキャリアそのものであって、
彼が肉体的な衰えからも激しいアクションをこなせなくなり、役柄も変わっていくと同時に西部劇のヒット作は減っていく。
それゆえか、60年代に入るとニューシネマ感が色濃く出始めるイタリアの“マカロニ・ウエスタン”が
世界的に流行するようになり、そこから凱旋的にイーストウッドがスターダムを駆け上がることになっていきます。
これは一つの世代交代でもあったわけですが、同時にハリウッドに於ける西部劇のステージの終焉を感じさせます。
実際にジョン・ウェインの遺作となった76年の『ラスト・シューティスト』は自ら西部劇の息の根を止めた感すらありました。
ちなみに本作、カラー撮影された作品ですが当時のテクニカラーの技術は素晴らしいと思う。
やっぱりフィルムの色合いからしても、実に美しい。本作は屋外撮影の美しさは特筆に値すると思いました。
そうなだけに、もう少し僕はこの映画を楽しみたかったというのが本音なのですよね。
これで2時間くらいにまとめてくれて、アクション的な見せ場をもう少し前半にも配分してくれていれば、
僕の中での本作の印象は変わっていたと思いますが、どうしても緩慢な部分のある映画という印象を持ってしまった。
まぁ、撮影当時20代であったアンジー・ディッキンソンが実に堂々たる存在感を示して、
ジョン・ウェインとのキスシーンもアッサリこなしちゃう強い女性ぶりを観るだけでも、十分に価値ある作品だけども・・・。
(上映時間141分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 ハワ−ド・ホークス
製作 ハワード・ホークス
原作 B・H・マッキャンベル
脚本 ジュールス・ファースマン
リー・ブラケット
撮影 ラッセル・ハーラン
編集 フォルマー・ブラングステッド
音楽 ディミトリ・ティオムキン
出演 ジョン・ウェイン
ディーン・マーチン
リッキー・ネルソン
アンジー・ディッキンソン
ウォルター・ブレナン
ウォード・ボンド
ジョン・ラッセル