プリティ・ウーマン(1990年アメリカ)

Pretty Woman

日本はじめ、世界各国で大ヒットしたラブ・コメディ。

内容的には、いろいろと賛否両論なシンデレラ・ストーリーですが、
そもそも“シンデレラ”というには差別意識が根底にあると言われてしまうのかもしれませんが、
ハリウッドで娼婦をしていた若い女性が、企業買収を主業にして大儲けしている実業家と恋に落ち、
洗練された女性へと変貌を遂げていく過程を、コミカルに違和感なく描けたという点で、本作は秀でていると思う。

さすがはゲイリー・マーシャルの手腕で、恋愛や友情を描くことに定評ありましたが、
そこにジュリア・ロバーツという当時、ベスト・タイミングな女優をキャスティングできたことで、
この映画の成功は間違いないものになりました。この映画は、ジュリア・ロバーツに“ボディ・ダブル”...
つまり、ラブシーンでは代役を立てたことで話題となりましたが、それでも私はこの映画の魅力の大半は
やはりジュリア・ロバーツが担っていることは否定できないと思います。当時、既にハリウッドを代表する
大スターであったエドワードを演じるリチャード・ギアですら、もうほぼ“添え物”のような状態です。

それと、本作で根強い人気があるのは、高級ホテルの支配人トンプソンを演じた、
ヘクター・エリゾンドでしょう。たぶん、彼の最大の当たり役は本作なのではないかと思います。

一見すると、厳しい支配人ですが、彼がヒロインに「あなた最高よ」と言った理由は、
本音はともかくとして、ホテルに似つかわしくない風貌でウロチョロしていたヒロインに対して、
冷たくあしらうような侮辱的な対応をしたわけではなく、彼女が必要としている洗練された衣装を
知り合いの腕の確かな百貨店の婦人服売り場担当を紹介したことにあるわけで、ヒロインにとって、
劇中、初めて差別的待遇ではなく優しい対応をしてくれたことに感謝していたという意味でしょう。

そんなトンプソンの行動動機は、エドワードが大切な客であることに起因するのかもしれませんが、
そんなトンプソンで切ないのは、実質的に初めてエドワードと話しをする機会があって、
暗にヒロインに服を手配したことと自己紹介をして、エドワードがアッサリと立ち去ってしまうものの、
トンプソンはさり気なく名刺のようなものを手渡そうとしていたシーン。画面ではアッサリと通り過ぎるのですが、
映画の中で初めてトンプソンが欲を見せたシーンであり、なんとも悲哀に満ち溢れた上手いシーン演出だ。

本作のゲイリー・マーシャルはこういった細かな部分に気を配った、
実に繊細で良い演出をしている。決してキャスティングに依存した映画というわけではないと思います。

この映画のもう一つ良いところは、主人公カップルが次第に心の距離を詰めていき、
お互いの“フェンス”を一つずつ取っ払っていく過程を、丁寧に描いていることですね。
ヒロインは「体は売っても、(本気にならないため)唇にキスはしない」というポリシーを貫こうして、
キスをしたがるエドワードと、絶妙なまでにキスをしない。こういった“フェンス”を、お互いに本音を吐露し合うことで、
少しずつ信頼関係を深め、お互いに「もっと深く知り合いたい」という気持ちを強くする描写が良く描けている。

まぁ・・・エドワードがチョット嫌な奴のように描かれるのは玉に瑕(きず)。
ヒロインがなんで、心を許していくのかよく分からないところはあるのですが、ハンサムはなんでも許される(笑)。

もっとも、ビジネスで非情に徹して莫大な利益を得て、資産や人脈を築いてきたエドワードですが、
ビロインのビビアンへの恋愛感情が強まるにつれて、ビジネスへの非情さが弱くなっていきます。
終いには、映画のクライマックスで仕事仲間のスタッキーが部屋に乗り込んできて暴れてるところを、
エドワードがブン殴ってスタッキーを追い出すところを見るに、エドワードは完全にビビアンに感化されたようだ。

