ペギー・スーの結婚(1986年アメリカ)

Peggy Sue Got Married

まぁ、それまでのコッポラの監督作品とは全く毛色の異なる大人のメルヘンという感じですが、
何気に僕は嫌いになれないタイプの映画でして、微妙にSF映画の要素も含まれたりしていて、妙に楽しい。

日本には無い習慣ですが、アメリカの高校のプロム・パーティーの雰囲気をよく伝えている作品で、
映画は高校の同窓会が主催っぽい、大人になってからの再会を祝うパーティーから始まります。
高校の同窓生同士で結婚することが多い田舎町のようで、ヒロインのペギーが実は高校の同窓生のチャーリーと
結婚していて、そのチャーリーが他の女性と不倫関係にあって、チャーリーと離婚することになっていることから始まる。

本来であれば、高校の同窓会であり小さな田舎町とは言え、久しぶりに顔を合わせる面々もいて、
普通であれば出席を決めたのであれば、ウキウキ・ワクワクするところですが、ペギーは離婚を目の前に憂鬱。
それでもかつての友人と会うことで彼女は徐々に元気を出していきますが、このパーティーでクイーンに選ばれ、
ステージ上で挨拶を求められたところで、ペギーは気を失い、何故か高校時代にタイムスリップしてしまいます。

そこからはペギーがタイムスリップに戸惑いつつも、大人になってからの経過の“反省”を生かして、
当時の恋人チャーリーとの関係を見直したり、忘れられないカッコ良かった男の学友にアプローチをかけたり、
高校生当時は冴えなかったものの、後に成功者となる科学者志向の学友と仲良くしたりと、違い高校生活を
謳歌しようとして、恋人チャーリーとの関係が次第に危ういものになっていく。こうなっていくと、当然、“未来”が変わり、
例えばペギーとチャーリーの間に2人の子どもがいるという設定なので、タイム・パラドックスの問題があるわけですが、
本作はあまりそこまで深く突っ込んで描くことはなく、サラッとタイム・パラドックスの問題を回避することになります。

1960年を舞台にいしているせいか、まだ50年代のアメリカの冷戦前の空気感を表現していて、
どこか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で描かれた1955年のような雰囲気を感じさせ、この空気は悪くないと思う。

ただ、これは劇場公開当時から言われていたことと聞いていますが、
さすがに当時のキャスリン・ターナーが高校時代のペギーを演じているというのは、かなり無理を感じる(苦笑)。
ニコラス・ケイジはじめ、彼女以外のキャストは実年齢が離れていることもあってか、違和感少なく演じているけど、
失礼ながらも...本作のキャスリン・ターナーを高校生として観るには、もっとメイク含めて工夫が必要だった・・・かな。

でも、この頃のキャスリン・ターナーは数多くのヒット作に出演していて、勢いがあったからなぁ〜。
その勢いのまま、本作の違和感も力技で押し切った感じですね(笑)。無理を感じたけど、まぁ・・・悪くはないです。
本作でも彼女はオスカーにノミネートされましたが、90年代に入ると次第にその勢いが衰えていきました。
そういう意味では、本作の頃がキャスリン・ターナーの絶頂期であり、最も輝いていた時期だったかもしれません。

まぁ、人間は後悔する生き物だと僕は思っているので、何をどうやっても後悔のない人生などないと思う。
でも、「ああすれば良かった。こうすれば良かった」という想いを残すくらいの方が、人生は面白いのではないかと思う。

ペギーはタイムスリップして、チャーリーと結婚しない人生を歩もうとしますが、
彼女がタイムスリップする前は、成人した子どももいる主婦で色々と不満はあったけれども、子どもには愛情がある。
大事なのは、タイムスリップする前の年齢と家庭によって、どのように人生をやり直したいのかが決まるのだろう。
具体的には映画の終盤でペギー自身が語っているのですが、何が自分にとって大切なのかに気付くのです。

僕は本作にとって、その自分にとって大切なものに気付く瞬間こそが、最も大事な瞬間だったのだろうと思う。
正直、本作でのコッポラはあまり緩急も起伏もなく、悪く言えば、ダラダラと物語を語るような印象だったので、
これはノレない人はノレないだろうなぁと思っていたのですが、僕はこのペギーの気付きが描かれただけで
本作がグッと引き締まったような感じがして、コッポラがホントに描きたかったことが明白になって印象が良くなった。

まぁ、良くも悪くも『ゴッドファーザー』の頃のような研ぎ澄まされた演出というわけではないし、
80年代前半に撮っていた青春映画のような挑戦意識が表れているというわけでもないので、特徴が無い。
これが往年のコッポラの監督作品のファンからすれば、裏切られたような気持ちになったのかもしれないとは思います。

ただ、キャスリン・ターナー、ニコラス・ケイジは勿論のこと、
駆け出しの頃のジム・キャリーやヘレン・ハント、ジョアン・アレン、ケビン・J・オコナーらの豪華なキャストや
ペギーの重要な気付きの瞬間など、実は結構な見どころの多い作品だと思いましたね。なんだか嫌いになれないです。
(まぁ・・・その中でもキャスリン・ターナーが高校生役を演じるということが、最大の見どころだとは思うけど・・・)

