猿の惑星(1968年アメリカ)

Planet Of The Apes

今となってはSF映画の古典ですが、これは古びない面白さがありますね。

内容的には全く対極する内容ではあるのですが、
僕の中ではこれはこれでニューシネマというか、当時としては全く斬新なSF映画だったことでしょうね。
何と言っても、映画のクライマックスの絶望的なまでの名シーンが絶大なインパクトで忘れられません。

あまり言うと、この映画の楽しみが削がれてしまいますが、
この衝撃的というか、絶望感いっぱいのラストシーンなんて、まんまアメリカン・ニューシネマですよ(笑)。
作り手もそんなことを意識して撮っていたわけではないでしょうけど、これは映画史に残るラストですよ。

01年に酷評された本作のリイマジネーション『Planet Of The Apes/猿の惑星』が
ティム・バートンの手によって製作されましたが、あれはあれで僕は別物の映画として楽しめました。
ただ、やはりオリジナルである本作の強いインパクトには遠く及ばない出来栄えで、見劣りするのも事実。

監督のフランクリン・J・シャフナーは少々、演出が荒っぽいなぁとは感じるけど、
あまり緻密さが無く、少しラフなタッチで描いたのが逆に功を奏したというか、本作に合っていると思います。

猿の特殊メイクを担当したジョン・チェンバースがアカデミー名誉賞を受賞してますが、
確かに本作でそれぞれに微妙に異なる猿の顔を作った特殊メイクは、スタッフの力を感じさせます。
そんな猿たちが淘汰され自分たちの世界を作り上げ、人類が下等生物として虐げられるという展開ですから、
猿の集落が群れになっているシルエットを観たら、このメイクによるインパクトは大きいと感じますね。

が、この映画にもチョットした無駄はあると思う。

映画の序盤に主人公含めた3人のクルーが不時着してから、
たどり着いた惑星を探索するということで、男たちが滝つぼと小さな池を見つけて、
全裸になって泳ぐシーンがありますけど、そこから続くシーンでは、カメラが必死に男たちの下半身を映さないように
必死にカメラアングルを工夫している涙ぐましい努力を感じるのですが、そんなこんなやっている前半はやや冗長。
(それでも、池に飛び込むチャールトン・ヘストンのシーンでボカシがかかっているのですが・・・)

肝心かなめの猿の集団に遭遇するまでに30分を費やしてしまう。
映画として前置きが必要なのは分かりますが、もう少し映画の前半はコンパクトにしても良かったでしょう。
クルー同士が突然として口論になるのなんて、映画の本論とは関係ないので、割愛できたと思いますしね。

いざ、猿たちが暮らす集落のシーンになると、猿が人間を監視していたり、
本能的なのか猿の居住地が、“猿山”のようなデザインになっているなど、あくまで人間目線で描かれますが、
猿たちが文明社会を形成していて、謎の言い伝えとして「聖典」と呼ばれる聖書のようなものを尊い、
科学の発展のためにアカデミーを作り、実験動物として人間を囲っていることに対し、動物愛護を訴える猿が
捕らえた人間たちを監獄に入れることに反対するなど、人間と猿の関係性を逆転させた描写が面白い。

猿の言語が英語であることの不思議など、細かなことはさておき、
猿の社会にも裁判制度があって、弁護士がいる法廷があるという設定も面白い。
ステレオタイプな人間社会の勝手なイメージという気もするけど、裁判官が年寄りの猿で、
弁護士が若く、脅威とされてきた人間の能力の高さに気付いて、変化を受け入れようとするという
対立構図も悪くなく、結果としてシーラとコーネリアスというキャラクターを立てたことで、シリーズ化につながりました。

ピエール・ブールの原作も面白いのでしょうけど、
これだけ魅力的な映画に仕上げたのですから、やはり当時のフランクリン・J・シャフナーは冴えていましたね。

本作の後、70年の『パットン大戦車軍団』でアカデミー賞監督賞にノミネートされますが、
やはりこの時期がピークだったのでしょうね。本作も衝撃的な原作なだけに難易度は高かったと思うのですが、
実に上手いことやってのけたという感じで、彼の持ち味と企画が上手くマッチしていた時期だったのかもしれません。

本作はチャールトン・ヘストンの代表作の一つにもなり、どうやら続編への出演は拒んでいたようですが、
それでも70年代に入ってからはB級SF映画にも出演するようになったことから、本作への出演とヒットが
チャ−ルトン・ヘストンのフォーマットの一つになりました。これまでは歴史映画や戦争映画が多かったですから。

本作でのチャールトン・ヘストンはやたらと男臭さを強調していた気がします。
映画全編にわたって“裸族”のような映り方をしていて、全裸で泳いじゃったりするのですが、
すぐに人間と思われる集団の若い女性に目をつけて、同じ檻に入って寄り添って寝始めるし、
最後に一緒に連れて洞窟へと向かっていっちゃうあたりが、チャールトン・ヘストンの全てを物語っている。

男性としてのセックス・アピールが強いというか、画面いっぱいに彼の熱気が漂っている。
ある意味では、ムサいというか、熱い映画だ。僕はこれは意図的というか、彼自身も意識していたと思う。
だから素直に自供しなければ去勢すると言われて、凄くビビッて、強く抵抗したのかもしれません。

この映画で白人である主人公のテイラーが、猿に拘束され、発言権や自由を奪われるというのは、
皮肉の意味もあるようで、白人優越主義的、若しくは植民地主義的な考え方へのアンチテーゼであったよう。
一説による原作者が第二次世界大戦下、アジア圏で現地人を強制労働させるのを管理する日本人といった構図で、
猿を擬人化して捉えたわけで、原作者としても日本人を猿モデルにして描いたものであったのかもしれません。

最初に猿が登場してきたシーンでは、いきなり人間を捕獲しに襲いに来るだけに、
目的がよく分からない怖さをもって猿たちが描かれていたのですが、次第に人間臭く文明をもって、
社会を形成してきたのがよく分かる、ある意味で擬人化した描写がとても良かったと思いますね。

だからこそ、映画の途中で立場が逆転したかのように見えますが、ある意味でこれで対等な関係なのです。

ジェリー・ゴールドスミスの音楽も緊張感あって良い。
やはりサスペンス映画の音楽を担当させたら、ジェリー・ゴールドスミスは良い仕事しますねぇ〜。

本作でのフランクリン・J・シャフナーは編集も含めて、こういった部分も良い選択ができていたと思います。
本作のヒットがなければ、おそらく70年代のカルトSF映画のブームは無かったのではないかと思います。
そういう意味で、凄く影響力の強い作品で当時の映画ファンに与えたインパクトは大きかったのでしょうね。

是非とも、ずっと語り継いでいきたい傑作SF映画ですね。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 フランクリン・J・シャフナー
製作 アーサー・P・ジェイコブス
   モート・エイブラハムズ
原作 ピエール・ブール
脚本 ロッド・サーリング
   マイケル・ウィルソン
撮影 レオン・シャムロイ
編集 ヒュー・S・フォウラー
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 チャールトン・ヘストン
   キム・ハンター
   ロディ・マクドウォール
   リンダ・ハリソン
   モーリス・エバンス
   ジェームズ・ホイットモア

1968年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート
1968年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1968年度アカデミー名誉賞(ジョン・チェンバース) 受賞