大災難P.T.A.(1987年アメリカ)

Plains, Trains & Automobiles

シカゴに暮らす広告会社に勤務するニールは、
手掛けたデザインを見てもらうためにニューヨークへ出張してきますが、
会議が遅くなってしまい、感謝祭を家族と過ごしたいニールは急いで空港へ向かいます。

やっとの想いで拾ったタクシーは、フッと油断しているうちに巨漢のデルに奪われ、
失意のニールはバスで空港へ向かい、乗り遅れるかと心配したものの、飛行機は出発が遅れ待たされることに。

待合室でニールはデルと会い、イラッとした感情が沸き立つものの、なんとか飛行機へ搭乗します。
1ヶ月前からファーストクラスを予約していたニールだったものの、予約の手違いでエコノミーへと移動させられ、
不覚にもニールはデルの隣の座席に座ることを余儀なくされ、以降、シカゴへ戻るための珍道中が始まります。

80年代は大活躍だったジョン・ヒューズの監督作品で、
やはり80年代の映画って、独特な雰囲気がありますねぇ。これはとても良く出来たコメディ映画です。

確かに派手に笑えるシーンはほとんど無いのですが、
おりしも80年代は絶好調だったスティーブ・マーティンと、94年に急逝してしまった、
懐かしのジョン・キャンディの名コンビぶりが実に微笑ましく、十分に楽しませてくれます。

スティーブ・マーティン演じるニールは映画のタイトルになっている、
“災難”というより、とことん不幸なビジネスマンといった感じで、とにかくツイてない。

そもそもニューヨークから搭乗した便で、いくらシカゴの空港が雪で着陸できないとは、
その代替着陸先として更に遠く離れたウィチタまで連れて行かれてしまう時点で、
不幸以外の何物でもないのですが(笑)、それから陸路でゆっくりと移動を強いられるのも可哀想だ。

映画は実に上手くニールに次から次へとアゲインストな風が吹く様子を描くのですが、
結果的にその引き金が全てデルにあるような感じになってしまって、途中からデルが悪魔に見えるような、
シュールな描写があったりして、本作でのジョン・ヒューズは色々と細かいギャグを入れてきます。

でも、デルはデルで不幸な境遇があるとは言え、
こんな男と珍道中を強いられるなんて、嫌だなぁ(笑)。だって、デルは明らかに不幸を引き寄せてるようで。

ホテルでコソ泥に財布の中にある現金を抜き取られるのは、
ニールとデルの連帯責任とは言え、不用心さが招いた結果だし、車が丸焦げになってしまったのは、
音楽に夢中になって、運転に集中できずに車を回転させてしまったことに端を発しています。
結果として、デルが疫病神に見えてしまうようになってしまったのは、仕方のないことな気がします。

でも、そんな微妙なキャラクターをジョン・キャンディが実に上手く演じている。
おそらくこのデルという男を演じるのは、そんなに簡単ではなかったと思うんですよね。

ややもすると、徹底的に嫌われてしまうようなキャラクターに陥ってしまうし、
そんな最低な男に落ちぶれてしまう、ギリギリのところで最低な男には見えないようにさせた。
特に映画の前半から後半にかけて、実に巧みにデルという人間性を表現できていると思いますね。

まぁ・・・シナリオの時点で上手かったとは思うんだけど、
またジョン・ヒューズの演出もとても上手くて、デルを最初はウザったく見せておきながら、
クライマックスに近づくにつれて、徐々に徐々にデルに人間味を持たせてきます。
そういう意味で、車が丸焦げになってしまってから泊まったモーテルでのエピソードが泣かせます。

少し最後は出来過ぎなエンディングなのですが、
それでも程よくホロッとさせられるあたりは、ジョン・ヒューズの当時の鋭さが伝わってきます。

映画の序盤で、ニールがタクシーを奪い合うために競争する若いビジネスマンに
若き日のケビン・ベーコンがゲスト出演しているのですが、強いインパクトを残しますねぇ。
まるで西部劇のような演出から競争がスタートするのですが、これが映画が動き出す瞬間ですね。

今となっては、ジョン・ヒューズが他界してしまったせいか、
こういう安定したコメディ映画を撮れるだけの力量を持った映像作家が、
今のハリウッドからいなくなってしまったのは、とても残念ですね。こういう存在って、ホントに貴重なんです。

この頃のジョン・ヒューズ監督作品としては、
86年の『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』と並んで、本作は代表作の一つでしょう。
映画の完成度としては、本作の方が高いと言ってもいいような気がします。
(まぁ・・・映画のジャンルが違うので、あまり安直に単純比較はできないとは思いますが...)

しかし、主人公のニールがセントルイスの空港でレンタカーを借りて、
カウンターから離れた駐車場までバスで送られて、指定された駐車場まで行ってみたら、
手違いで車が無くって、気づいたときには送迎バスも出発してしまった後だったというエピソードを観て、
如何にもアメリカっぽい話しだなぁと思いましたね。これは日本だったら、大クレームでしょう。
サービスに対する考え方の違いというか、日本はやはり“おもてなし”の精神を重んじるせいか、
サービスの内容や商品の品質に対する消費者の反応は厳しいですよね。

それだけでなく、故障で立ち往生してしまった鉄道会社の対応だとか、
日本ではありえない対応が続出で、どことなくカルチャー・ギャップを感じますね(笑)。

80年代はスティーブ・マーティンが絶好調の時代で、
実に数多くのヒット作に出演しておりましたが、日本では残念ながら知名度が上がりませんでした。
全米では人気コメディ俳優と言っていいポジションだし、かつて何度もアカデミー賞の司会を担当したり、
日本でも劇場公開された作品が数多いにも関わらず、日本では人気が上がりませんでした。

本作は日本でも根強い人気がある作品でもありますので、
スティーブ・マーティンの魅力をしっかり味わえる作品として、今一度、再評価を促したいですね。

ジョン・ヒューズのようなタイプの映像作家も今のハリウッドにはいなくなってしまっただけに、
もう一度、コメディ映画を撮るにあたっての見本にして欲しい作品なんですよね・・・。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・ヒューズ
製作 ジョン・ヒューズ
脚本 ジョン・ヒューズ
撮影 ドナルド・ピーターマン
音楽 アイラ・ニューボーン
出演 スティーブ・マーティン
    ジョン・キャンディ
    ライラ・ロビンズ
    ケビン・ベーコン
    ディラン・ベイカー
    マイケル・マッキーン
    ダイアナ・ダグラス