そうそう、キャストという意味では下積み時代のジム・キャリーを観れるのが、なんとも嬉しい。
ペギーやチャーリーに近い同窓生で、大人になったら歯科医ウォルター役で出演しているのですが、
この頃からすっかりクセに強い顔芸が定着している感じで、既にジム・キャリーのキャラが出来ているのが興味深い。

劇中、チャーリーがバンドのヴォーカルとして歌っている姿を見て、その才能に心打たれて、
「これを歌ったらいい」とビートルズ≠フ She Loves You(シー・ラヴズ・ユー)の歌詞を渡したところ、
その歌詞を読んだチャーリーが「She loves you YEAH, YEAH, YEAH」のところを「She loves you Ooh, Ooh, Ooh」に
変えた方がいいと言うところが面白かったですね。チャーリーの嗜好がドゥーワップなどにあることを、よく表しています。

そのチャーリーを演じるニコラス・ケイジはコッポラの親戚というだけあって、コッポラの監督作品に多く出演してますが、
本作の準主役級の芝居を出世作として、翌87年の恋愛映画『月の輝く夜に』でもシェールの相手役に抜擢されて、
順調にキャリアを積み上げて、90年代以降はアクション映画を中心にスターダムを駆け上がっていきました。

コッポラのファンタジーということで珍しい作品だったために、当時の映画ファンとしても
容易に受け入れることができなかったのかもしれませんが、似たような路線の映画として96年に『ジャック』を
撮っていますし、本作なんかは『アウトサイダー』や『ランブルフィッシュ』などの青春映画の色合いもありますからね。
そういう意味では、こういうファンタジーもコッポラの映画監督としての持ち味の一つということなのかもしれません。

ただ、個人的には少し物足りないところがあったのも事実でして、
例えば映画はいきなり家を出て、テレビに出演するチャーリーを陰鬱な表情でながめるペギーから始まり、
同窓会に行くことになっているのですが、もう少しチャーリーとペギーの結婚生活を描いても良かったと思います。

上映時間がそこまで長い作品ではないので、全体的なヴォリュームを出しても良かったし、
映画の終盤にペギーがチャーリーとの結婚生活に想いを巡らせるようなニュアンスもあるので、
長い結婚生活で楽しいことがあれば、ツラいこともあった・・・というような、感情に訴える部分があっても良かったと思う。
その方が映画のラストも訴求したと思うし、単なるタイムスリップする映画という枠に留まらない魅力が出たと思います。

せっかくキャスリン・ターナーも頑張っているだけに、もっと訴求する映画にしてあげて欲しかったですね。

私も高校生は楽しかったので、タイムスリップして戻って、もう一度あの頃を過ごしたいという気持ちはあります。
だけど、その後の人生を変えたいとはあまり思っていないので、タイムスリップしない方がいいのかもしれませんね。
たぶん、実際にタイムスリップして“過去”をもう一度過ごしてしまうと、“未来”を変えたいという欲が出てくるのでしょう。

でも、その“未来”を変えたところで、今よりも幸せな人生を歩めるとは限らないし、
結局、同じ今に至るのかもしれない。勿論、今が最悪な人からすれば、タイムスリップして後悔している“過去”を変え、
違う人生を歩みたいという気持ちが出てくるのでしょうが、“過去”を変えるよりも今を変える方が確実な気がします。

今を変える原動力がないから苦しいということもあるでしょうから、
そこは何でもかんでも自分で解決しようとしないで、どんな力も借りるという発想があっていいと思うんですよね。
その助けを探す力も湧いてこないという苦境に立たされる人もいるので、そこは公助できる社会であって欲しいですね。

本作のヒロイン、ペギーも色々と「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と思うことはありましたが、
結局は現在の生活の幸せを見直す時間となります。そういう意味では彼女に必要なファンタジーだったのでしょう。

ところで、祖父母の存在がペギーにとって特別なものだったというエピソードはいいのですが、
祖父とペギーが出掛ける、謎のカルト集団の儀式みたいなシーン、あれはどのような意図があったのだろうか?

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 フランシス・フォード・コッポラ
製作 ポール・R・ガリアン
脚本 ジェリー・レイクトリング
   アーレン・サーナー
撮影 ジョーダン・クローネンウェス
音楽 ジョン・バリー
出演 キャスリン・ターナー
   ニコラス・ケイジ
   キャサリン・ヒックス
   バリー・ミラー
   ジョアン・アレン
   ケビン・J・オコナー
   ジム・キャリー
   バーバラ・ハリス
   ヘレン・ハント

1986年度アカデミー主演女優賞(キャスリン・ターナー) ノミネート
1986年度アカデミー撮影賞(ジョーダン・クローネンウェス) ノミネート
1986年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート