タイタンズを忘れない(2000年アメリカ)

Remember The Titans

ジェリー・ブラッカイマーがハリウッドで幅を利かせ、幾多の莫大な予算を投じた大作を
世界的ヒットさせていた、ある意味で一番、風当たりが強かった時代のプロデュース作品だ。

とは言え、本作はジェリー・ブラッカイマーとしては珍しく、実質的にはスポ根映画になっており、
人種の壁を乗り越えて、肌の色に関係なくチームとして団結し、勝ち進んでいく高校アメフトを描いている。
当時はハリウッドでもマネーメイキング・スターとしての地位を確立しつつあったデンゼル・ワシントン主演で、
劇場公開当時は日本でもヒットしていましたし、本国アメリカでもスマッシュ・ヒットと言える結果でした。

物語の舞台は公民権運動も下火になりつつあった1971年。
ニューヨークなどの大都会では、人種偏見撤廃が進み、一部で本音を隠していた人々もいたとは言え、
露骨な差別はやめようとする動きが活発化した時期でしたが、保守層の多い郡部ではそうではありませんでした。

アメフト強豪高校ヴァージニア州の州立高校は、コーチとしての殿堂入りも噂される、
ディフェンスの名コーチであるヨーストを中心に、白人の生徒たちだけでチームが編成されていました。
そこで、中央からの流れもあり、州の教育委員会は他校で実績を積み上げた黒人コーチ、ブーンを高校に招くも、
実は教育委員会の狙いはブーンが成果を上げられず、人種を分けてチームを編成することを継続させようとするもので、
ブーンを招聘した周囲もチームを冷ややかな視線で見ていました。一見すると、独裁者のようなブーンのやり方では、
チーム内の緊張は解けずに上手くいかないと目されていましたが、やがてチームは団結していきます。

その過程で、様々な“痛み”は伴うのですが、
結果的には、教育委員会の目論みとは外れ、ブーンがチームをまとめていき、連勝街道を突き進みます。

時代は71年ですから、アメリカ社会でも差別は蔓延るものの、
社会的には人種差別撤廃を声高らかに上げ、既にある程度の時間が経過していた時期ですから、
本作で描かれたような出来事は、地方都市であったからこその実話なのかもしれません。

当時、どちらかと言えば、映画の題材自体も派手なものを好んでいたように見えた、
ジェリー・ブラッカイマーですから、本作のようなドラマに出資したというのは、チョット意外でしたね。
ただ、ジェリー・ブラッカイマーって本来は、地味な映画にも出資していた人ですから、あくまで映画人としての
アンテナが反応したのか、本作をプロデュースすることになったわけで、何か感じるものがあったのでしょう。

劇場公開当時、ある意味で宣伝文句ですがオスカーにも有力候補として挙げられる
みたいな触れ込みもあったと記憶していますが、まったく映画賞レースに絡むことはなく終わりました。

まぁ、映画の出来自体は悪いものではないと感じています。
ある意味で古き良きハリウッドのフォームに則った内容になっており、映画として安定感がある。
ここはジェリー・ブラッカイマーの資金力の影響かもしれませんが、主演にデンゼル・ワシントンをキャスティングできた
ことは大きかったと思う。当時は「善人ばかりを演じる役者」扱いされていましたが、やはりそれでも巧い役者だ。
独自な理論で選手たちを追い込んで練習させる、文字通り“鬼コーチ”を見事に体現できていると思う。

こういうのを見ると、どうしてもキューブリックの『フルメタル・ジャケット』を思い出してしまうのですが(笑)、
さすがにあの鬼軍曹ほどではないにしろ(笑)、あくまで勝ちにこだわる姿勢を見事に伝えることができていると思う。

今でこそ、日本の部活動の在り方が強く問われるようになり、
かつてのような“しごき”は少なくなったと聞きますが、自分が中学生のときに野球をやっていたときは、
今の時代だと、問題になりそうな練習や指導はありました。エラーしたら「ケツバット」、顧問が力いっぱい打って、
遠くに飛ばしたボールをダッシュで取りに行かされるペナルティなど、今では教育的指導ではないとされることが
現実に残っていたし、家庭の事情などで帰宅したい旨申告すると、理不尽に怒鳴られるといったことが横行していた。

自分がそういう教育を受けてきたから、それを否定しないという意味ではなく、
決して肯定されることではないと思うが、一方では「ああいうことが当たり前な時代ではあった」とは正直言って、思う。

本作で描かれたブーンの“しごき”もそう。彼はコーチのスペシャリストとしてのプライドがあったのだろうし、
実際にチームを勝たせてきたことで実績を積み上げ、いろいろなチームでの仕事を得てきたことは否定できない。
そういったコーチングは今では否定的に解釈されるだろうが、これもまた、許容された時代なのだと思う。
(まぁ・・・日本の教員の場合は、部活動顧問がほぼボランティアであるという、別な問題もあるのだが・・・)

僕は本作に、もっと強い作り手の恣意が入っていれば、素直に観れなかったかもしれない。

勿論、映画はブーンがまとめたチームが勝つことによって、
人種差別の柔和につながること、純粋に勝つことの喜びを描いているわけで、
ブーンの指導方針をどちらかと言えば肯定的に描いているわけですが、それでも過剰な賛美ではない。
その証拠として、ブーンが自分の姿勢が独善的であったかもしれないと、反省する一面もしっかりと描いている。

選手に対して高圧的に接していたブーンですが、
彼の素顔は謙虚な人。立場上、それを表面に出すことはできなかったが、言わば気遣いの人である。
だからこそ、言動でも責任について言及しているし、実際の行動も「自分が良ければ、それでいい」というものではない。

但し、過剰に賛美していないというのは、チームが躍進することをクドクドとは描かず、
映画の最後はテロップで後日談に触れるなど、実にアッサリとした余韻を残さない描き方である。
これはおそらく作り手の意図もあったからこその編集でしょう。でも、僕はこの映画にあっては正解だったと思う。
あまりクドクドと描かなかったからこそ、映画に僅かながらも客観性が入り、スリムな印象を受ける。

とは言え、基本的なアプローチとしては典型的なスポ根映画です。
これが苦手な人には、おそらくどうやってもウケないタイプの映画だろう。ここは事前情報が必要かも。

尚、本作には数多くの若手俳優が出演しているのですが、実はチョイチョイ、後にブレイクする役者が出ている。
軍人の父に半強制的に加入させられるナヨナヨした若者として、キップ・パルデューが出演しているし、
やはりチームの一員として、今やスターダムを駆け上がったライアン・ゴズリングも出演している。
それに花形選手の恋人で、人種偏見と自分の中で闘い続ける女性としてケイト・ボスワースも登場。

ここはジェリー・ブラッカイマーの先見の明なのか、
ここまで後にブレイクする役者たちが多く出演しているというのも、なかなかないことではある。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ボアズ・イエーキン
製作 ジェリー・ブラッカイマー
   チャド・オマン
脚本 グレゴリー・アレン・ハワード
撮影 フィリップ・ルースロ
音楽 トレバー・ラビン
出演 デンゼル・ワシントン
   ライアン・ハースト
   ウィル・パットン
   ウッド・ハリス
   ドナルド・アデオサン・フェイソン
   クレイグ・カークウッド
   イーサン・サプリー
   キップ・パルデュー
   ライアン・ゴズリング
   ケイト・ボスワース