プルーフ・オブ・マイ・ライフ(2005年アメリカ)

Proof

これは正直言って、しんどい映画だ。

精神を病み、24時間の介護が必要になった天才数学者を父に持つキャサリンが
父の死をキッカケに帰郷した姉、そして父の教え子であるハルと対立を繰り返し、
精神的に更に混乱を深めていく姿を描いた混沌としたヒューマン・ドラマ。

時制はかなり無秩序に構成されているし、観客に対しても不親切な印象を受ける。
主人公のキャサリンは次第に精神的に混乱を深めるにつれて、ヒステリックになったりするので、
正直言って、観客としてもかなりイライラさせられる内容の映画であることは否定できません。

ただ、敢えてこの映画を擁護させてもらうと、
この映画の作り手たちも観客を苛立たせることも目的の一つとした作品であることを否定できないと思います。

それは意外性を有すると言っても過言ではない、ラストの展開に顕著に出ています。
精神的に混乱していくキャサリンの姿を映すに、観客の視線の多くはキャサリンに行くと思うのですが、
映画も終盤に差し掛かると、キャサリンだけの問題ではないことに気づかされます。
この辺の流れなんかは悪くないと思うのですが、ただ訴求はしないですね。
言葉悪く言えば、残念ながら力不足な映画になってしまっているのです。

監督は98年に『恋におちたシェイクスピア』で大成功を収めたジョン・マッデン。
再びグウィネス・パルトロウと組んだ作品となったわけなのですが、
映画を構成する力には長けているとは思うけど、何となく決定打に欠ける印象が強いんですよね。
僕はむしろ『恋におちたシェイクスピア』よりも01年の『コレリ大尉のマンドリン』の方が良かったと思うんだけど、
いずれにしても映画として、決定打に欠ける印象が拭えないのは残念ですね。

それから気持ちは分かるけど、こういうアンソニー・ホプキンスの使い方は勿体ないですね。
出番自体が少ない上に、役柄のインパクトも弱いため、彼が芝居しようとする分だけ空回りですね。
おそらく期待されていたであろうグウィネス・パルトロウとの演技合戦も、不発で終わってしまいましたね。

元々は舞台劇用の戯曲だったためか、
各登場人物の台詞が随分と回りクドいのも、チョット気になりますね。
本作なんかはもっとシンプルな言い回しに翻訳して、理屈っぽい映画という印象は払拭して欲しかったですね。

もっと訴求力のある内容になっていれば、映画のラストももっと変わっていたのだろうけど、
何だか中途半端なラストになってしまって、映画の主張が弱くなってしまいましたね。

見せ方も中途半端なせいか、キャサリンにハルが惹かれていたという設定にも正直言って、無理がある。
これだけ再三、過去と現在を混在させた描き方をしているのだから、この2人の出会いや会話、
仕草などもしっかりと描いて欲しい。ハルがキャサリンのどれだけ想いを寄せていたのか、
ひじょうに分かりにくいですね。これではハルに下心があるだけのように見えてしまいますね。

そしてまたキャサリンはキャサリンでアッサリとハルに心を許すのだから、男女関係は分かりません(笑)。

まぁ良くも悪くも、この映画はこういった右往左往する人々の姿を描きたかったのでしょうね。
それが映画自体も右往左往させるイメージと同期するわけで、気の短い人はイライラさせられるでしょうね。
まぁ僕はそれだけなら我慢しますけど、チョット残念なのは、前述の映画の主張の弱さですね。
だから結局、最後の最後まで右往左往するだけで終わってしまい、何がしたいのかよく分からない。
最後まで観ても、イライラさせられっ放しで何がしたいのか分からないエンディングが待っていると、
さすがに「で、何なのよ?」と思わず画面に問いたくなってしまいますね(笑)。

だから僕は最初に「しんどい映画」だと言ったわけです。

何故か本作は劇場公開時、
「アカデミー賞最有力候補」みたいな日本の映画会社お得意の謳い文句が付いてましたが、
申し訳ありませんが、お世辞にも本作は賞向けの映画だったとは言い難いですね。

どうせならミステリーの路線は捨てて、父の愛情をもっと尊重した内容にすれば良かったのになぁ・・・。
不本意とは言え、24時間の介護が必要になった自分の介護は娘であるキャサリンが担当し、
キャサリンは毎日のように昼まで寝て、起きてもひたすらグータラ生活、食事はジャンクフード中心。
ボーイフレンドもいる様子がないし、女友だちも少なく、ニューヨークの姉とも仲が悪い。

おそらくそんなキャサリンの姿に、父は心配になっていたはずである。
それはかつて優秀だったキャサリンを知っており、向学心も持っていることを知っていたはずだ。

しかし、一方でいつまでも彼女を側に置いておきたいという願望もあるだろうし、
自分の介護を含め、日常生活を共にすることを希望はしていたはずだ。
だが、そこに愛情があるゆえのジレンマがある。この映画はそんな親子愛の葛藤を描くべきだったと思う。

残念ながら、ミステリーの主軸を置いてしまったがために、そんな葛藤はほぼ無視されていますね。

まぁそういう意味では、シナリオの段階から問題はあるのかもしれませんね。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・マッデン
製作 ジョン・N・ハートJr
    ロバート・ケッセル
    アリソン・オーウェン
    ジェフ・シャープ
原作 デビッド・オーバーン
脚本 デビッド・オーバーン
    レベッカ・ミラー
撮影 アルウィン・H・カックラー
編集 ミック・オーズリー
音楽 スティーブン・ウォーベック
出演 グウィネス・パルトロウ
    アンソニー・ホプキンス
    ジェイク・ギレンホール
    ホープ・デービス
    ダニー・マッカーシー