プラトーン(1986年アメリカ)

Platoon

オリバー・ストーンが自身の体験に基づき、狂気のベトナム戦争の現実を描いた戦争映画。

本作が監督デビュー作というわけではありませんが、それまでは脚本家としての方が知られていた
オリバー・ストーンでしたが、本作で一気に映画監督としての評価を上げ、映画監督としてのキャリアを築きます。

本作では、現地ベトナムでの闘いに大義はなく、現実には長い戦地での生活に常軌を逸した行動をとる兵士が多く、
殺人・強奪・強姦・薬物依存などが横行し、敵軍であれば人間扱いをしないという方針が蔓延り、士気は上がらない。

まぁ、これは戦争の現実に近いのでしょう。オリバー・ストーンは執拗にベトナム戦争を題材に
映画を撮り続けたので、それだけ強烈な体験だったのでしょう。マリファナはなかなかやめられないみたいですが・・・。

戦争は人々がお互いに殺し合いをするという不条理な環境に置かれるわけで、
どんなに高尚な考えがあった人であっても、愛国心に燃えていた人でも、理想を掲げていた人でも、
この常軌を逸した環境で、長い時間、凄まじい緊張感の中で過ごしていれば、精神的におかしくもなるだろう。
訓練を受けてきていたとしても、元々は一般市民。敵軍を殺したなんてことがあれば、精神的ショックも大きいはず。

そんな中でも、部隊を率いて軍部からの評価も上がってくれば、勝手に作ったレガシーを果たすことを考え出す。
トム・ベレンジャー演じるバーンズ軍曹が正にその典型例で、何に目的があるわけでも名誉欲があるわけでもないが、
部下たちから崇められる存在になり、長い戦地での生活から常軌を逸するようになり、任務を果たすためであれば
何でもアリになり、部下が無法状態のやりたい放題でも黙認し、相手国の一般市民たちを殺すことも躊躇しない。

そこに大義など存在しないことは、バーンズ自身、とっくの前に気付いているはずだが、
延々と答えのないものを求め始め、敵国を制圧するためには手段を選ばなくなる。そんな彼に反発するのがエリアス。
エリアスは薬物中毒ではあったが、戦地とは言え、良識を持ち続けた男であり、バーンズの思想には異を呈する。

対立が明確化するバーンズとエリアスでしたが、危険な状況であったのがバーンズはあくまで手段を選ばぬ男で、
バーンズは邪魔する者であれば、味方であっても手段を選ばない男だったということで、より不穏な空気になります。

本作はオリバー・ストーンの実体験に基づいたオリジナル・ストーリーなので、
これがどれだけ事実を参考にしたのかは僕にはよく分からないが、こうなってもおかしくはない状況だったのだろう。
やはり戦争は人間を変えてしまうのです。戦争は往々にして国が主導して始めることなので、とても罪深いことだ。
そもそも戦争が無ければ、こんなことにならないはずで、人々の人生を変えてしまうこともないはずです。

あくまで、本作を通してオリバー・ストーンが主張したい最たるテーマは、反戦でしょう。
そのためにベトナム戦争の現実に鋭く切れ込むことで、その不条理さを訴えることで反戦を描きたかったのだろう。

結果として、本作は1986年度アカデミー賞で作品賞をはじめとする主要7部門でノミネートされ、
助演男優賞にいたっては敵対したバーンズを演じたトム・ベレンジャーと、エリアスを演じたウィレム・デフォーが
タブル・ノミネートされ、作品賞など4部門を受賞しました。この年で最も高く評価されたハリウッド映画ということです。

正直に白状すると、僕はこの映画、低予算映画としてはよく作ったなぁと感心する出来ではあるけど、
この年のNo.1というに相応しい作品かと聞かれると、実はあんまりそう思っていない。当時は衝撃的だっただろうけど。
同じオリバー・ストーンの監督作品なら、同じ年に撮った『サルバドル/遥かなる日々』の方がずっと優れた作品だと
思っているし、映画としての訴求力も桁違いにあちらの方がいい。しかし、本作で抜きんでたものがあるとしたら、
それはインパクトでしょう。戦争の狂気を描いたというだけなら、79年にコッポラが『地獄の黙示録』を撮っているけど、
本作は敵軍だけではなく、都合が悪いことがあれば味方をも殺めるという、ただの殺人者を生み出す構図だろう。

確かにこういったタブー的な闇を描いたのは、本作が初めてだろう。これは確かにインパクトがある。
しかし、僕に言わせれば、本作はそれだけだ。戦争のシーンにしても、どこか表層的でまるで演劇のよう。
全く臨場感が無ければ、いつ自分の命が奪われるかも分からない、というような緊張感も希薄で物足りない。
これならば、デ・パルマの『カジュアリティーズ』の方がよっぽど、戦場の臨場感を描けていたのではないかと思える。

せっかく映画というメディアの中で戦争の狂気を描くのだし、実際に戦争を体験したオリバー・ストーンなのだから、
感覚を表現するのに制約がある演劇チックな演出に終始するのではなく、もっと観客に体感させて欲しかった。
そして、それが執拗に描かれるからこそ、映画に説得力が生まれる。本作にはそういう根気が全く感じられない。

