レプリカズ(2017年アメリカ)
Replicas
劇場公開当時、酷評されたSFサスペンスですが、これがまた・・・結構なトンデモ映画でした(苦笑)。
いやはや、確かにこれは酷評されそうなストーリー展開ではある。
まぁ・・・ただ、面白いと言えば、面白い部分はありますよ。結構、予想外なプロットもあるにはありましたし。
しかし、お世辞にも出来が良い映画とは言えず、見方によればもの凄いB級感漂うSF映画なので賛否は分かれる。
よりによって、自らプロデュースにクレジットされるほど意気込みがあった、
キアヌ・リーブスが主演を務めているのですが、中身的には結構なマッド・サイエンティストを演じていて、
これはこれで予想外なキャスティングだ。しかし、彼がこの企画のどこに惹かれていたのかは、まったくの謎。
そもそも、この映画の舞台となるのが南の島のような設定ですが、どこかは詳しく語られておらず、
しかも、わざわざこういう場所を物語の舞台にした意図がよく分からない。しかも、自分の不注意で起こした
交通事故が原因で家族が死んでしまったからといって、家族の遺体から神経情報を抜き取って、
“ポッド”と呼ばれるクローンの素材に対して、情報を注入してクローン人間を作って、自分と一緒に暮らそうなんて、
冷静に考えたら、スゴい発想の企画だったと思います。周囲に不審に思われずに過ごすため家族の携帯をいじって、
愛娘への男の子からのデートを誘うメッセージにいちいち返信つけようとする姿にいたっては、ほぼほぼギャグです。
っていうか、キアヌ・リーブスがこんな役を演じるようになったということ自体、時代の変化を感じますね(笑)。
娘のクラス担任が家を訪れてきて、ドギマギしながら対応するキアヌ・リーブスなんて貴重な映像ですけど(笑)、
この辺のやり取りもアッサリと終わらせ過ぎですね。どうせ、動的な見せ場が少ない映画なのですから、
クローン技術を行使した事実を隠すために、色々と工作しなければならない緊張感はもっと前面に出して良かったなぁ。
彼が演じるウィリアムは有能な科学者なのだろうけど、結構なマッド・サイエンティストだ。
映画の中では技術的・学術的な説明はほぼ為されていないので、あくまで架空のクローニング技術だけど、
仮にこの映画で描かれたことが可能になったにしろ、自分の死んだ家族をこんな風にして取り戻そうと、
実際に行動に移してしまうあたり、常人には理解しがたいところがある。科学者であれば、尚更のことだろう。
ウィリアムを雇っている謎の研究所の正体も、映画のクライマックスで明かされるのですが、
これがまた取って付けたような理由づけで、全く納得性が無い。この辺は70年代に流行ったチープなSF映画っぽい。
倫理的なものを説いても仕方ないが、、家族が交通事故死してしまったという現実を目の当たりにして、
自分の技術を使いたくなる気持ちは分かるけど、それでも実際にクローン技術を使って蘇らせて、
仮に事故時と同じ年代の身体と記憶だったとしても、素直な気持ちで一緒に暮らせるのだろうか?と疑問に思える。
まぁ、それが科学者倫理というものなのかもしれませんが、家族が家族じゃない気がして、
僕なら受け入れられない家族の継続の仕方のような気がする。ましてや友人に愛する遺体を処理しろと
言えてしまう心情がまるで理解できないし、主人公は一見すると家族愛に溢れたパパなのかもしれないけど、
やってることは、結構なマッド・サイエンティストでこれは家族愛に基づいた行動ではなく、単に自分勝手なだけですね。
家族のことを想ってクローン技術を使うことを決断したというよりも、これは完全に自分のことしか考えていない(苦笑)。
それを映画の最後まで、主人公が家族愛を基に行動しているかのように描いていて、
挙句の果てには作製してしまったクローン人間は見過ごせないと、企業側が“始末屋”を手配したら、
今度はなんとかしてクローンが始末されないようにと、主人公があやれこれやと手を尽くすのですが、
確かにクローン人間とは言え、完全に家族なので始末されるのを容認できないだろうが、生かすのも正義というのは
少々違和感がないわけでもなくって、それでもこの映画はクローン人間と共存することが正義と言わんかばりに
最後まで突っ走って、ラストシーンに至ってはかなり突き抜けてしまった在り方で、映画を終わらせるという力技にでる。
このラストは僕の予想の遥か上をいくラストだったので、個人的には嫌いになれないんだけど、
それまでのメチャクチャな展開があまりに支離滅裂な感じで、このラストまでどれくらいの人が付いて行けるかが問題。
この映画、もう少しアクション・シーンに力を入れたら良かったのに・・・とは思いました。
どうせ、ストーリーは良くも悪くも破綻しているので、企業側がクローンたちを追跡して始末しようとするシークエンスは