しかし、エドワードも酷いやり方ではあったとは言え、
1年間も準備してきた企業買収を、仕事仲間の同意も得ずに勝手に大きな決断を下すのだから、
それは反感をかって当然で、ビジネスマンとしては信用を失って、再起不能な状態になるでしょう。

そう考えれば、エドワードもいろんな意味で酷い奴だ(笑)。
ビビアンが化粧室に行った時点で、勝手に薬物中毒を疑って詰め寄るし(...まぁ・・・当然ではあるが...)、
「オレは今までお前を娼婦扱いしたことはない」と言いながらも、そもそも金で彼女に留まる決断を迫っている。
ある意味で、大きなダブル・スタンダードのように感じますが、全てはリチャード・ギアの甘いマスクに許してしまう。

が、当のリチャード・ギアは撮影後にジュリア・ロバーツとのロマンスが報じられながらも、
あまり本作のことを良く思っていない発言が報じられたり、どうやらそれぞれに色々な思いがあるようだ。
映画としては、バブル期の空気感が漂う内容であり、少し古びたところが時代遅れな印象を持つかもしれませんが、
ハリウッドも華やかで元気だった頃の空気感を持っていて、良い意味で懐かしい映画だとは思いますがね。

往年の名作『マイ・フェア・レディ』を90年代版に焼き直した作品ですが、
このバブルな空気感をもって、オシャレな雰囲気を匂わせながら、男女の恋愛を綴ったゲイリー・マーシャルは
本作を観ていて感じたのですが、ストーリーテリングが凄く上手いですね。段取りを意識した組み立てに感じます。

ホントはもう少しシリアスな要素を内包した作品になるように脚本が仕上がっていたようですが、
プロダクションとも協議して、コミカルな映画の仕上がりにしようと方向性を転換したようです。
その方がゲイリー・マーシャルの得意分野とマッチしていて、結果的には正解だったように思いますね。

そしてロイ・オービソンの有名な『Oh, Pretty Woman』(オー、プリティ・ウーマン)が主題歌ですが、
彼が他界した直後ということもあり、実質的なリバイバル・ヒットとなり、今やスタンダード・ナンバーですね。

そういえば、90年代半ばにずっと映画雑誌では、本作の続編の噂があると報じていましたが、
結局、99年にリチャード・ギアとジュリア・ロバーツが再共演した『プリティ・ブライド』という作品が
製作されただけで、日本では勝手に続編であるかのようなニュアンスで宣伝してましたが、
『プリティ・ブライド』は本作と全く無関係な別な作品であり、当時の映画ファンはガッカリしたことでしょう。

まぁ・・・続編が無いことに良さがあると思いますし、
エドワードとビビアンのその後と言われても、映画化するほどの魅力ある物語にすることは、
そうとうな難儀であっただろうし、元々、ゲイリー・マーシャルにも続編を作る気はなかったでしょうね。

映画として惜しいのは、エドワードがいつ頃から本気でビビアンに恋し始めたのか、
チョット、心の揺れ動きが分かりづらいことで、ビビアンを引き止め始めるのが唐突に見えること。

ビビアンが夢を掴んだステップはしっかりと描けていて、
エドワードが違う世界を見せてくれた年上のオジサマとして恋ときめくという展開は分かるのですが、
エドワードから見れば、ビビアンのどこに魅力を感じたのか、肉体関係を超えるものを感じる瞬間を描くべきでしたね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[PG−12]

監督 ゲイリー・マーシャル
製作 アーノン・ミルチャン
   スティーブン・ルーサー
脚本 J・F・ロートン
撮影 チャールズ・ミンスキー
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 リチャード・ギア
   ジュリア・ロバーツ
   ローラ・サン・ジャコモ
   ラルフ・ベラミー
   ジェイソン・アレクサンダー
   ヘクター・エリゾンド
   ハンク・アザリア
   エリノア・ドナヒュー
   アレックス・ハイド=ホワイト

1990年度アカデミー主演女優賞(ジュリア・ロバーツ) ノミネート
1990年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ジュリア・ロバーツ) 受賞