プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角(1986年アメリカ)

Pretty In Pink

まぁ・・・これは80年代の青春映画ファンなら、とりあえず押さえておきたい一本だ(笑)。

まぁ当時の“ブラット・パック”と呼ばれた青春映画スターの勢いは凄かったものですから、
例えば本作のようなオーソドックスに作られただけの映画であっても、実に魅力的に見えたりします。

確かに他にもっと良い出来の青春映画はあるのですが、
何より僕がこの映画の好きなところは、他の映画にはない可愛らしさが強く感じられることですね。
同じハワード・ドイッチ監督作でも、87年の『恋しくて』よりも、僕は本作の方が好きですね。
その違いはどこにあるかって言うと、ハッキリ指摘するのは難しいけれども、敢えて言えば「可愛らしさ」ですね。

正直言って、こんなことを言うと失礼ですが...
ヒロインを演じたモリー・リングウォルドは80年代を代表する青春映画スターの一人ですが、
とてつもない美貌であったり、圧倒的に演技が上手いというわけではない。
でも、彼女にしても奇跡的と言っていいぐらい、本作のキャラクターとして見事にフィットしているんですよね。

そしてこの映画は何と言っても、ジョン・クライヤー演じるダッキーが秀逸だろう。
彼が造形したキャラクターは、映画史に残る傑出したものだったと言っても過言ではありません。

10代にして、好きな人に面と向かって「愛してる」なんて言えちゃうのがステキ(笑)。
「あぁ、そうか10代だから言えるのか」と変に納得してしまいますが(笑)、実直な姿勢が何とも微笑ましい。
ヒロインのことが好きで好きでたまらなくて、勢い余ってアンディの父親に結婚宣言してしまう可愛らしさ。

映画のストーリーは単純で、裕福な一家の出身が多いハイスクールで
自らが貧しい家庭の子供であることをコンプレックスに抱えているヒロインのアンディの物語です。
幼馴染のダッキーから愛を伝えられても、彼女にとってダッキーはあくまで幼馴染の男の子。
彼女は自らの家庭環境をコンプレックスに感じながらも、高校最後のプロムに誘われることを夢見て、
積極的なアプローチをしてきた電機メーカーの御曹司ブレーンとの恋に夢中になる。
しかし、ブレーンとの交際の中で、アンディは次第に違和感を感じていくのです・・・。

ストーリーだけを考えると、よくあるタイプの青春映画と言えばそれまでですが、
侮るなかれ...この映画はよくあるタイプの青春映画には留まらない魅力があります。
まぁ言ってしまえば、定石通りの映画のようで、定石通り進まない映画なんですよね。

少なくとも、この映画は恋愛劇のセオリーを完全に無視していると言っていいと思いますね。
僕なんかは初見時、全く違うクライマックスとなることを予想していたものですから、
かなり大きく驚かされたことが記憶にあります。この辺は実に上手くできていると思いますね。

それと、前述した可愛らしさが映画のカラーとして定着していることが大きいかな。
それは勿論、ダッキーとアンディのカップルの関係性が象徴するからと言えばそれまでなのですが、
アンディの部屋の細部にわたる描写や、劇中、随所に挿入される音楽の数々など、
どこなく可愛らしい愛着を感じさせる映画の世界観になっているのが大きなセールスポイントだと思う。
(ひょっとしたら、これはアンディが貧しい家庭環境に置かれているということが影響しているのかも・・・)

本作もジョン・ヒューズの手にかかった映画であり、
この時代の青春映画をプッシュするムーブメントに強く後押しされたような映画ではありますが、
どことなくこういう映画を観るたびに、記憶の中の80年代の空気に触れられるのが嬉しいですね。
僕なんか、80年代とは言え、89年の春に小学校に入学しましたから、実はほとんどリアルタイムに生きたとは
言い難いのですが(笑)、それでもこの時代って、こうして観ると凄く独特な空気を感じるんですよね。
それは良い意味でも、悪い意味でも、映画のようなメディアにも影響を与えていると思うんです。

本作のような青春映画って、近年はめっきり数を減らしてしまいましたから、
僕はいつまでも大切にしたい一本として、本作なんかは大好きなんですよね。
何故かって、そういう青春の感覚を思い起こさせてくれるだけの力が感じられるからなんですよね。
それはチョットだけシビアな85年の『セント・エルモス・ファイアー』なんかも同じ感じなんです。

アンディの父親を演じたハリー・ディーン・スタントンが印象的でしたね。
彼は古くから活躍する超ベテラン俳優で、本作出演時も既に60歳を超えておりましたが、
本作のような優しい父親も演じられるし、一転して危険な殺し屋なども演じられる器用さがあります。

特に本作では強いコンプレックスを抱える難しい年頃のアンディを支える存在として、
極めて重要な役どころであったがゆえに、彼の存在感はひじょうに本作に対する貢献度は大きかったと思う。

いやぁ...返す返すも、ダッキーはいい男だ。
彼がここまで見事に描かれていなければ、この映画はここまで輝かなかったかもしれません。
そこで気になるのは、演じたジョン・クライヤーが「今、何してるのか?」ってこと。
調べたら、どうも俳優業は続けているものの、あんまりパッとしないみたいですねぇ。。。

映画俳優として本作に続くヒットに恵まれず、テレビ界に活動を移したものの、
やはり上手くいかずにプロデューサー業へ転身するも、やはりあまり上手くいっていない模様。
ルックスは嬉しいことに、本作のダッキーの面影を未だにわずかながらも、残していますね。

彼の低迷は凄く勿体ないなぁ〜...
本作で彼が演じたダッキーなんかは、ほぼ間違いなく映画史に残る傑出したキャラクターだと思うのに・・・。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ハワード・ドイッチ
製作 ジョン・ヒューズ
    ローレン・シュラー=ドナー
脚本 ジョン・ヒューズ
撮影 タク・フジモト
音楽 マイケル・ゴア
出演 モリー・リングウォルド
    アンドリューマッカーシー
    ジョン・クライヤー
    ハリー・ディーン・スタントン
    クリスティ・スワンソン
    ジェームズ・スペイダー
    アニー・ポッツ
    ケイト・ヴァーノン
    ジーナ・ガーション