ペイチェック 消された記憶(2003年アメリカ)

Paycheck

おそらく、もっと上手く作ることはできたであろうが、
まぁファンにはたいへん申し訳ない言い方だが...ジョン・ウーなら、こんなもんだろう(笑)。

そもそも今までジョン・ウーとSF映画との結び付きって、ほとんど無かったと思うんだけど、
本編を観る限り、ジョン・ウーなりに真面目に作っているようで、それは観てみると感じ取れます。
ただ、やっぱりどうしても上手くないところがあって、面白いと太鼓判押せる映画にはなっていない。
こんな内容だからこそ思うのですが、何でも鳩出しゃいいってもんじゃないでしょ(笑)。
(実際思いましたもん、「この期に及んで鳩かよ!(笑)」って...)

人気SF小説家フィリップ・K・ディックが書いた短編小説の映画化ですから、
おそらく本作の企画に期待を寄せていた映画ファンも多かっただろうとは思うのですが、
その期待にどこまで応えられたのでしょうか? 個人的にはあまり応えられなかったのではないかと思います。

ハッキリ言いますと、この企画、別なディレクターがやった方が良かったかもしれません。

でもまぁ・・・僕は思うんですけどね、これはジョン・ウーにとっては必要なチャレンジだったと。
ホントに撮ってみて良かったと思うんですよね、いろんな課題が見つかったからこそ。
(あくまでフィリップ・K・ディックのファンの意見を無視した意見ですけどね・・・)

まず、空間を上手く使えていないですね。
通常のアクション描写ではまずまずなのですが、例えばクライマックスの闘いなど、
もっと空間的な広がりを上手く使えていれば、違った印象になっていたはずなのです。
せっかく上階の通路へと誘導しているのに、限られた空間内のアクションを大きく見せることに成功していない。

これではせっかく組んだセットも勿体ないですね。
壮大な設備で、近未来的な香り漂うセットだというのに、撮り方が極めて下手なんですね。
シーンごともアクション・シーン以外は動きに乏しく、映画のムードがあまり盛り上がらない。
この辺を観るに、90年に『トータル・リコール』を撮ったポール・バーホーベンって、偉大なんですねぇ。

好きな人にはたいへん申し訳ないけど・・・
02年のスピルバーグの『マイノリティ・リポート』なんかと比べても、明らかに見劣りする出来だと思う。

個人的には、もっとSF映画にチャレンジしたらいいのに・・・とは思うのですが、
やっぱり本人のスタイルを貫きたいのか、そしてそのスタイルがSF映画には合わないことを感じてか、
SF映画は撮らなくなってしまったし、ハリウッド資本で映画を撮ることも中断しているみたいですねぇ。

いっそのこと、もっとアクション映画に徹した方が賢かったのかもしれませんね。
ジョン・ウーの得意分野に持ち込むみたいな発想で、フィリップ・K・ディックの色をできるだけ排除して。

映画の中盤にある、カフェから始まるバイクを使ったカー・チェイスはなかなかの迫力だし、
やたらと目立つ爆発シーンなども、かなり力の入った演出で、おそらく製作費もそれなりにかかっただろう(笑)。
であれば、いっそ開き直って映画を撮ってしまうという選択肢も、個人的には“アリ”ではなかろうかと思います。
本作のように中途半端にジョン・ウーのスタイルを残そうとすると、映画の出来に悪く影響してしまいます。

映画は3年間という時間と引き換えに、多額の労働報酬を受けようとする男の物語。
それは国家機密はおろか、世界滅亡の危機にもなりうる装置の開発に従事する業務であり、
雇った会社経営者は彼の開発期間の記憶を末梢することに加え、謀殺することを目論みます。
ところが全てを予見していた彼は数々の手がかりを残して、死の危機を幾度となく脱し、
次第に追っ手は本気になって彼の命を狙い、同時に不穏な動きを察知したFBIも動き始めます。

この主人公、約束では9000万ドルというトンデモない報酬を受ける契約をするのですが、
これは一般のサラリーマンでは一生かかっても稼げない額で、これと引き換えに3年間という時間を
“売ってしまう”というのは、まんざら悪い報酬ではないのかも...と思った僕は不謹慎でしょうか?(笑)

サスペンスの色合いを強調した仕上がりになっており、
常に主人公が追われる形で展開し、削除された記憶があるとは言え、
さり気なく彼の逃走劇を恋人レイチェルがアシストする流れも、決して悪くはないと思う。

が、致命的だったとも言えるのは、やはりSF映画としての魅力に欠けるところなんですよね。
それは前述した撮り方の問題もあるし、もう一つはアイテムのつまらなさなんですね。
中にはもっと近未来を象徴するアイテムを使っても良かったと思うし、何か未知のイメージが欲しかった。
主人公自身が残した20品のアイテムが彼の逃走をアシストするのですが、これが全てあまりに平凡過ぎる。

確かに、ある意味ではリアルな近未来像なのかもしれないけど(笑)、
せっかくの映画化ですから、何か一つでもいいから未来的な造詣が欲しかったですね。
指輪とか一日乗車券とか、「今の方がもっと未来的なデザインがある」と言えるなのは寂しいなぁ・・・。
(映画で登場した乗車券よりも、今の“SUICA”などの電子マネーの方がずっと未来的・・・)

それが30〜40年前の映画だってのなら理解はしますがねぇ〜...
21世紀になってからの映画ということを考えると、どうしても寂しい気がするんですよねぇ。

それと、どうでもいい話しですが...
映画の冒頭に出てきた、主演のベン・アフレックとポール・ジアマッティの棒術トレーニングが
「ギャグでやってんの?」と聞きたくなるぐらい面白くって、これが何の意味があるのか未だに疑問ですね(笑)。

まぁ・・・B級SF映画が好きな人なら、意外にハマっちゃうかもしれない映画といった感じですね。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・ウー
製作 テレンス・チャン
    ジョン・デービス
    マイケル・ハケット
    ジョン・ウー
原作 フィリップ・K・ディック
脚本 ディーン・ジョーガリス
撮影 ジェフリー・L・キンボール
    ラリー・ブランチャート
美術 ウィリアム・サンデル
音楽 ジョン・パウエル
    ジェームズ・マッキー・スミス
    ジョン・アシュトン・トーマス
出演 ベン・アフレック
    アーロン・エッカート
    ユマ・サーマン
    ポール・ジアマッティ
    ジョー・モートン
    コルム・フィオール
    マイケル・C・ホール
    ピーター・フリードマン
    キャスリン・モリス