レクイエム・フォー・ドリーム(2000年アメリカ)

Requiem For A Dream

確かに僕もこの映画を当時、劇場で観たときにインパクトは強かったですね。

『π』のダーレン・アロノフスキーが飛躍するキッカケとなった作品ではありますが、
そりゃこのショッキングな内容では、数多くの方々が衝撃を受けた理由はよく分かります。

ひじょうに分かり易い反ドラッグ・ムービーではありますが、
最初に敢えて釘を指しておきますが...これは別に斬新な映画というわけではありません。

そもそもがドラッグにより、壮絶な転落人生を遂げるというのは
別に今に始まった珍しい話しではありませんし、分割画面は20年前にデ・パルマが採った手法。
高速度撮影(早回し)編集は、40年近く前にトニー・リチャードソンが採った手法だ。
ですから、僕は本作でダーレン・アロノフスキーが披露した演出そのものが斬新だとは感じませんね。

でも、この映画、何が凄いかって、
ドラッグ・ジャンキーの母親を演じたエレン・バースティンの怪演を引き出したことだ。

元々、エレン・バースティンが凄い女優だということは、よく知っていましたが、
本作でダイエット・ピルにハマって、息子と同じくドラッグ・ジャンキーへと転落していく姿を、
ある種の悲壮感を漂わせて表現できているのが圧巻で、彼女の姿には唖然とさせられます。

テレビ出演が決定したとされる、騙しとも思える電話やハガキを心の拠に、
彼女はかつてのスリムな体型を取り戻すために、ダイエット・ピルに手を伸ばすわけなのですが、
彼女自身、ダイエット・ピルの恐ろしさ、正体を知っていて手を伸ばしたわけではなく、
ホントに効果のある良い薬だと信じて診療所へ通っているから、観ていて胸が痛いですね。

息子は息子で、ドラッグ・ディーラーとして暗躍しようと、
その際に恋人と一緒に少しずつ扱うドラッグを味わっていたのですが、
次第に彼らはドラッグ・ジャンキーになってしまい、身を滅ぼすまでドップリとハマってしまいます。

「オレたちは確かに、クスリをやるけど、オレたちは大丈夫...」
こんな考えが、彼らのどこかから感じられるのですが、結局、2人は破滅へと向かってしまいます。

ドラッグは安定的に手に入るわけではなく、一時的にリッチになった経済状況も、
アッという間に困窮し、金が無くなった途端、ドラッグを入手することが難しくなってしまいます。
そうなると彼らはドラッグを求めてケンカを始め、通常では信じられない行動に出てしまいます。
この辺の影響力の強さは、ドラッグの恐ろしさであり、二度と戻れない恐ろしさを象徴できていますね。

劇場公開当時、ミニシアター系で大ヒットしていましたが、
ひじょうに観ていて気が滅入ってくる内容ですので、あれだけのヒットとなったというのは、
それだけ昨今の映画には無いフィーリングを、この映画は持っていたということなのでしょう。
そういう意味で、本作は70年代のアメリカン・ニューシネマの重苦しさを持っていると思うんですよね。
(ちなみに本作は09年のイギリス雑誌の特集で「観ると落ち込む映画No.1」に選ばれたらしい...)

精神的にムチ打つような重たさという意味では、
69年の『ひとりぼっちの青春』なんかの方がずっと凄かったと思うし、
当時、本作が製作されていれば、ほぼ間違いなく高く評価されていたことでしょう。

たぶん、ダーレン・アロノフスキーって、アメリカン・ニューシネマを観て育った世代なんでしょうね。
あの時代の映画に憧れていたからこそ、本作のような作品が誕生したわけで、
それが当時、ほとんど希薄だったものだから、かえって新鮮に感じられたのでしょうね。

まぁ・・・それでもしっかり作り込まれた作品だとは思いますね。
矢継ぎ早にダイエット・ピルの飲んだり、ヘロインを吸入したりして、理性では止められない状態を
カット割りを使って、巧みに表現できていると思うし、執拗に繰り返して常習性を演出できていますね。
それがクドくなり過ぎず、ほど良い具合の反復だったものですから、ひじょうにバランスが良いですね。

原作は『ブルックリン最終出口』のヒューバート・セルビーJr。
『ブルックリン最終出口』もそうでしたが、ノーマルな生活をしていた一般市民が、
ひょんな落とし穴から、ドツボにハマり抜け出せなくなり、破滅へと向っていく様子を克明に描いていますね。

エレン・バースティン演じるダイエットに夢中になる母親が
ダイエット・ピルの影響で幻覚を見るようになるシークエンスがあるのですが、
何度も何度も見せられるテレビ番組の映像が、ある意味で宗教的な儀式であるかのように見え、
やがては現実と虚構の境界線が分からなくなってしまう様子が、ひじょうに怖いですね。

最近は病院で処方される薬についても情報公開が当たり前になってきたから変わりましたけど、
かつては一体、どんな薬なのかも分からないことが多かったですからねぇ。
何なのかも分からず、ただ妄信的に服用してしまい、いつの間にか身を滅ぼすというのも怖い。

日本でも以前は、「お医者様の言うことだから、正しいんだろう」と言って、
何でも鵜呑みにしている人も数多くいましたが、最近は一般人でも詳しい人が増えましたからねぇ。

そういう意味でエレン・バースティング演じるサラは、
家に閉じこもる孤独な老後を過ごすことを強いられたことによる、現代社会の犠牲者かもしれない。。。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15]

監督 ダーレン・アロノフスキー
製作 エリック・ワトソン
    パーマー・ウェスト
原作 ヒューバート・セルビーJr
脚本 ヒューバート・セルビーJr
    ダーレン・アロノフスキー
撮影 マシュー・リバティーク
音楽 クリント・マンセル
出演 エレン・バースティン
    ジャレット・レト
    ジェニファー・コネリー
    マーロン・ウェイアンズ
    クリストファー・マクドナルド
    キース・デビッド
    ディラン・ベイカー

2000年度アカデミー主演女優賞(エレン・バースティン) ノミネート
2000年度シカゴ映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度ボストン映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度カンザス映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(エレン・バースティン) 受賞
2000年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(マシュー・リバティーク) 受賞