パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち(2003年アメリカ)

Pirates Of The Caribbean : The Curse Of The Black Pearl

これはディズニーが贈る、久しぶりの夏休み映画らしいエンターテイメントでした。

僕も大学生時代、本作を初めて観たとき、「これはヒットするだろうなぁ」と唸らせられましたが、
やはり10年以上に及んで5作もの続編がロングラン製作される、人気シリーズ化しました。
人気俳優ジョニー・デップの代名詞的作品の一つにもなり、日本はじめ全世界で大ヒットしました。

監督は『マウス・ハント』で評価されたゴア・ヴァービンスキーで、
ひじょうにテンポ良く、そしてメリハリのついた連続性のある活劇になっており、
正直言って、本作を観る前はここまで出来るディレクターだとは思っておらず、ビックリさせられました。

90年代後半はハリウッドで数々のヒット作を連発し、
日本でも賛否両論な存在であったジェリー・ブラッカイマーが、それまでの路線をスタイルチェンジして、
純粋な海賊映画をチョイスするということで公開前から注目を浴びていましたが、これは十分に楽しめる出来です。

この映画は物語に主軸を置いて観てしまうと、幼稚に見えるかもしれません。
ですから、遊園地のアトラクションのようなもので、映像を楽しむことに置いた方が、ずっと楽しめます。

ローリング・ストーンズ≠フキース・リチャーズをモデルにしたという、
ジョニー・デップのキャラクター造詣もよく作り込まれていますが、映画の冒頭は第1作ということもあってか、
まだ、どこか“手探り”感があって、本作の中ではオーランド・ブルームの方が前に出ていた印象があります。

特にジョニー・デップはこれまでの二枚目な存在から、どこか汚らしい風貌で
持ち前のストイックかつエキセントリックな表情を見せることがない、ドジなキャラクターであり、
彼にとってはまったくの新境地と言える役柄であり、言うなれば、チャレンジであったと言えると思います。

個人的にはこういう娯楽映画を純粋な気持ちで楽しめる心でありたいと思っているのですが(笑)、
世界的なヒットになった一方で、大人の目線から見れば、賛否が分かれる部分もあると思います。

一つだけ言えるのは、この映画は特に映画館で観なければ魅力半減だろうということ。
内容もそうですけど、映像表現・音響共に明らかに映画館で観る向けに作られていますね。
自宅でもそうとうにオーディオ環境が良くなければ、この映画の魅力をフルに味わうことはできないでしょう。

それだけ、ジェリー・ブラッカイマーのヴィジョンをしっかりと映像化できていて、
ディズニーのプロダクションの力を最大限に結集させたのでしょう。上手く融合した結果、
最近はめっきり少なくなっていた、海賊をテーマにした企画に上手くマッチした感じですね。

なんせハリウッドでは、90年代に『フック』、『ウォーター・ワールド』、『カットスロート・アイランド』と
立て続けに海賊映画が商業的大失敗となったために、海賊映画はヒットしないことが定説化してましたからねぇ。

一説では、本作の音楽は当初、アラン・シルベストリが担当する予定でしたが、
ジェリー・ブラッカイマーと意見が合わずにハンス・ジマーに交代したようで、本作の有名なスコアは
どちらがその原型を書いたのか真相は分かりませんけど、それにしてもこの音楽は本作にピッタリでした。
今でもこの音楽を聴くと、気分が高揚して、「さぁ、これから行くぞ!」という気持ちになりますね。
(実際、この音楽を選手入場で使っているJリーグのチームがありますし・・・)

ただ、この映画の気になるところは、部分的に冗長に感じられるシーンがあって、
結果として2時間を大きく超える上映時間となってしまったことは、大きな反省材料だと思う。
本作の後にも続く、続編たちも同様なのですが、この映画のシリーズは全て上映時間が長過ぎる。
これは作り手もいろいろと描きたいから、こうなってしまったのかもしれませんが、もっとコンパクトにまとめて欲しい。

