プレイス・イン・ザ・ハート(1984年アメリカ)

Places In The Heart

79年に『クレイマー、クレイマー』で高く評価されたロバート・ベントンが描く、
世界恐慌時代のアメリカの田舎町で起こる、貧困と人種差別の現実を垣間見る家族を描いたヒューマン・ドラマ。

僕はそこまで映画の出来自体は悪くはないと感じました。良くも悪くも、破綻のない内容です。
84年度のアカデミー賞に於いて、作品賞を含む主要7部門でノミネートされ、2部門を獲得することになります。
シングルマザーとして頑張るサリー・フィールドが79年の『ノーマ・レイ』に続いて、2回目の主演女優という快挙でした。

まぁ、経済環境が厳しい大恐慌時代の出来事ですから、一家離散などの悲惨なことも数多くあったのだろう。
本作で描かれる家族は、主婦エドナが予期せぬ事件で警察官の夫を失うところから、映画がスタートします。
夫が生きていた頃は、家庭の財布は全て夫がコントロールしていたおかげで、全く懐具合を理解していなかった
エドナでしたが、実は経済的にローン返済を含めて、かなり困窮していることを銀行から聞かされ、落胆します。

たまたま、職を失った黒人の労働者モーゼスが、綿花栽培のノウハウがあると主張したことで、
ありったけの財産を投じて、エドナが保有する広大な土地を綿花畑に変え、農家として生きていく覚悟を決める。

しかし、周囲の風当たりは厳しく、綿の市場価格の大幅な下落もあり、エドナの目論見も狂ってきます。
それでも初志貫徹に貫く覚悟を決めたエドナは、幾多の困難を乗り越え、綿花を大量に摘むことをやり遂げるのです。

ロバート・ベントンらしく、極めて常識的かつ誠実な語り口で描かれていますが、
映画の中盤に低気圧が接近して竜巻が町を襲うシーンがあるのですが、これが迫力満点の描写で驚いた。
貧困にあえぐ時代に自然災害が起こると、祟り目に弱り目という感じですが、この絶望感が妙に印象に残る。
しかし、それでも前を向くエドナの姿が本作の強さを象徴していて、観ていると清々しい気持ちにさせられる。

そういう意味でも、僕は本作は実に良い映画だと思った。単に脚本が良いとか、そういうことではなく、
観ていて良い気持ちにさせられる作品で、観た後の後味も悪くない。ラストシーンの教会でのシーン演出は
チョット出来過ぎというか、作り手にとっても登場人物にとっても都合の良過ぎるラストだが、許容されるところだろう。

特に綿花を摘む作業を、しっかりと映していることは感心した。
映画の中で、こういう作業をしっかり映すということ自体、あまり無いことですし、モーゼスが言うように
熟練しないとウッカリ指を切ってしまう作業であり、少人数で1年目の収穫から1番乗りになることの難しさを感じる。
この作業をしっかりと映さないと、やっぱりエドナが目指していたことのハードルの高さが分からないですからね。

キャストとしても、本作が映画デビュー作だったという盲目のウィルを演じたジョン・マルコビッチは
役に恵まれた印象があるけど、健気に頑張るヒロインのサリー・フィールドと対等に渡り合う好演だと思う。
自らエドナに売り込みに来るダニー・グローバー演じるモーゼスも好演だが、彼はもう少ししっかり描いて欲しかった。

ただ、僕はこの映画を観ていてスゴく気になったのは、
ロバート・ベントンなりに描きたかったエピソードが多かったのだろうけど、全体的に欲張り過ぎた印象があること。
ひょっとしたら、元々はもっと長編の映画で編集段階で削ったのかもしれませんが、あれやこれや描き過ぎだと思う。

映画のヴォリューム感を出すために、エド・ハリス演じるエドナの義兄ウェインと、
彼の友人夫婦の妻との不倫関係なんかも、映画の冒頭からしきりに描かれるのですが、あまり必要性が分からない。
これはホントは、もっと意味のあるエピソードだったのだろうと思うのですが、肝心なところが描かれず中途半端だ。
この不倫カップルを演じたエド・ハリスとエイミー・マディガンは本作の共演が縁で、実生活でも結婚したわけで、
そういう意味では意義深かったのかもしれませんが、どうせ描くならもっとキチンと描いて欲しかったですね。

それだけでなく、映画の終盤に唐突にKKKが登場してきて、人種差別の問題がクローズアップされるのですが、
これは映画の序盤から、黒人は使用人、若しくは労働者としてしか見なされていなかった時代の映画ですので、
最初っから人種差別を一つのファクターとしていた作品だっただけに、KKKの存在を描くなら、もっと早く出して欲しい。
その方が、人種偏見が根強かったアメリカ南部で、黒人たちが生きることの過酷さをもっと強調できただろうし、
映画の前半から良い意味での緊張感を、観客に常に意識させながら映画を進めることができただろうから、
そうなってくると、映画の終盤でモーゼスが襲われるというエピソードが、もっと生きてきたはずだと思うのですよね。

こうして余計なエピソードを次々と紹介するように描いてしまったから、
どことなく散漫な印象が残ってしまうし、最後の最後で強く訴求するものが無い。もっとエドナの身の回りのことに
注力して描いていれば、もっと更に力強いドラマになったであろうし、もっと高く評価されたような気がしますけどね。

