サイコ(1998年アメリカ)

Psycho

60年に巨匠アルフレッド・ヒッチコックの手によって、映画化された名作のリメーク。

『ドラッグストア・カウボーイ』のガス・ヴァン・サントが、ヒッチコックのオリジナルに
実に忠実...いや、忠実過ぎるほどに忠実にリメークしており、ある意味で驚かされた。

映画の冒頭のタイトル・バックにしても、オリジナルのソウル・バスが手掛けたデザインを模倣し、
かつてのバーナード・ハーマンの不気味なミュージック・スコアも、そのまんまコピー。

まぁ・・・中途半端なリメークやら、“リスペクト”とやらで独創的なリメークをするぐらいなら、
本作のような、細部に違うところはあるけど、基本、完全コピーしましたみたいなリメークの方が、
オリジナルに対する敬意や愛情が遥かに感じられる分だけ、マシなリメークにはなっている気がする。

しかし、それでもこれは賛否両論だろう(苦笑)。
ヒッチコックはオリジナルを敢えて、低予算で撮影することを選び、
当時は『ダイヤルMを廻せ!』などで3D映画にチャレンジするなど、時代の先端を行っていたヒッチコックですから、
カラー・フィルムで撮影しようと思えば、いくらでもできたところを敢えて、白黒撮影でフィルムに収めることを選び、
結果的に不気味さを過剰に演出することに成功し、今やヒッチコックのフォルモグラフィーを代表する作品となる。

そんなホントに偉大なオリジナルに対して、
まずはガス・ヴァン・サントはただひたすらコピーして、カラー映像で再現することに注力した。
当然ですが、あまり派手に独自の解釈を入れたり、オリジナリティを出そうとか、そういう欲をかかない分だけ、
ガス・ヴァン・サントがこの映画を製作するにあたっての目的は、コピーすることにあったと言わざるをえない。

まずは、本作のこのコンセプトに対する理解を得るのに、苦労するような気がします。

事実、僕もこの映画を観て、「よくここまで忠実にコピーできたなぁ〜」と感心する一方で、
「どうせリメークする機会を得たのだから、もっとオリジナリティを見せて欲しかった」という、
欲目をどうしても捨て切れないし、ただコピーするだけでは勿体ないリメークであると思う。

確かに90年代後半になってからのリメークだからこそ為し得た演出もあったはずだ。
特に冒頭のフェニックス市街地にそびえる高層ビルを、カメラの中心に据えた空撮から、
ホテルの一室の窓へとフォーカスする大掛かりな空撮は、思わず、「これ、どうやって撮っているんだろ?」と
疑問に思ってしまうぐらい、とても大きなインパクトある映像だと思うし、これは90年代ならではの発想だろう。

但し、独創性があったと言えるのは、ハッキリ言って、これだけ。

かの有名なシャワールームでの惨殺シーンにしても、
ほぼオリジナルのコピーと言っていいレヴェルで、ガス・ヴァン・サントの凝りっぷりがよく分かる。

ただ、そうなってくると、どうしてもまともにオリジナルと比較されることを免れない。
オリジナルで惨殺されるブロンド美女はジャネット・リーが演じておりましたが、今回はアン・ヘッシュ。
どことなくジャネット・リーに似た雰囲気を出しておりますが、彼女に関してはそんなに悪くないと思う。
いや、むしろよく頑張ってますね。映画の序盤では、チョットした悪女っぷりをよく表現できていたと思います。

問題になってくるのは、やはりノーマン・ベイツを演じたヴィンス・ヴォーンだろう。
オリジナルでアンソニー・パーキンスが演じたのは、あまりに傑作な出来でしたが、
本作での彼もアンソニー・パーキンスとまではいかずとも、もう少しいろいろと工夫できた余地はあったと思う。

どうしても、映画自体がコピーであるがゆえ、
彼もまた、アンソニー・パーキンスが表現したノーマン・ベイツの異常性に匹敵するレヴェルを求められる。
まともに比較してしまうと、本作でのヴィンス・ヴォーンはどうしても弱い。特にクライマックスでの表情が。

ノーマン・ベイツの精神疾患は、オリジナルが製作された1960年という時代には、
かなり斬新で、時代を先取りしたようなテーマであったはずなのですが、さすがに90年代後半になると、
幾多の映画で精神異常をきたすことをテーマに描かれてきたので、ヴィンス・ヴォーンも苦しかったでしょう。
モーテルの事務所の壁に、1号室のシャワールームが見える穴があって、ヒロインがシャワーを浴びるのを
覗き見したノーマンが、性的衝動にかられるシーンを描いただけでは、オリジナリティが出たとは言えないでしょう。

まぁ・・・正直言って、このノーマン役は誰が演じても、
アンソニー・パーキンスのそれを越えることはできなかっただろうけど...。

前述した、ガス・ヴァン・サントはおそらく、ヒッチコックの『サイコ』をカラーで
撮影することに目的があって、本作の目的ってそれ以上のことはなかったのだろう。
ここまで忠実にコピーしたことは逆に凄いことだが、このコンセプト自体がスタッフやキャスト泣かせですね。
ハッキリ言って、オリジナルがたいした映画でなければ、成功する見込みはあったかと思いますが、
凄く有名で高い収益性を誇ったオリジナルが相手ですから、どうやっても苦しい見込みしかありません。

言葉は悪いけど、ややもすると...
ガス・ヴァン・サントの独りよがりな企画だったと言われても、仕方ないような気がするんですよね。
いや、勿論、本作でのスタッフの本気度合から言って、「独りよがり」という言葉では片付けられないんだけれども。

偉大なるオリジナルに挑戦する姿勢は素晴らしいと思う。
しかし、この映画にはオリジナルに挑戦するための“策”が感じられない。
これでは、企画倒れだったと言われても仕方ない。この結果は実に残念でなりませんね。

安直に言えば、発想が枯渇してくるとリメークの企画が立ち上がるケースが増えますが、
本作のような例をみると、企画が立ち上がった段階から、もっと精査すべきだと思いますね。
中途半端に終わると、本作のように一体何がしたかったのか、よく分からないリメークになる可能性が高いです。

もしも、ヒッチコックが生きていたら、このリメークをどう思ったのだろうか?

(上映時間103分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ガス・ヴァン・サント
製作 ブライアン・グレイザー
    ガス・ヴァン・サント
原作 ロバート・ブロック
脚本 ジョセフ・スレファノ
撮影 クリストファー・ドイル
編集 エイミー・E・ダドルストン
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ヴィンス・ヴォーン
    アン・ヘッシュ
    ジュリアン・ムーア
    ヴィゴ・モーテンセン
    ウィリアム・H・メイシー
    ロバート・フォスター
    フィリップ・ベイカー・ホール
    リタ・ウィルソン
    チャド・エヴェレット
    ジェームズ・レマー

1998年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(アン・ヘッシュ) ノミネート
1998年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ガス・ヴァン・サント) 受賞
1998年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメイク・続編賞 受賞