狂っちゃいないぜ(1999年アメリカ)

Pushing Tin

世界一忙しいと言われる、ニューヨークの航空管制官を描いたドラマ。

かつて映画の中で、パイロットを描いた作品は数多くありましたが、
航空管制官という、言ってしまえば“縁の下の力持ち”みたいな存在を描いた作品は皆無であり、
想像を絶するプレッシャーと短時間とは言え、詰め込まれた忙しなさにスポットライトを当てたことに感心した。

但し、映画の出来としては今一つかな。
まぁ・・・つまらないなんて言わないし、それなりに見どころはある映画なんだけれども、
着想点の面白さの割りには、映画がほぼ痴話ゲンカのようなレヴェルに留まってしまい、
着想点以上の面白さを引き出せなかったという印象が残ってしまって、どうも盛り上がりませんでしたねぇ。

今になって思えば、無駄に豪華なキャスティング(?)のおかげで、
全米公開当時、そこそこ話題になっていたように記憶していますが、中身はそこまで濃くありません。

欲張って、色々な要素を詰め込んで、無理矢理、ストーリーを進めた感もありますが、
その割りに映画がクライマックスに近づけば近づくほど、スケールが小さくなっていくようで、
結果的に「この内容で2時間を超えてしまうのはダラダラと長過ぎる」と冗長に感じられてしまうのも残念だ。

監督は94年に『フォー・ウェディング』をヒットさせたマイク・ニューウェル。
『フォー・ウェディング』とはジャンルが全く違う作品なので、単純比較は難しいとは言え、
やはり『フォー・ウェディング』や『フェイク』の面白さを考えると、本作の印象はかなり落ちるというのが本音だ。

ブレイク直前のアンジェリーナ・ジョリーのサービス・ショットがあったり、
一つ一つのシーン演出の意図がよく分からない映画でもあるのですが、
おそらく彼女が本作に出演したのは、当時の夫、ビリー・ボブ・ソーントンが出演したからだろう。
(たぶん移り気なビリー・ボブ・ソーントンの素行が心配だったのでは・・・?)

飛行機に搭乗していると、航空管制官の役割って、あまり実感しないけど、
実際、パイロットに進路の決定権は無いらしく、どの高度をどれぐらいのスピードで、
どういった航路で飛行するかは航空管制官が制御するわけで、例えば積乱雲を回避する動き一つでも、
航空管制官の許可を得なければならないわけで、航路上ではパイロットと管制官ではしきりに通信して、
安全運航を確保するわけで、一般的にパイロットには離陸から着陸まで、数千のタスクがあると言われています。

また、航空管制官は一度の制御で複数の航空機を扱うわけで、
それぞれ航行速度など機種による性能差を考慮しながら、管制するという高度な業務であり、
確か30分以上連続してレーダー業務はせず、休憩をとるという過酷な職業だったはずです。
(担当する空域や飛行場によって、規程の差はあるとは思うけど・・・)

飛行機は三次元で航路を考えなければならないわけで、とても難しいはずなんですよね。

映画の冒頭にもクレジットされますが、航空管制官は安全に飛行機を誘導できて当たり前で、
仮に一度でも誘導ミスで航空事故を招いてしまうと、一生涯、批難の的となり、自身も罪の意識に苛まれるでしょう。
制御する場所は管制塔であっても、むしろパイロットよりも直接的に、人命を預かっていると言っていいかもしれない。

この映画の邦題はあまりセンスがないのですが、
ある意味では映画の内容を上手く象徴したタイトルでもあるわけで、職務上、半端ないプレッシャーを
受け続ける航空管制官という職業柄、「ストレスという言葉は聞きたくない!」と過剰反応されたり、
精神的に病み易い職業なのかもしれませんけど、そこに家族の問題などが複雑に絡み合い、
正しく“(精神的に)狂っていない!”と主張して、頑張る男たちの闘いを描いているのですよね。

ただ、この映画の主人公って、航空管制官として本来あるべき姿を見失い、
余所からやって来たスゴ腕の航空管制官にライバル意識を燃やして、空の安全の確保よりも、
自らの管制能力を誇示するために、ひたすら対抗意識を燃やすことに執着してしまうんですよね。

ある意味で、くだらない争いになってしまうのですが、
そんなライバルの奥さんが、また若くグラマラスなもんだから、余計に嫉妬しちゃうというのが、また哀しい(笑)。

まぁ、なので物語の着想点は面白いとは思うんです。
但し、どうしても痴話ゲンカみたいなストーリーの殻から派生して、殻を破り切れなかったのはツラいですね。
この辺はマイク・ニューウェルなら、もっと面白く出来た映画であろうと思えるだけに、実に勿体ないですね。
せっかく豪華キャストを揃えることができたにも関わらず、この内容で終わってしまったのが残念。

この映画の場合は、多少、技術的な内容に傾倒したとしても、
もう少し、航空管制の難しさ、スリルといったものを表現して欲しかったですね。
一度、ミスをしてしまい、ヒヤリハットがあったら、管制業務に就くのが怖くなるというだけでは足りません。
そういうスリルを経験してこそ、航空管制官として成長することもあるはずで、そこは避けないで欲しかった。
主人公はラスト近くなって、トラウマ状態のようになってしまいますが、その引き金が私生活というのは物足りない。

空間把握能力、空域全体でバランスをとることの難しさ、
優先順位をつけての判断能力、一時の判断ミスの恐ろしさなど、いっぱい描くことがあったはず。
結果的に主人公たちの私生活の問題ばかりをクローズアップし、殻を破り切れなかった印象が強いですね。

キャストは皆、好演です。特に主演のジョン・キューザックの追い込まれ具合は素晴らしい。
スゴ腕管制官ラッセルを演じたビリー・ボブ・ソーントンはお得な役ではありましたが、
確かに彼はどこか、非凡なオーラが出ているような気がした。管制するときの、あの羽は謎だが・・・(苦笑)。

基本、この映画は欲張り過ぎである。
航空管制を舞台にしたサスペンス劇としては物足りないし、不倫劇としては盛り上がらない。
コメディとしても中途半端で、作り手が本作を通じて、一体何がやりたかったのか、よく分からない。
いろんな要素を“つまみ食い”した結果、融合された本作はどこか的外れな映画になってしまった感がある。

この映画に何を期待するかの差はデカいけど、
今までクローズアップされなかった、航空管制官という存在を映画の主人公に据えたことは魅力だが、
残りは豪華キャストの顔合わせを観るというだけが、この映画の価値であると言われても仕方がないかな・・・。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 マイク・ニューウェル
製作 アート・リンソン
脚本 グレン・チャールズ
    レス・チャールズ
撮影 ゲイル・タッターサル
音楽 アン・ダッドリー
出演 ジョン・キューザック
    ビリー・ボブ・ソーントン
    ケイト・ブランシェット
    アンジェリーナ・ジョリー
    ジェイク・ウェバー
    カート・フラー
    ヴィッキー・ルイス
    モリー・プライス