トム・ベレンジャー演じるバーンズ軍曹も、どうせ常軌を逸した軍人なのだったら、もっと徹底的にやって欲しい。
この程度だから現実感あると言われるかもしれないが、この程度の狂いっぷりなら、インパクトは残らない。
だって、彼はベトナム戦争でも有数の戦争犯罪を犯した人物になると思いますよ。なら、もっと徹底的にやって欲しい。
どこか、中途半端にバーンズのキャラクターにストイックさを残そうとしている感じで、作り手のアプローチが中途半端だ。

これはオリバー・ストーンの作戦のようなものですが、映画を観終わるとドンヨリした気分にさせられ、
どことなく居心地の悪さを感じさせられる作品だ。なんせ兵士同士が物凄く仲が悪く、ケンカは勿論のこと、
差別的な発言やら中傷が横行し、仲間同士で人間関係が最悪なわけですから、気持ちが安らぐことはありません。

どちらかと言えば、敵国への理不尽なまでの暴力や味方同士での仲間割れとも解釈できる、
戦場での常軌を逸した“覇権争い”がメインになっているので、普通の戦争映画とは違った切り口を持っている作品だ。

でも、どうせなら戦地での闘いの中で、自分の命がいつ奪われるか分からない恐怖というものを
もっとストレートに表現した方が、強制的に戦争に若者が駆り出される不条理さを象徴できたと思います。
そういう内容にすると、相手国の立場で描いていないなどと政治的な中立性を求める声もあるとは思いますが、
どうせオリバー・ストーンだってベトナム戦争に従軍した立場から、アメリカ人としての視点が一番よく分かっているはず。

ベトナム戦争をドキュメントすることに力点を置いた映画というよりも、
どちらかと言えば、「ベトナム戦争は間違っていた」と問題提起する反戦映画なのだろうから、
その時点で中立性を求めることは難しいと思う。だったら、米兵として戦争の恐ろしさを何に強く感じたかって、
どこに敵軍がいるか、いつ襲ってくるかも分からない緊張感に長時間晒されることが、一番の恐怖であっただろうから
中途半端に悪党を描くなら、思いっ切り戦地での恐怖を描いた方が、もっと反戦のメッセージは伝わったと思う。

この映画の内容では、バーンズが元々“そういう”人間性で出征前から人格的に問題があったのか、
それとも長期化した戦争がバーンズを“そういう”人間に作り変えてしまったのか...なんとも判断がつかないので。

でも、僕にはオリバー・ストーンにはいわゆる戦争映画は撮れないのではないかと思う。
戦場の緊張感、激しさ、惨さを真正面から描きたがっているわけではなさそうにしか見えないのですよね。
本作で僕が最もガッカリさせられたのは、かの有名なビデオ・ジャケットにもなったエリアスのポーズですよ・・・。

そもそも、個人的には描くなくともいい、余計なシーンでもあるとは思っているのですが、
それ以上に何故にスローモーションに編集したのか、作り手の意図がサッパリよく分からない。
観客の感情を煽動したかったのかもしれないが、僕はあれは興醒め。これなら、普通にやって欲しかった。
サム・ペキンパーばりに“撃たれる美学”をスローモーションで表現したかったのかもしれないが、あれでは台無しだ。

申し訳ないけど、僕にはこの編集で戦地の息吹きを感じろと言われても、まったくもって無理ですね。
勘違いしないで欲しいのですが、僕はオリバー・ストーンが嫌いなわけではないし、支持している作品はいっぱいある。
ただ、最も最初に監督として評価された本作のことは、どうしても支持できないのです。最初に観たときから、ずっと。

ずっと昔に観て、イマイチだなぁと感じていて、中年になってから観ると、
また印象が違うかなぁ〜と期待したところはあったのだけれども、残念ながらその印象は覆りませんでした。
オリバー・ストーンの力量はこんなものではないでしょう。もっと優れた映画を撮ることができるディレクターです。

ところで89年『メジャーリーグ』でチームメイトを演じたチャーリー・シーンとトム・ベレンジャーの
主演コンビは実は本作で共演していたのですね。『メジャーリーグ』では、2回目の共演だったんですね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 オリバー・ストーン
製作 アーノルド・コペルソン
脚本 オリバー・ストーン
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 チャーリー・シーン
   トム・ベレンジャー
   ウィレム・デフォー
   ケビン・ディロン
   フォレスト・ウィテカー
   ジョン・C・マッギンレー
   フランチェスコ・クイン
   キース・デビッド
   デイル・ダイ
   ジョニー・デップ

1986年度アカデミー作品賞 受賞
1986年度アカデミー助演男優賞(トム・ベレンジャー) ノミネート
1986年度アカデミー助演男優賞(ウィレム・デフォー) ノミネート
1986年度アカデミー監督賞(オリバー・ストーン) 受賞
1986年度アカデミーオリジナル脚本賞(オリバー・ストーン) ノミネート
1986年度アカデミー撮影賞(ロバート・リチャードソン) ノミネート
1986年度アカデミー音響賞 受賞
1986年度アカデミー編集賞 受賞
1986年度ベルリン国際映画祭監督賞(オリバー・ストーン) 受賞
1987年度イギリス・アカデミー賞監督賞(オリバー・ストーン) 受賞
1987年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1986年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1986年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(トム・ベレンジャー) 受賞
1986年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(オリバー・ストーン) 受賞
1986年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 受賞
1986年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(ウィレム・デフォー) ノミネート
1986年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(オリバー・ストーン) 受賞
1986年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(オリバー・ストーン) 受賞
1986年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(ロバート・リチャードソン) 受賞