007/慰めの報酬(2008年イギリス・アメリカ合作)

Quantum Of Solace

珍しく前作からの続きとなる人気シリーズ第22弾。

今回は01年の『チョコレート』、04年の『ネバーランド』と
素晴らしい出来の作品が続いていたマーク・フォースターがアクション映画に挑戦したということで、
個人的には一抹の不安があったのですが、その予感が見事に的中してしまったようです(笑)。

単純に映画のヴォリュームという意味では、
前作で2時間を大きく超えていたことを考慮すると、本作は丁度良くなったのですが、
どことなく各プロットのつながりに欠け、シリーズ特有のスリルが満たされないまま終わってしまったよう。
これはアクション映画を撮った経験の乏しさが災いしたようで、キチッとセオリーを踏めていないからだと思う。

決して、どうしようもない出来の悪い映画というわけではないのですが、
それにしても全体的にメリハリに欠ける内容に陥ってしまい、今回は目を見張るアクションも無かったかなぁ。

ダニエル・クレイグのキレ鋭いアクションは良いのですが、
やたらと暴力的なキャラクターは前作から踏襲しており、どうもこの路線が馴染まない(笑)。

映画の冒頭で流れるお約束のボンドソングである主題歌は、
前作よりはずっと良く、予想外なほどにアリシア・キーズとジャック・ホワイトの主題歌がマッチしているものの、
肝心かなめの本編は前作のままで、前作以上に画面の緊張感が弱くなってしまっている。

そりゃ、02年の『007/ダイ・アナザー・デイ』のように、
ピアース・ブロスナン後期時代のように、ダラダラとシリーズをただ漫然と続けているよりも、
本作のような大胆な路線変更で、新しいシリーズの魅力を模索することも必要だとは思うけれども、
個人的には次作でもう少しシリーズの醍醐味を活かした内容にシフトして欲しいですね。
以前のように、ボンドカーやQが供給する、不思議なアイテムが活躍する展開も復活させて欲しいです。

この辺の変革をマーク・フォースターにも期待したかったのですが、
やはりプロダクションとの制約も大きかったのでしょうかね。あまり自由に映画が撮れなかったのか、
前作の流れがあまりに強く残ってしまい、より映画を難しくしてしまった感が強いですね。

そういう意味では、以前と大きく異なる点として、
ジュディ・デンチ演じるMが、前作あたりから顕著になってきているのですが、
スゲー嫌な上司として映ってしまうのが気になって仕方がない(笑)。どうして、こういう存在にするんだろう?

アクション部分で行き届かない部分があるのは仕方ないとしても、
ドラマ部分では、もう少しマーク・フォースターの手腕に期待をしていたんですけれどもねぇ・・・。

それと、前作からの引き続くキー・ポイントであった、
ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるマティスの存在にしても、あまりに軽くて拍子抜け(笑)。
もう少し上手く描くアイデアはあったと思うんですよね。これはシナリオの段階からの問題でしょうけれどもね。

それと併せて言うなら、石油まみれになって殺害されるという発想が
劇中、2回ほど語られているが、これは完全に『007/ゴールドフィンガー』と一緒で芸が無い。
おそらく、ある種のオマージュと作り手は主張するのではないかと思うが、本作のような新作で
過去の作品のオマージュを採り入れる意図がよく分からないし、あまりに発想が貧相だと思えてしまう。

おそらく映画が盛り上がらなかった大きな理由は、
ストーリーのコンセプト上、仕方がなかった面も大きいとは思う。その点、マーク・フォースターには同情する。

やはり、ボンドのアクションが面白いのは、基本、彼がスパイであるからで、
バレるかバレないか、そして斬るか斬られるか、その瀬戸際のスリルを楽しむことが原点である。
しかし、本作は前作からの続きで、ボンドが本気で愛してしまった女性が殺されたことに怒り、
単独行動である種の復讐を果たそうとするボンドに、MI:6も疑惑を抱き、そんな疑惑の中でボンドが
悪党に近づいていくという設定なせいか、ボンドの諜報部員としての側面が弱くなってしまった。

まぁ、そういうシリーズ本来の良さをフルに活かしづらい環境の中では、
マーク・フォースターなりに奮闘したとは思います。アゲインストな状況の中で、ボンドは何とかして目的を
達成しようとするわけで、その苦闘を真正面から描けている点では、評価に値すると思います。

欲を言えば、ボンドガールにはもっと気を遣って欲しかった。

メインとなるボンドガールはおそらく、オルガ・キュリレンコだったと思うのですが、
全体的に中途半端な扱いで、尚且つ、ボンドとのラブシーンも無かったせいか、
ボリビアの大使館職員であるストロベリー・フィールズを演じたジェマ・アータートンと大差ない存在感で可哀想。
結局、本作にしても前作でボンドガールを演じた、エヴァ・グリーンがボンドガールだったという気すらします。

オルガ・キュリレンコとしては、本作のヒロインへの抜擢は大チャンスだったはずで、
この扱いの悪さはなんだか不運というか、可哀想ですね。これでは、どうしても印象が弱くなってしまいます。

彼女とボンドのアクション・シーンという意味では、
映画の後半にある、墜落寸前のプロペラ機からボンドと一緒に、決死のスカイダイブするシーンで、
勿論、CGを思いっ切り活かした映像表現なのですが、地面に墜落する寸前でパラシュートが開くのですが、
おそらく終端速度に達していたと思われる高度からの落下だったので、怪我しなかったというのも、また凄い(笑)。

この一連のスカイ・アクションと比較すると、クライマックスのアクションは少々、物足りない。
この辺のバランスの悪さは、どうしても本作の大きな難点として捉えられても、仕方ないだろう。

前作よりは良くなった部分もあるにはあるけど、
やはり前述した通り、ダニエル・クレイグ版のシリーズはまだ続くでしょうから、
この新たな路線は、今一度見直して欲しい。カット割りの連続で、どうしても観ていて疲れてしまいますね。

結論から言えば、マーク・フォースターの力量から言えば、残念な出来。
でも、きっと本作での経験が、彼の今後の創作活動に大きく役立つものであることは間違いないだろう。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 マーク・フォースター
製作 マイケル・G・ウィルソン
    バーバラ・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 ニール・パーヴィス
    ロバート・ウェイド
    ポール・ハギス
撮影 ロベルト・シェイファー
編集 マット・チェシー
    リチャード・ピアソン
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ダニエル・クレイグ
    オルガ・キュリレンコ
    マチュー・アマルリック
    ジュディ・デンチ
    ジェフリー・ライト
    ジェマ・アータートン
    イェスパー・クリステンセン
    デビッド・ハーバー
    ジャンカルロ・ジャンニーニ
    アナトール・トーブマン
    ホアキン・コシオ