レインマン(1988年アメリカ)

Rain Man

ダスティン・ホフマンは67年の『卒業』でアメリカン・ニューシネマのスターとなり、
アクターズ・スタジオ出身の実力派俳優として70年代を駆け抜け、79年の『クレイマー、クレイマー』で
念願のアカデミー賞を受賞しましたが、82年の『トッツィー』を最後に映画界での仕事をセーブしていました。

一時的に舞台劇の分野に転身した時期もありましたが、本作で6年ぶりにスクリーンの世界に戻ってきました。

本作で彼が演じたレイモンドは自閉症であり、
亡くなった父親の莫大な遺産の継承者になったことをキッカケに、長らく会っていなかった、
弟チャーリーがレイモンドを引き連れて、彼の保護権を求めてロサンゼルスへ向かう姿を描いているのですが、
確かに本作でのダスティン・ホフマンはそうとうなリサーチを基に演じており、これは名演と言えます。

本作での成功をキッカケにダスティン・ホフマンは再び映画界に戻ってきて、
本作以降は再びスクリーンの世界で活躍するので、そういう意味でも価値のある作品にはなりましたね。

だけど、僕はこの映画を観ていて強く思ったのですが...
まぁダスティン・ホフマンもいいけど、本作では予想以上にチャーリーを演じたトム・クルーズが頑張っています。
80年代のトム・クルーズはいわゆる“ブラット・パック”の一人として、青春映画のスターという枠組みで
若者を中心に人気を集めましたが、本作での彼は演技派俳優としての開眼を感じさせます。

本格的には96年の『ザ・エージェント』あたりから、彼の芝居が注目されるようになりましたが、
僕は彼の芝居は本作の時点で十分に上手かったと思いますけどね。多少、全体的に芝居が大きいのですが、
特に映画のラストでレイモンドと兄弟愛を確かめ合うシーンは素晴らしかったと思いますけどね。

全体的にはバリー・レビンソンの演出に一貫性があって良かったということなのでしょう。
ラスベガスでのシーンで少しだけ浮ついたような感じになりますが、レイモンドとチャーリーの失われた
数十年間という長い時間を取り戻すための1週間の旅行をドキュメントするという上で、
2人のチョットした会話や仕草、僅かな感情の揺れ動きも逃さず描くということに強い一貫性を感じさせますね。

バリー・レビンソンって、90年代以降はあまり魅力的な映画を撮れていない印象があるんだけど、
本作では演出に一貫性があって、ひじょうに完成度の高い映画を撮れてると思うんですよね。
そうなだけに、90年代以降の創作活動の低迷ぶりが実に残念なわけですがねぇ。。。

映画は若くして自動車販売業の事業を起こしたチャーリーが
長らく音信不通になっていた父親が死んだことを知り、葬儀に参列することから始まります。

父親は資産家であり、莫大な遺産を残し、チャーリーは半ばそれらをアテにしていたよう。
何故なら、事業を起こしていたチャーリーもローンの返済に追われ、事業もあまり上手くいっておらず、
次から次へとトラブルを抱えているようで、お金がすぐにでも必要な経済状況であったことは否めません。

それゆえ、アテにしていた父親の遺産の継承権が自分には与えられず、
それまで存在すら知らなかった自閉症の兄チャーリーにあることを知り、怒りのあまりチャーリーを連れ出します。

当初は父親の遺産を目当てに抗議することが目的だったことは否めませんが、
レイモンドと行動を共にする時間が長くなるにつれて、徐々に彼への兄弟愛を感じ始めます。
まぁ強いてこの映画に注文を付けるとするなら、もっとチャーリーがレイモンドへの兄弟愛を感じ始めるまでの
過程をしっかりと描いて欲しかったという気持ちがあって、そうすればもっと映画の説得力が出たでしょうね。

この映画のラストでチャーリーがレイモンドへ心許すのを観ても、
にわかに信じ難い部分があって、それはチャーリーの変化の過程をしっかり描けていないことが原因と思う。

でも、そんなこの手の映画の致命傷とも言うべき難点も、
前述したチャーリーがレイモンドに兄弟愛を伝えるシーンの素晴らしさに救われていますね。
このシーンの直前に医師がレイモンドの意思を確認するために、何度か質問するのですが、
もうレイモンドを追い詰めるかのように質問攻めにして、レイモンドが困惑するのを見てチャーリーが止め、
レイモンドをなだめながら、彼への愛情を示すという流れが、ひじょうに良かったと思いますね。

ちなみにこの質問攻めにする医師を演じたのがバリー・レビンソン本人で、
自分をダシにしてでも、トム・クルーズを“立てる”というのが、なんか凄いですね(笑)。

僕は当然、ラスベガスへは行ったことがないし、カジノにも行ったことはありませんが、
カード・カウンティングが違反行為で、カジノは常にゲーマーを監視していて、
カードをカウントしていないか見張っているというのが、なんかビックリしちゃいますね。
往々にして、トランプは確率論で動いている面がありますから、カジノ側はカード・カウンティングを
警戒しているのでしょうが、勝ち続けるゲーマーを疑って、明確な根拠が無い場合でも、
カード・カウンティングの嫌疑がある時点で、そのゲーマーを追い出すという発想が凄いですね。

これはカジノの特権なのでしょうが、これを言い出したら、
カジノで勝った人全員が、出入り禁止になるというジレンマになりかねないので、
どうしてこんな習慣ができてしまったのか、僕には不思議でたまらないんですよね。

おそらく自閉症という症状には、さまざまなタイプがあるのだと思います。
本作で描かれたレイモンドみたいなケースが一般的というわけではなく、
これはあくまでレイモンドの症状だけの話しであって、皆がそうだというわけではないそうです。
従って、自閉症の人が皆、記憶力が人一倍優れているというわけではないのですが、
この映画でチャーリーがレイモンドに心許すキッカケとして、レイモンドの知能だったというのも残念ですね。

これもできることならば、レイモンドの人間性をキッカケとして、
チャーリーに変容が見られたという展開にしてもらった方が、僕は良かったと思いますけどね。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 バリー・レビンソン
製作 マーク・ジョンソン
原作 バリー・モロー
脚本 バリー・モロー
    ロナルド・バス
撮影 ジョン・シール
音楽 ハンス・ジマー
出演 ダスティン・ホフマン
    トム・クルーズ
    バレリア・ゴリノ
    ジェリー・モルデン
    ジャック・マードック
    バリー・レビンソン
    マイケル・D・ロバーツ
    ボニー・ハント

1988年度アカデミー作品賞 受賞
1988年度アカデミー主演男優賞(ダスティン・ホフマン) 受賞
1988年度アカデミー監督賞(バリー・レビンソン) 受賞
1988年度アカデミーオリジナル脚本賞(バリー・モロー、ロナルド・バス) 受賞
1988年度アカデミー撮影賞(ジョン・シール) ノミネート
1988年度アカデミー作曲賞(ハンス・ジマー) ノミネート
1988年度アカデミー美術監督賞 ノミネート
1988年度アカデミー美術装置賞 ノミネート
1988年度アカデミー編集賞 ノミネート
1988年度ベルリン国際映画祭金熊賞 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ダスティン・ホフマン) 受賞