ゲットバッカーズ(2014年アメリカ)

Reach Me

これは作り手が何を描きたかったのか、サッパリよく分からなかった作品だなぁ・・・。

スタローンが珍しく、自らの強い哲学がある理屈っぽい男を演じているので、そこは面白かったんだけど、
映画の焦点が定まっておらず、凡人には映画の主張がなかなか分かりにくい内容になってしまっていて、
ホントに描きたかったこと、何を主張したかったのか理解しにくい作品になっている。ちなみに日本では劇場未公開作。

監督は96年に『2days トゥー・デイズ』でデビューして話題となり、
01年の『15ミニッツ』で規模の大きな企画を任されたジョン・ハーツフェルドで、久しぶりの監督作品になりました。

「Reach Me」という自己啓発本をめぐって、多くの刺激を受けた複数の男女が
あらゆる場所でこの本のことを吹聴し、この著作者を探し当てようとするマスコミ関係者なども入り乱れて、
実はこの著作者が医療行為でも解消されなかった吃音に苦しむ男女が、短時間で解消したという噂を聞きつけて、
次第にこの著作者の能力が肥大化していく。マスコミが特定した著作者は、実はプレッシャーに弱く、
対人恐怖症なところがあることが分かるという、複数人の物語を交錯させて、最後に収束する群像ドラマなんですね。

さながらエルモア・レナードの脚本を映画化したかのような雰囲気があるものの、
この群像ドラマは見せ方もイマイチ上手くない。しかも、どこかとっ散らかったまま映画が終わってしまった印象で、
この「Reach Me」という自己啓発本がどれだけの影響力を持つ内容だったのかも、キチンと描かれていない。

そう、みんな口々に本の中身を絶賛するのだけれども、具体的にどういったことが書かれていて、
どういうことが啓発されるのかが深くは語られていない。これは僕は省いちゃいけないとこだったと思うんですよね。

これは僕の中の印象が上がらなかったのは、こういう風にして描くべきことが的確に描かれていないことで、
そうなってしまうと、人々がどうしてこの本に触発され、何に魅力を感じて、著作者をカリスマ的な存在に
神格化させていったのかも分からないし、トム・ベレンジャー演じる著作者が“裸の王様”のように見えてならない。

しかも“裸の王様”でありながらも、実は本で書いていることを自分自身も全く実行できないというから、
ホントに質(たち)が悪い。それぞれのドラマも単に本を読んだ人という点だけのつながりなので、連帯感が無い。

まぁ、スタローンはムキムキのアクション・スターとしてハリウッドで地位を確立したんで、
どうしても“そっちの世界”に行きがちで、そういうオファーが多いというのも分かるんだけど、
こういうアクション以外の映画でも、十分に俳優として機能することは分かっているので、あまり驚きはない。
映画の最後に“美味しいところ”を持って行ってしまうズルさが際立つが、そんなに悪い仕事ぶりではないと思う。

しかし、チョットだけ“クセ者”という感じをスタローン自身も意識し過ぎたような感じがして、
主役ではないのは分かるけど、それでも結局はスタローンのインパクトが強過ぎて、脇役に徹し切れていない。

前衛的な絵画をやっていて、部屋の壁に向かってペンキを塗ったくるところで
自分の部下が割り込んできたのでブチギレして、スタローンらしく武闘派になるのかを思いきや、
長々と説教をタレ始めるという展開で、これもどちらかと言えば悪目立ちしている感じで、インパクトが強過ぎた。

やっぱり、この物語は最終的に本の著作者を中心に収束させるべきだった。
彼のカリスマ性に惹かれて集まってきた人々のドラマが交錯するという話しなので、単に彼が人前で喋るという
集会に収束するというだけでは弱く、この原作者に起こる大きな事件みたいなものを描いた方が良かったと思う。

たいしたことが起こらず、どこか中途半端な終わり方をしちゃうものだから、えらく雑なエンディングに見えてしまう。

まぁ、大きな事件が起こらないというのが本作の特徴でもあるのかもしれないけど、
その割りに映画の冒頭から、キーラ・セジウィック演じる釈放の前日にトラブルを起こしたり、
過剰防衛気味に容赦なく被疑者を射殺してしまう刑事など、随分と物騒なエピソードを連続させるので、
思わず映画の終盤に大きな出来事があって、それが全てのエピソードを収束させるのかと思ってしまいました。
ただ、映画はそんな感じではなく、思わず「えっ!? これで終わり?」とツッコミの一つでも入れたくなる終わり方だ。

ジャンルとしてはコメディになると思うんですけど、ニヤリとさせられるシーンも少なかったなぁ。
映画女優としてのデビューを夢見ている若い女の子が、いきなりベッドシーンを演じさせられて、
なんとか自分の台詞を残そうと躍起になるものの、相手役の男からセクハラを受けて、その復讐にと前述した刑事が
ロケ現場に乗り込んで行って、セクハラ俳優を痛めつけるというシーンを見ても、笑えと言われても難しいですよね。

元々、ジョン・ハーツフェルドの演出はコメディ向きという感じではないので
本作でもコミカルな要素は皆無であって、どういうジャンルの映画にしたかったのか、ホントのところを聞きたいですね。

なんで本作が日本では劇場未公開作扱いで終わってしまったのかが、よく分かる内容でした。
スタローンは勿論のこと、『山猫は眠らない』で傭兵を演じたトム・ベレンジャーも出演しているので、
アクション映画ファンにはたまらないキャスティングですが、そういったアクション的な要素は全く無いですし、
彼ら以外にもダニー・アイエロ、ダニー・トレホ、キーラ・セジウィック、トム・サイズモアとバイプレイヤー揃いですが、
彼らもアンサンブルを醸し出すわけでもなく、それぞれが中途半端な扱いで終わってしまったのが勿体ない。

スタローン演じる上司にやたらと説教され、怒られまくる雑誌社に務めるロジャーは
作家志望で「Reach Me」に惹かれる人々を取材するうちに、著作者を突き止め、一晩中禁煙するための
施術を受けるという体験をして、この著作者の人間性に触れるうちに、彼のことを理解するという役柄であって、
強いて言えば、このロジャーを映画の軸に置いているようにも見えるのですが、彼が作家を志望するにあたって
トム・ベレンジャー演じる「Reach Me」の作者のどこに魅力を感じたのかが、ハッキリとしないのも物足りない。

あの施術は確かに強烈な体験かもしれませんが、作家としての魅力というよりも、
あくまで民間療法や自己啓発者としての魅力であって、思わず支援者の女性からキスされたから、
この著作者を応援する気にでもなったのかと思ってしまったのですが、おそらく人間性に触れたからなのだろう。

やっぱり描くべきことを、もっとキチンと描いていれば、こんなことにはならなかったと思う。
これは脚本の段階から課題が明らかな作品だったと思うので、企画の段階でどうにかして欲しかったですね。
(まぁ・・・ジョン・ハーツフェルド自身がシナリオを書いているので、修正しづらかったのかもしれませんが・・・)

ただ、トム・サイズモア演じるゴルフ好きなマフィアが、借金の取り立てを命じた部下に裏切られ、
まるで中間管理職のような板挟みになり、ボスがゴルフカートでいきなりプレー中にホールに乗り込んできて、
散々詰問にあって、ビンタされたことを回想し、「叩かれた・・・」と悔しそうに呟くシーンは唯一面白かった。
ああいうギャグって、日本人的なものかと思っていたのですが、アメリカの方々にも通じるコメディ・センスなんですね。

マフィアとして生きるというのは、反社会的な生き方なのでそれはそれで大変なのだろうし、
強烈な縦社会でしょう。反社会的勢力を肯定的に考えているわけではありませんが、どことなく悲哀を感じさせる。

こういうエピソードをもっと大切にして、描いても良かったと思うんだよなぁ。
それが全てを投げ出すように、ただただ乱暴にやり通そうとする姿、一辺倒になるだけだから雑に見えてしまう。
せっかく悲哀を感じさせる部分ではあったので、思いっ切りベクトルを変えるキャラクターになっても良かったと思う。
そこにマフィアのボスが乗り込んで来るという展開だったら、それぞれのドラマが同じ方向に向き始めますからね。

ちなみに監督のジョン・ハーツフェルドとシルベスター・スタローンは大学時代からの盟友らしい。
それもあって、本作へのスタローンの出演が実現したのかもしれませんし、本作以降、結構一緒に仕事してますね。

ところで、劇中、キーラ・セジウィック演じる釈放された女性が交通事故にあって、
やたらと「警察が来るのはヤバい!」と連呼してましたが、あれは何故だったのかが分からなかった。
てっきり、彼女も映画で描かれた以上の何か大きな秘密を抱えているのかと思いきや、それも最後まで描かれず。

とまぁ・・・なんだか、僕の波長には合わない作品でしたね。。。

(上映時間92分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジョン・ハーツフェルド
製作 レベッカ・チェイニー
   カシアン・エルウィズ
   バディ・パトリック
   ジョン・ハーツフェルド
脚本 ジョン・ハーツフェルド
撮影 ヴァーン・ノーブルズJr
音楽 トゥリー・アダムズ
出演 トム・ベレンジャー
   ダニー・アイエロ
   シルベスター・スタローン
   トーマス・ジェーン
   ローレン・コーハン
   キーラ・セジウィック
   ケビン・コナリー
   ダニー・トレホ
   トム・サイズモア
   テリー・クルーズ
   ケーリー・エルウェス