フォーン・ブース(2002年アメリカ)
Phone Booth
毎日のようにカワイイ女の子に電話するために同じ電話ボックスを利用する既婚の宣伝屋が、
ある日、突然、この電話ボックスにかかってきた電話に応じ、見ず知らずの声の持ち主の男から、
命を狙われ電話ボックスから離れられなくなった挙句、トラブルに巻き込まれ、
彼に詰め寄った男が狙撃されたことから、警官隊に包囲されてしまう姿を描いたノンストップ・サスペンス。
日本でも劇場公開時、そこそこ話題になった作品ですが、確かにこれはなかなか面白い。
個人的には、高慢な人間を改心させるために用意したストーリーとしてはあまり感心できないけど、
純粋に映画として考えると、しっかりと良く出来た内容で見応えがあると思います。
上映時間わずか1時間20分、ただひじょうに濃密なサスペンスが展開します。
正直、あまりに緊張感が画面いっぱいに全編にわたって張り巡らされているので、チョット疲れるかも(笑)。
ただ・・・勘違いして欲しくはないのは、その緊張感こそがこの映画の作り手の狙いだということ。
それだけ厳しいプレッシャーやストレスを観客にかけれたという時点で、この映画は成功と言っていいぐらいだ。
監督は『バットマン フォーエヴァー』のジョエル・シューマカー。
彼は93年に『フォーリング・ダウン』というシニカルなサスペンス映画を撮っていますが、
たまに見どころのある秀作を発表してくるもんだから、侮れないタイプのディレクターです。
とは言え、決して完璧な仕事ではない。
主人公の宣伝屋の命を狙う男をキーファー・サザーランドが演じているのですが、
彼がクライマックスに画面に登場するカットは、不必要。彼は映さない方がずっと良かった。
それから説得にあたる刑事としてフォレスト・ウィテカーが出演していて彼が良い感じなのですが、
主人公と刑事の交渉に物足りなさがあり、もっと彼らの探り合いの面白さも強調して欲しかったですね。
さすがに狙撃犯と主人公の駆け引きだけで、映画一本を構成するには無理がある。
だからこそ、上映時間が短いことが功を奏してはいるのですが。。。
まぁ揶揄的に言えば、アイデアの勝利であった映画であることは否めないのですが、
話しに広がりを持たせたり、サブ・エピソードと登場させたりせず、ストレートに撮るという開き直りが
ジョエル・シューマカーにあるあたりが、この映画にとっても大きな強みとなっています。
だって撮影日数10日ですよ。これは映画界の常識を破ったと言っても過言ではありません。
カメラに映るシーンの多くは、公衆電話ボックスとそれを取り囲む警官隊ぐらい。
まぁこうやって経済的かつ物質的に極限に追い込んで撮影するのも悪くないですね。
こういう企画って、たまにハリウッドに限らずあるんだけれども、撮影前にそうとう練らないダメですからねぇ。
本作の場合も実撮影日数以上、企画やその立ち上げに時間を要していることでしょう。
ある意味で、やり直しのきかない一発勝負な映画ですからね、撮影現場もそうとうな緊張感があっただろう。
携帯電話の普及に着目し、その存在感が薄れつつある公衆電話ボックス。
しかしそれでも消滅はしない電話ボックスは、ある一定の需要があるものt思われる。
では、一体誰が使うのか?
(1)携帯電話を持っていない人
(2)故障、電池切れなどによって携帯電話が使用不可な人
(3)携帯電話での通話では都合が悪い人
映画はこの(3)に注目し、
大都会ニューヨークの街中にある公衆電話ボックスという密室空間を利用しています。
ただ第三者の誰からも見えない密室というわけではなく、外部から丸見えな密室というのがポイント。
この映画の面白いところは、主人公がどうしようもない状況に見事に追い込まれるところ。
包囲した警官隊からは「電話を切れ」と言われるし、狙撃犯からは「電話を切れば殺す」と脅される。
こんな状況を事件を見る人々は、全く把握することができず、野次馬根性で静観し続けるのですが、
現実世界のことを考えれば、警官隊が主人公スチュの状況を理解することの遅さに驚きでした(笑)。
自分をスチュの立場に置き換えて考えると、凄くフラストレーションのたまる状況ですね。
こういう誰からも理解されない、或いは何故、自分がターゲットにされるのか理由が分からないというのは、
限りなく恐ろしい状況ですからねぇ。こういう特徴を存分に活かしており、実に上手い作り方と言えますね。
映画は02年に実際に起こった狙撃事件に配慮して、
劇場公開が大幅に延期され、日本での劇場公開も撮影完了から約1年半もの歳月を経て公開されましたが、
お蔵入り、或いはビデオスルー(=劇場未公開)とならずにホントに良かったですね。
上映時間中、ずっと緊張感に満ちた画面となっておりますので、
こういう息をもつかせぬ内容の映画が苦手な人にはキビしい作品かもしれません。
ただ、アイデアとその活かし方によって、映画の可能性はいくらでも広がるということを実証した作品であり、
アイデアだけに頼らず、完成した作品自体もひじょうに良く出来た作品として評価に値すると思う。
しっかし、スチュと同じ状況に置かれたら...と考えると恐ろしいですね。
僕は完璧な人間なんていないと思うし、誰だって一つぐらい秘密を抱えて生きているはず。
それを考えると、スチュに襲い掛かった悲劇って、凄く気の毒な感じがしますけど、
第三者の命を守るために尽力するスチュって、実は善人なのでは・・・と思える不思議な作品でもあります。
(上映時間80分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 ジョエル・シューマカー
製作 デビッド・ザッカー
ギル・ネッター
脚本 ラリー・コーエン
撮影 マシュー・リバティーク
編集 マーク・スティーブンス
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 コリン・ファレル
フォレスト・ウィテカー
キーファー・サザーランド
ラダ・ミッチェル
ケイティ・ホームズ
アリアン・アッシュ