リアリティ・バイツ(1994年アメリカ)

Reality Bites

アメリカ南部の都市、ヒューストンに暮らす若者たちの恋愛を描いた青春映画。

監督は後に人気俳優としてブレイクするベン・スティラーで、
彼の第一回監督作品なのですが、正直言って、そこまで映画の出来は良くないですね。

劇場公開当時、新世代を象徴した映画という触れ込みで、
言ってしまえば、85年の『セント・エルモス・ファイヤー』などといった時代を投影する青春映画として、
作り手は売り込みたかったのでしょうが、そこまで映画に勢いは無いし、魅力もそこまでではないですね。

彼は96年にジム・キャリー主演で『ケーブルガイ』という怪作を撮っており、
01年に『ズーランダー』という豪華なコメディ映画も監督しているので、やはり彼が出演するタイプの映画のように、
本質的にはコメディ映画を中心として活動したいのでしょうが、そんな彼の監督デビュー作品が
本作のような喜劇ではなく、極めて真っ当な青春映画であったという事実が意外に思えますね。

リサ・ローブ、U2≠ネど当時流行の音楽を使っており、
映像感覚的にはMTVに似ているのだけれども、あくまで映したかったのは若者たちの恋愛だったはず。

当時はウィノナ・ライダーもハリウッドで勢いのある女優さんだったので、
本作でもかなり輝かせようと撮っているのが、よく分かるのですが、どこかチグハグな感じも残っているかな。
特にこの映画、本来的にはラストの描き方が大事だったと思うのですが、どうにも盛り上がらない。

ある程度、観客の予想通りの結末に落ち着くわけなのですから、
そこに至るまでの過程で、観客を納得させないといけなはずなのに、そこも本作は弱い。
そういう意味では、ヒロインと同居する若者たちの描き方自体にも、弱さがあるのでしょう。

どうやら、ダニー・デビートが出資して実現した企画らしいので、
おそらく当時、“ジェネレーションX”と呼ばれた新世代の若者たちを描いたという点が評価されていたのでしょう。

映画はタイトルが表している通り、現実の厳しさを描いています。
若さゆえのミスが目立ち、結果として仕事をクビになってしまったヒロインでしたが、
その後はなかなか希望通りの仕事に就くことができず、学生時代から取り組んできた、
プライベート・フィルム製作についても周囲から認められず、フラストレーションを溜めこんでしまいます。

こういう展開はよくある話しと言えばそうなのですが、
どうもこの映画が噛み合わないところって、迷いながらも何か教訓を得て生きるという姿にはなっていないところで、
おそらく恋愛にしても、紆余曲折を経て、本作のラストに行き着いているはずなのだけれども、今一つ納得性が弱い。

せっかく、ヒロインが仕事をクビになって、一気に何もヤル気が無くなって、
まるでニートのようになって、片っ端から電話をかけまくって、400ドルを越える請求がくるほど、
自堕落な生活を送ったりして、精神的にも苦悩する日々を過ごしていたことを描いていたのに、
彼女が前へ進もうとするキッカケについても、どこか曖昧に描いてしまっており、作り手がホントに描きたいものを
上手くフォーカスできていない。これが実はとても致命的なものであり、本作の大きな難点になってしまっている。

20代の若者を描いた映画という位置づけですから、
言ってしまえば自分探しを続ける、モラトリアムな日々を描いているという内容なのは分かりますが、
そこから答えを自分で見つけるためには、やはり本人の力が必要不可欠なわけで、
本作にはその答えを見つける瞬間を、個人的にはしっかりと描いて欲しかったですね。

それが、もし...ヒロインが撮ったプライベート・フィルムをテレビ局で
予告編として公開したときだったと、作り手が考えているのであれば、それは甘過ぎると思う。

まぁ、ベン・スティラーも若かったせいか、この辺のバランスは取れていない印象で、
確かに『ケーブルガイ』、『ズーランダー』もそこまで出来が良い映画というわけではなかったにしろ、
肯定的に観るとすれば、少しずつベン・スティラーのディレクターとしての手腕は良くなってはいるようですね。

この映画が当時の青春像に今一つ肉薄し切れていないのかなぁと思った大きな理由として、
この“ジェネレーションX”世代が働き盛りの40歳半ばに差し掛かり、社会の中心となった今になって観ても、
本作で描かれたことが、ある種の懐かしさや楽しさが感じられないところで、しっかりと肉薄できていれば、
もっと本作の在り方も変わってきただろうし、やはり映画のラストの味わいも変わってきたところでしょう。

そういう意味では、『セント・エルモス・ファイヤー』が素晴らしい名画だなんて言わないけど、
同作品が今でも懐かしんで観る人の気持ちは分かるし、そういった魅力には溢れた作品にはなっているんですね。

思えば、いつの時代もそうなのかもしれませんが、
大学に行っても、大学卒業と同時に社会へ出なければならないわけで、ここでモラトリアムな日々ともお別れです。
それが自分も含めて大きな反省ではあるのですが、いざ社会人になっても自分が何をしたいのか分からず、
社会に出てしまったがために、どうも自分がイメージしていた社会人とは大きくかけ離れた現実に迷います(笑)。

恥ずかしながら、映画の出来はともかくとして、
この映画で登場してきた“ジェネレーションX”世代の若者たちの気持ちは、なんとなく分かる気がします(笑)。

でも、映画はそこで終わってしまってはダメなんですね。
やっぱり、しっかりと掲げたテーマに肉薄しないと、映画は磨かれていきません。
こういう言い方は良くありませんが、当時のベン・スティラーにはかなりハードルが高い企画だったかもしれません。

本作でウィノナ・ライダー演じるヒロインは、モラトリアムな生き方を象徴しているとは思うけど、
対照的にイーサン・ホーク演じる哲学かぶれの若者に、あまり強い個性を感じないせいか、どうも訴求しない。
この映画は等身大の若者を映したというだけでなく、本来的には若者の生き方を投影すべきだったはずなのです。

どうしても、作り手の主義主張が弱いと、映画が崩れてしまうという典型例かな。

(上映時間98分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ベン・スティラー
製作 ダニー・デビート
    マイケル・シャンバーグ
脚本 ヘレン・チルドレス
撮影 エマニュエル・ルベッキ
音楽 カール・ワリンジャー
出演 ウィノナ・ライダー
    イーサン・ホーク
    ベン・スティラー
    ジャニーン・ガロファロ
    スウージー・カーツ
    ジョー・ドン・ベイカー
    ジョン・マホーニー
    レニー・ゼルウィガー