女と男の名誉(1985年アメリカ)

Prizzi's Honor

リチャード・コンドン原作の『プリッツィの名誉』を、
かつてハリウッドで数多くの名作を発表してきた名匠ジョン・ヒューストンが、
老境さしかかっても尚、創作活動意欲が旺盛であることを証明したクライム・サスペンス。

今でこそ、例えばクリント・イーストウッドのように80歳になっても、創作活動意欲旺盛に映画を撮り続ける
ディレクターもいますけど、少なくともジョン・ヒューストンと同世代のディレクターという意味では、
70年代以降のハリウッドでまともに活躍できていたディレクターはほとんどいませんでした。

それが本作を観てビックリ。まだまだ豪快な演出は健在で、映画が若いんですもの。
(とは言え、実のところ撮影現場でのジョン・ヒューストンは健康状態が優れなかったそうだが。。。)

本作が製作されてから既に25年もの月日が経過してしまいましたが、
今になって観ても、十分に楽しい映画だし、ジャック・ニコルソンとキャスリン・ターナーのコンビも抜群だ。
特にキャスリン・ターナーの圧倒的なまでの存在感は、今でも鮮烈なインパクトを持っている。
男臭い映画しか撮れないジョン・ヒューストンの映画であっても、独立したオーラを輝かせていますね。

別に悪女映画ってわけではないにしろ、
主人公チャーリーの性格にナイーブな部分があるせいか、映画は終始、アイリーンが主導権を握っている。

これだけの条件が揃えば、さすがに女性優位の映画として成立しうるのですが、
決してそうはしないのがジョン・ヒューストンの性格なのか(笑)、やっぱり本質的には変わっていない。
そう、本作はあくまで往年のハリウッドが描き続けてきた事柄を、80年代の潮流を少し“つまみ食い”しながら、
描いているだけの映画ですので、別にジョン・ヒューストンのスタンスが変わったわけではありません。

でも、それでも80歳近くになってまで、
まだ当時の映画界の風潮をここまで取り入れて映画を撮ろうとする気概が凄いと思いますね。
普通はできないですよ、ここまでは。だから僕は「映画が若い」と前述したわけです。

女性キャラクターでもう一人、アンジェリカ・ヒューストン演じるメイローズは避けて通れないだろう。
映画の序盤から、メインストーリーをかき乱すような役割を果たしながら、
チャッカリ、映画の終盤ではメインストーリーに絡んでいって、最後は美味しい部分を持っていきます。
そして評論家筋からも賞賛されたわけですから、彼女にとって本作はひじょうに大きかったでしょうね。

言うまでもなく彼女は監督のジョン・ヒューストンの娘なのですが、
本作のような役どころで親子で仕事をすることになるとは、思いもしなかったでしょうね(笑)。
どうやら彼女の実年齢より、メイローズの設定は上だったみたいで、難しい役どころだったと思います。

映画の勢いも素晴らしく、この大胆さが如何にもジョン・ヒューストンらしい。
その勢いを象徴するかのようなチャーリーとアイリーンのラブシーンを撮っているのも印象的だ。

そして何より圧巻なのは、ドンを演じたウィリアム・ヒッキーの造詣だろう。
映画の冒頭で長々と結婚式のシーンを撮っているのですが、ここで映る彼は...何と、うたた寝(笑)。
明らかに血色は良くないし、痩せこけてて、大きな声も出ず、ハッキリ言って...今にも死にそう。
だけど、この映画の妙は、次第にドンが本性を見せていくかのように、影響力を発揮していきます。
どんな状況であっても、強い影響力を持つドンをトップとする複雑なセクショナリズムを見事に表現しています。

言ってしまえば、彼らにとっても名誉をかけた闘いなのですよね。
で、その名誉をかけた闘いであるがゆえ、チャーリーとアイリーンはお互いに愛し合いながらも、
お互い別なチャネルから、お互いを殺害するよう依頼を受けてしまう展開になります。

チャーリーは組織の金をネコババしたアイリーンを殺すように依頼され、
アイリーンはメイローズのウソを信じ、激怒したメイローズの父ドミニクからチャーリーを殺すように依頼されます。

個人的には決死のクライマックスの舞台が用意されたと期待していたのですが、
このクライマックスのチャーリーとアイリーンの対決シーンが驚くほどにアッサリ終わってしまったので、
思わずビックリしてしまったのですが、このシーンは『氷の微笑』のラストシーンの元ネタであると、
僕は密かに信じています(笑)。これはアイスピックではなく、ナイフになっただけだろう。

映画はコメディ・タッチで綴られていますが、
この頃としては珍しくコミカルな芝居を見せるジャック・ニコルソンがとっても上手い。
一応は名うての殺し屋として、“その世界”では有名だけれども、実は優柔不断な主体性に欠ける男。
組織の連中には振り回され、惚れた女性にはトコトン弱い(笑)。そんなチャーリーも見事に演じています。

2時間を超えてしまう尺の長さがあるのですが、
そんな長さをあまり感じさせないテンポの良さはお見事だし、
何よりジョン・ヒューストンが晩年も、こういった元気な映画を撮っていたという事実が嬉しい。

言ってしまえば、この映画は大人のエンターテイメント。
別に過激な描写があるわけではないし、内容が渋いわけではないにしろ、
これだけ大人の色気があって、懐の深い映画というのは、そうそうお目にかかれるもんじゃありませんね。
正直言って、この手の映画は今のハリウッドでは撮れる人がほとんどいないでしょうね。

それにしてもこの映画を観て、率直に思ったことは...キャスリン・ターナーの声がイイってこと(笑)。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・ヒューストン
製作 ジョン・フォアマン
原作 リチャード・コンドン
脚本 リチャード・コンドン
    ジャネット・ローチ
撮影 アンジェイ・バートコウィアク
音楽 アレックス・ノース
出演 ジャック・ニコルソン
    キャスリン・ターナー
    アンジェリカ・ヒューストン
    ロバート・ロジア
    ウィリアム・ヒッキー
    ジョン・ランドルフ
    リー・リチャードソン
    マイケル・ロンバード
    ローレンス・ティアニー
    スタンリー・トゥッチ

1985年度アカデミー作品賞 ノミネート
1985年度アカデミー主演男優賞(ジャック・ニコルソン) ノミネート
1985年度アカデミー助演男優賞(ウィリアム・ヒッキー) ノミネート
1985年度アカデミー助演女優賞(アンジェリカ・ヒューストン) 受賞
1985年度アカデミー監督賞(ジョン・ヒューストン) ノミネート
1985年度アカデミー脚色賞(リチャード・コンドン、ジャネット・ローチ) ノミネート
1985年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1985年度アカデミー編集賞 ノミネート
1985年度イギリス・アカデミー賞脚色賞(リチャード・コンドン、ジャネット・ローチ) 受賞
1985年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1985年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(アンジェリカ・ヒューストン) 受賞
1985年度全米映画批評家協会賞監督賞(ジョン・ヒューストン) 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(アンジェリカ・ヒューストン) 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ジョン・ヒューストン) 受賞
1985年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(アンジェリカ・ヒューストン) 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ジャック・ニコルソン) 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(キャスリン・ターナー) 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ジョン・ヒューストン) 受賞