ただ、こういったことを除けば本作は結構良い映画だと思っています。
あざとさもないし、感動を煽ることもない描き方で、淡々と綴ったことが良い効果を与えていると思います。
ロバート・ベントンは脚本家出身のディレクターで、脚本家ゆえストーリーで観客を魅せようとすることがありますが、
本作のロバート・ベントンは決してそんな感じではなく、実に自然体に淡々と綴っている感じが良いですね。

映画は冒頭から急転直下な始まり方をするので、戸惑うくらいのスピード感でした。
警察官であったエドナの夫も、そこまで黒人に差別的態度をとっていたわけではなさそうだったにも関わらず、
酔っ払った知り合いの黒人少年に意図せず銃撃され命を落とし、少年は処刑され晒し者にされるというのが皮肉だ。
KKKの過激な思想に完全に毒されていたのか、加害少年は裁判を受けずに見せしめにと処刑されたのです。

でも、この皮肉なオープニングだからこそ、ラストシーンが意味深長なものになってくる。
このラストは教会に精神的な救いを求める敬虔な人々が多い、アメリカ南部の精神性を象徴するものだと思うのです。
但し、KKKの思想に賛同する者も教会に集うわけで、白人優位主義は無くならないわけで、なんとも複雑なラストだ。
正直に白状すると、最初にラストを観たときはブッ飛んだラストだと感じたけど、2回目に観たらシックリ来ました。

もう一つ印象に残ったのは、未亡人となったエドナの家にヅケヅケと上がり込んで、
実は彼女が経済的に厳しい状況にあることを銀行マンが伝えに来るというエピソードで、この時代だからこそ
こういう情の無いことを言っていったのだろうが、家を売れとか、子どもを親戚に預けろとか、勝手なことばかり言い、
挙句の果てにはエドナ一家を助けるという名目で、盲目のウィルを住み込ませるという、ある種の厄介払いを
正々堂々とやってくるあたりがスゴいと思った。大恐慌の時代だから、市民の弱みにつけ込んでいるように見える。

今もローン返済が滞ったり、自己破産に相当するような状況でしたら、銀行も優しくはしてくれませんけど、
現実にエドナのような状況に陥っていたら、普通に考えれば、時間的猶予が必要な状況ですからね。
まぁ、大恐慌の時代ですから銀行も財務状況が悪く、個人に甘い対応はできなかったでしょうけどね・・・。

ネストール・アルメンドロスのカメラも実に素晴らしいですね。静かなシーンでの気品あるカメラと、
前述した竜巻の大迫力の映像まで、あらゆる表現をしており、ズーミングを多用せずに落ち着いた映像になっている。
このカメラは当時、あまり評価されなかったようで残念ですが、本作の大きなポイントだったと思いますけどね。

クオリティの高い作品だとは思うけれども、前述した散漫な印象を持たれかねないところが勿体ない。
正直言って、ロバート・ベントンが自身で脚本を書いているので、もう少しまとまった内容になっているかと思ったけど、
何度観ても、全体に詰め込み過ぎていて、あまり意味の無いエピソードも有って、全体のバランスがイマイチだ。
せっかく良い部分も多い作品なので、その良さがもっと評価されてもいいと思ったけど、このバランスの悪さが足枷だ。

本作はフェミニズムを描いた映画だとは思わないけど、白人優位主義と男性社会も題材にしている。
エドナがシングルマザーとして生きなければならず、エドナ自身で買取業者とも価格交渉をしなければならないが、
完全に業者から足元を見られるくらい、軽く見られる存在であり、女性が男性社会で生きる難しさにも触れている。

これは家庭の問題かもしれないが、そもそもが家計の状況を知らない妻というのも、
現代社会の感覚では珍しいが、この時代の男性上位な価値観では、こういうことも当たり前だったのかもしれない。

そういう意味では、エドナが勝ち取った綿花の1番乗りという“勲章”は、
黒人・盲目・女性(未亡人)という、アメリカ南部では特に下層と見られていた人々が一致団結して、
誰よりも優れた成果を上げたという、“弱者の勝利”を描いた作品だからこそ、清々しいものがあるのかもしれない。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・ベントン
製作 アーレン・ドノヴァン
脚本 ロバート・ベントン
撮影 ネストール・アルメンドロス
音楽 ジョン・ガンダー
出演 サリー・フィールド
   リンゼー・クローズ
   エド・ハリス
   ダニー・グローバー
   ジョン・マルコビッチ
   エイミー・マディガン
   テリー・オクィン
   バート・レムゼン
   レイン・スミス
   ジェイ・パターソン

1984年度アカデミー作品賞 ノミネート
1984年度アカデミー主演女優賞(サリー・フィールド) 受賞
1984年度アカデミー助演男優賞(ジョン・マルコビッチ) ノミネート
1984年度アカデミー助演女優賞(リンゼー・クローズ) ノミネート
1984年度アカデミー監督賞(ロバート・ベントン) ノミネート
1984年度アカデミーオリジナル脚本賞(ロバート・ベントン) 受賞
1984年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1984年度ベルリン国際映画祭監督賞(ロバート・ベントン) 受賞
1984年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・マルコビッチ) 受賞
1984年度ゴールデングローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(サリー・フィールド) 受賞