ニューヨーク 最後の日々(2002年アメリカ)

People I Know

そこそこ話題性のある豪華キャストを集めた作品なのに、
日本ではヒッソリと劇場公開され、実にアッサリと劇場公開が終了してしまった作品。

僕はアル・パチーノ兄貴を常に追い続けておりますが(笑)、
この映画はいつものアル・パチーノとは違って、映画の序盤からおそろしく疲れ切っている。
最初から最後まで顔色が明らかに悪く、常に眠たそうで、如何にもストレスと闘い続けている感じだ。

企業のパブリシティに関連する業務に就いている人って、
確かにたくさんいるとは思うのですが、本作の主人公イーライのように映画産業に於ける、
パブリシティともなれば、正直言って、あまり一般的な仕事ではないだろう。
更に業界の特殊性から言って、かなり現実世界からかけ離れた部分もあるような気がしますが、
芸能人だけでなく、大富豪や政治家の醜態をも片付ける仕事があるらしく、とてつもないストレスだろう。

前述したように、この映画のアル・パチーノはそういった疲弊、いや憔悴し切ったような表情を
映画の最初から最後まで表現しているのですが、これは凄まじい演技力の賜物でしょう。
本音を言えば、いつもの“兄貴度”の高い(笑)、怒鳴りまくる芝居ではないため、僕のようなファンにとっては、
若干、物足りない部分もあるにはあるのですが(笑)、いやいや、それでも十分に持ち味を堪能できる作品です。

だからこそ、個人的には老境にさしかかったアル・パチーノの魅力を伝える、
貴重な作品として、日本でももっとクローズアップして取り扱って欲しかったですねぇ。

確かに大々的に称賛するほど、映画の出来は良くない。
如何にも経験値の少ないディレクターが撮ったという感じ丸出しの作品になってしまっているのですが、
それでもアル・パチーノをはじめとするベテラン俳優陣の存在感に大きく助けられている作品になっています。

アル・パチーノも良いですが、彼の義理の妹を演じたキム・ベイシンガーも
徹底して消え入りそうな雰囲気を持つ、どこか破滅的な内容の映画にある中で、
ある種、清涼剤のような働きを持つルックスで、まだ彼女の美貌が健在で思わず嬉しなっちゃいます。
(失礼ながらも...撮影当時、49歳という年齢には思えない、清涼感!)

この映画、やはりウケが悪そうなだなぁと日本の配給会社を心配させたのは、
ある種、業界ネタに終始してしまい、内輪で楽しんでいるだけの映画のように思えたからではないでしょうか?

個人的にも、僕は映画産業を描いた映画って、あんまり好きじゃないのです。
と言うのも、やたらと美化して描いたり、やたらと「大変なんですよ、この業界」みたいな感じで描くせいか、
思わず、「いやいや、映画産業だけがこの世のすべてではないでしょ」とツッコミを入れたくなるからなんですよね。

監督はテレビ業界出身のダン・アルグラントですが、
本作製作からもう既に10年近く経過しておりますが、未だに新作を1本も発表していません。
また、テレビ業界に戻ったのかもしれませんが、やはり本作でも不慣れな印象を受けましたね。
映画の見せ方、シーン演出など、どうも映画的ではない部分が多過ぎて、ノリ切れないんですよね。

まぁ世の中の不条理を象徴させたかのようなラストシーンにしても、
突如として、カメラを逆さ向きにしてスクロールさせるなんて、なんだか素人発想みたいで安っぽい。

それと、ティア・レオーニ演じる駆け出しの女優にしても、もっと大切に描いて欲しかったですね。
そもそも彼女はこの頃、『ディープ・インパクト』、『天使のくれた時間』と続けてヒット作に出演していたので、
こんな軽い扱いを受ける役柄を演じていることに、妙に残念な印象が残ってしまいましたね。。。
(彼女はもう少し、仕事のチョイスが上手かったら、今頃、もっと大きくブレイクしていたでしょうね)

あとは、やっぱり主人公イーライが開催に奔走する移民支援パーティーについて、
あまり深く言及していないせいか、どうしても偽善的なものと言われても仕方ないかなぁと思えちゃうのを観ると、
イーライの信念を描く点で、どうしても弱さがあることは否めないですね。これは結構、重要な要素だったと思う。

イーライの人種差別に抵抗する精神を、しっかり描いていれば、
彼が催すパーティーの理念に共感性を持たせられただろうし、彼が文字通り心血注ぐ理由も分かったはずです。
でも、残念ながら僕にはこの映画を観る限り、どうして彼が一生懸命になるのか、よく分からないんですね。
結局、イーライにとっては資金集めの手段にしかすぎなかったのかもしれないけど、健康を害してまでも、
自分にも危険が迫るリスクを冒してでも、彼が心血注いだことには、もっと明白な理由があったはずで、
この映画はその点をしっかりと言及できなかったせいか、終盤にかけての展開の説得力が弱いんですよね。

ましてや彼が30年もの長い時間、身を置いた業界にあって、
最後の仕事にしようと決心していたのですから、そこにはとても重い理由があったはず。
この理由を全く描くことができなかったというのは、作り手の大きな手落ちだと思いますね。

とは言え、この映画のアル・パチーノの芝居はできるだけ多くの方々に観て頂きたい逸品だ。
同年の『インソムニア』に匹敵する、疲労困憊した芝居ですが(笑)、本作の方が貢献度は大きいかもしれません。

まぁパブリシストって、確かにどれぐらい“顔が広い”ということが重要でしょうから、
他人のことにもの凄い興味を持って活動しなければならないし、世の中のいろんなことを知らなければ、
人脈を広げるための会話に付いていけないでしょうから、おそろしく大変な仕事なんだろうなぁ。
まぁ個性的過ぎる僕には無理な仕事だろうけど(苦笑)、人付き合いが上手い人って、確かにいますよね。

ああいうのって、僕なんかは憧れちゃう上手さの一つなんですよねぇ〜。
やっぱり人脈の広さや人望の厚さって、蔑にできない強みがあると思うんですよね。
ナンダカンダ言って、それに助けられることもありますからねぇ。人生の大きな武器の一つになるはずなんです。

但し、悲しいかな、イーライが長年のキャリアの中で獲得してきた人脈も人望も、
チョットした歯車が狂ったことによって、簡単に崩れてしまう、ひじょうに脆弱なものだったんですね。
そういう意味で、この映画で描かれたセレブリティたちの世界というのは、刹那的なものなのかもしれません。

この映画で感心したのは、そういったセレブリティたちの世界の危うさといったものを、
上手くニューヨークの華やかなイメージとクロスオーヴァーさせながら描けた点で、これはホントに良かったですね。

まぁ難点はあるけど、キャスティングの効果もあって、
まずまず見どころのある映画に仕上がっていたのに、なんだか勿体ないですよねぇ。
ダン・アルグラントはこれからだと思うのですが、本作以降に一本も映画を撮っていないというのは・・・。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ダン・アルグラント
製作 マイケル・ノジック
    カレン・テンコフ
    レスリー・アーダング
脚本 ジョン・ロビン・ベイツ
撮影 ピーター・デミング
音楽 テレンス・ブランチャート
出演 アル・パチーノ
    キム・ベイシンガー
    ライアン・オニール
    ティア・レオーニ
    リチャード・シフ
    ビル・ナン
    ロバート・クライン