ボーダー(2008年アメリカ)

Righteous Kill

これは製作段階から、大きな話題となっていたのですが、
実にアッサリと劇場公開が終わってしまったことから、凄く気になっていたのですが、
何故、話題にならなかった理由がよく分かる映画でしたね。確かにこれは映画の出来が芳しくない。

『ゴッドファーザーPARTU』、『ヒート』に続いて、13年ぶり3回目の共演になった、
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノなのですが、何故、こんな映画で共演ということになったのだろうか?

なんでも、デ・ニーロが脚本を読んで随分と気に入ったらしく、
相棒の刑事役にアル・パチーノをキャスティングすることを熱望したらしいのですが、
お世辞にも脚本の段階から、この映画が大傑作になったと予感させるような内容だったとは思えない。

かなり辛口な感想になってしまったのですが...
でも、ホントにこれは納得がいきません。内容的には、日本劇場未公開になってしまっても、
何らおかしくはない出来であり、ラストの謎解きになるあたりは、かなり安っぽい。

確かに『ヒート』では、幾つかのシーンで共演した程度で、
オマケに同一ショットでカメラに映っているのがほとんどなかったせいか、
撮影中、2人は露骨に不仲であったなど、様々な憶測やゴシップを生んだことが記憶されますが、
本作はそんなゴシップなど、全て吹き飛ばしてしまうぐらい、実に大いに共演しています(笑)。

映画は性格的に荒っぽい部分があるベテラン刑事タークと、
そんな彼と30年来のコンビを組む、やはりベテラン刑事ルースターが2人で連続殺人捜査にあたる
姿を描いているのですが、やがてタークに疑惑の目が向けられる様子を描いています。

これはまず、映画をまとめる立場にあるディレクターが悪い。
半分、キャストの魅力に依存した部分が見え隠れすることは否定できませんし、
演出が不在になってしまっているかのように、まるで魅力の感じられない作品になってしまっている。
言ってしまえば、キャストにお金をかけて“火曜サスペンス劇場”を作ったようなもので、
ハッキリ言って、別にデ・ニーロとアル・パチーノを共演させるほどの内容とも言えない。

正直言って、アメリカでは評論化筋に酷評されたという理由がよく分かる内容なんですね。

一応、映画は謎解きをベースとしており、連続殺人犯の正体を追い始めます。
中にはこういう映画を渋い映画と評する人もいるかとは思いますが、どうせならもっとストイックな面を活かして、
タークとルースター、2人の微妙に異なる性格をキチッと観客に見せておくべきだと思うのですよね。

映画はほぼ一方的にタークを描きますので、
半ば観客の注意はタークにいってしまうのですが、この誘導がかなり露骨で稚拙な感じで残念。

たいへん申し訳ない言い方ではありますが、もっと用意周到に描いて欲しかったですね。
あまりに安直な感じになってしまい、作り手の上手さというものが全く感じられません。
やたらと気が短い性格のタークというのも、やや類型的過ぎる傾向が目に付きますし、
特に少年野球の試合で退場になるほどの短気というのは、伏線というには、やや荒っぽ過ぎる気がします。

それゆえ、全体的に映画が短絡的になってしまい、どうにもサスペンスが盛り上がりませんね。
この辺はジョン・アブネットの手腕を象徴していると言っても、過言ではなく、本作の評価が伸び悩んだ、
最も大きな要因であったと思いますね。でも、このシナリオでは仕方のない出来かなぁとも思いますね。

タークの役柄は正義感が強いあまりに、
せっかく逮捕しても、のうのうと社会に戻ってきてしまう不条理を許せないと考える男で、
それゆえ短気を起こすもんだから、長年、彼の相棒であるルースターは心配が絶えない。

但し、この映画の大きなポイントは敢えてルースターの内面を掘り下げていないところだ。
見方を変えれば、これ自体が大きな伏線となっているだけに、それなりに意味がある。

正直に言うと、僕はルースターも掘り下げたほうが良かったと思うのですが、
おそらく作り手は、映画のポイントがブレてしまったり、映画のオチに結び付けるために、
整合性をとる必要があるものですから、ルースターの描写に時間を割くのは賢明ではないと
判断したのでしょうが、これがかえって逆効果だったと思いますね。映画が安っぽくなってしまいました。

アクション・シーンも僅かにあるのですが、
既に60代も後半に差し掛かったデ・ニーロとアル・パチーノの2人が奮闘しています。
(70歳目前ではあれど、銃を構えるアル・パチーノ兄貴は相変わらずカッコいい〜)

待望の2大スター顔合わせという企画で期待していたのですが・・・
やっぱり、これは企画倒れの感が強い映画になってしまいましたね。
最後の最後までデ・ニーロがこの映画でアル・パチーノとの共演を熱望した意味が分かりませんでした。
あまりに良い要素が見当たらなくって、企画の大きさに負けてしまった典型例って感じです。

デ・ニーロとアル・パチーノの共演もさることながら、
カーラ・グギーノ、ジョン・レグイザモ、ブライアン・デネヒーと脇役も地味に豪華。

キャスティングって、僕は映画にとって大きな要素であると思っているのですが、
さすがにここまで中身が粗末なものになってしまうと、全く意味を為さなくなってしまいますね。

できることならば、もう一回やり直して欲しい・・・(笑)。

(上映時間100分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG-12]

監督 ジョン・アブネット
製作 ジョン・アブネット
    ランドール・エメット
    ラティ・グロブマン
    アヴィ・ラーナー
    アレクサンドラ・ミルチャン
    ダニエル・M・ローゼンバーグ
    ロブ・コーワン
脚本 ラッセル・ジェウィルス
撮影 デニス・レノア
編集 ポール・ハーシュ
音楽 エド・シェアマー
出演 ロバート・デ・ニーロ
    アル・パチーノ
    カーティス・ジャクソン
    カーラ・グギーノ
    ジョン・レグイザモ
    ブライアン・デネヒー
    ドニー・ウォールバーグ
    トリルビー・グローバー
    メリッサ・レオ
    オレッグ・タクタロフ

2008年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(アル・パチーノ) ノミネート