もっとスリリングなものとして描いて欲しかったし、クローンたちからの反撃があるくらいの破天荒さがあった方が良い。
全体的にあまりに静かなアクション・シーンという感じだし、スリルの欠片も感じられない弛緩した雰囲気はダメですね。
企画段階では違う人がメガホンを取る予定だったらしいので、
監督のジェフリー・ナックマノフは途中から起用されたようですが、これはやりづらい仕事だったでしょう。
だったら、これは完全にアクション映画に作り変えて欲しかった。さすがにSFの要素だけで押し切るのは難しいと思う。
前述したように、技術的・学術的にどういうロジックでクローンを作製する技術なのかも
語られていないので、これだけSF映画が数多く製作された2010年代に展開する映画として、これはキツい。
それなら最初っから作り手も開き直って、追いつ追われつのスリリングな攻防があるアクションにした方が良かった。
キアヌ・リーブスが主演であれば、それが出来たであろうと思えるだけに、この支離滅裂さをカバーできなかったのは、
本作にとっては致命傷だったと言っても過言ではなく、ここはジェフリー・ナックマノフの裁量でどうにか出来たはず。
この企業側との攻防と言えば、主人公が開発したアルゴリズムを企業側に渡さないためにと、
データ保存していたメディアをアルミホイルに包んで電子レンジに入れるという古典的な方法で処分して、
それでも尚、追跡してきたので主人公が自分の脳内にあるアルゴリズムをネタにして、交渉しようとしますが、
さすがにこれは無理があると思った(笑)。どの程度の情報量なのかは知りませんが、トンデモない記録力ですね。
また、このアルゴリズムを含む脳内情報を抜き取るために目に針を刺すというのも、またスゴい話しだ。
これを主人公が自らPCを操作してブッ刺すなんて想像を絶するのですが、それをトイレの個室でやるのもスゴい(笑)。
映画の本筋とは関係ないのかもしれないけど、映画の冒頭で描かれていたロボットに
亡くなったばかりの人間の神経をコピーして、ロボットの人工脳にその遺体の人間の意識を植え付けるって話しと、
事故死した家族の情報をポッドにコピーして、クローン人間を作製するという話しの共通点がよく分からないなぁ。
技術的には全く別物のような気がするんだけど、これらを同一視するのは相当に無理な話しに見えましたね。
「技術の進歩はスゴいので、近いうちに不可能が可能になっている」とは言うけど、
勿論、細かく見ていけば、そういったことはあるのだけれども、例えば本作で描かれたような事故直前の
家族のクローン人間を作製するとか、そういった都合良くクローンを作るというのは、凄まじくハードルが高いことだ。
理論的にもどうやったら、そうなるのかは僕には想像がつかない。ここまで都合良く出来る時代は、遠い未来だろう。
それはそうと、何故、この映画は末娘を養子であるという設定にこだわりを持たせたのだろうか。
ポッドが足りないという要素があるにしろ、敢えて養子であるという設定にこわだった理由がよく分からない。
養子だったから、ポッドが足りないときに優先順位を下げられたとでもしたいのか、その意図が分からないのですが、
もう少し違った形で描いても良かったのではないかと思う。この決断をアッサリ下したことにも、違和感があったし・・・。
というわけで、本作は色々と苦しい内容の映画です。
前提となるストーリーも苦しいし、映画の調子も定まらず、ところどころギャグのように見えてしまうのも賛否がある。
せっかく、主人公家族が追われる立場になるチェイス・シーンがあるにも関わらず、これもまた盛り上がらずに終わる。
ポジティヴに考えるところがあるとすれば、このギャグのような予想外なラストが面白いのだけれども、
前述したように、それまでがあまりにメチャクチャなので、そこまで我慢できるかが本作を楽しむ上でのカギでしょう。
さすがにキアヌ・リーブス主演というキーワードだけで、映画の魅力を引き立てることは、もう難しいですしねぇ。
ところで、この映画を観終わって疑問だったのですが...あの研究施設ってどうなったのだろうか・・・?
(上映時間107分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 ジェフリー・ナックマノフ
製作 ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ
マーク・ギャオ
スティーブ・ハメル
キアヌ・リーブス
ルイス・A・リーフコール
原案 スティーブ・ハメル
脚本 チャド・セント・ジョン
撮影 ジェイソン・ヘルマン
ペドロ・ハビエル・ムニス
音楽 マーク・キリアン
ホセ・オヘダ
出演 キアヌ・リーブス
アリス・イブ
トーマス・ミドルディッチ
ジョン・オーティス
エムジェイ・ソンソニー
エミリー・アリン・リンド
アリア・リリック・リーブ