子供たちに向けた夏休み映画として劇場公開されていただけに、
子供たちにとっては、この2時間を超える上映時間は長過ぎて、飽きてしまうのではないかと思えますけどね。。。

エンド・クレジット後に“オマケ”を付けるというのも、本作あたりからよく使われる手法になりましたね。
但し、本作公開当時、この“オマケ”が話題となりましたが、そこまで重要な“オマケ”でもないと思います。

個人的にはこういう夏休み映画が、ひと夏に2〜3本くらいがボンボン公開されると、
映画産業がより活発化して良いと思うのですが、2021年現在、コロナ禍であることも勿論のこと、
今後はNetfrixをはじめとする、ネット配信サービスが主流になってくることから、こういう時代は遠くなりましたね。

僕はかつて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズを楽しんでいましたが、
00年代に育った子供たちからすると、本作のシリーズがそういった存在になるのではないかと思います。

このまんま、遊園地のアトラクションに変換できそうな内容で、
海賊+ゾンビという、ある種イベント的要素を取り合わせた、エンターテイメントとしては十分な武器を持ち、
当時のジェリー・ブラッカイマーのノウハウが相まっているのですから、楽しませることに関しては抜群の内容です。

本作の成功から、ジェリー・ブラッカイマーへの風当たりは弱くなっていったような気がします。
正直、01年の『パール・ハーバー』の頃は日本でも酷く批判されていた向きもありましたが、
彼が企画する映画は片っ端から批判されていた向きも強く、彼自身も手当たり次第に映画化していた感じで、
彼のノウハウに依存しただけのような映画製作で、映画の醍醐味を追求するのを止めてしまった感がありました。

そういう意味で本作は、映画だから表現できる部分をしっかりと追求して、
どちらかと言えば、オーソドックスかもしれないが、実直にエンターテイメントに徹したのが良かったのだと思う。

呪われた海賊のリーダーであるバルヴォッサを演じたのが
オーストラリア出身のジェフリー・ラッシュですが、彼の実力からすれば少々物足りないかと思います。
続編が実現したからこそ彼の代名詞の一つになりましたけど、本作だけなら彼の代名詞にはならなかったでしょう。

そういう意味でも、続編3作も併せてセットで考えてあげて欲しい作品ですけど、
映画の出来自体は更に冗長になり過ぎた続編と比較すると、ピンポイントに見せ場を連続させた、
この第1作が最もエキサイティングな出来と言えます。続編を観なければ良さが分からないということでもなく、
作り手もシリーズ化への期待はあったと思いますが、決して続編ありきで本作を撮っていたわけではないと思います。

欲を言えば、ジャック・ダヴェンポート演じるノリントンが最終的に良い人になってしまうのは勿体ない。
彼が最後の最後まで分からず屋として描かれた方が、ウィルとエリザベスの恋愛も映えたと思います。
意地悪い意見ではありますが、ノリントンがもう少し往生際が悪い性格だったら、2人の恋愛も盛り上がったのですが。

確かに良くも悪くも子供騙しの映画かもしれませんが、個人的にはこういう映画は大切にしたいと思いますね。

(上映時間143分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ゴア・ヴァービンスキー
製作 ジェリー・ブラッカイマー
脚本 テッド・エリオット
   テリー・ロッシオ
   ジェイ・ウォルパート
撮影 ダリウス・ウォルスキー
音楽 クラウス・バデルト
   ハンス・ジマー
出演 ジョニー・デップ
   オーランド・ブルーム
   キーラ・ナイトレイ
   ジェフリー・ラッシュ
   ジョナサン・プライス
   ジャック・ダヴェンポート
   ケビン・マクナリー

2003年度アカデミー主演男優賞(ジョニー・デップ) ノミネート
2003年度アカデミーメイキャップ賞 ノミネート
2003年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2003年度アカデミー録音賞 ノミネート
2003年度アカデミー音響効果賞 ノミネート
2003年度全米俳優組合賞主演男優賞(ジョニー・デップ) 受賞
2003年度ユタ映画批評家協会賞主演男優賞(ジョニー・デップ) 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ賞 受賞