ペイバック(1999年アメリカ)

Payback

リチャード・スターク原作の『悪党パーカー/人狩り』の二度目の映画化。

一度目は67年にジョン・ブアマンが撮った『殺しの分け前/ポイント・ブランク』だったのですが、
あの映画は今となっては日本でも、ほとんど忘れ去られたような存在であることが勿体ない傑作で、
ジョン・ブアマンの驚くほど自分勝手な演出でグイグイと引っ張るスタイルが圧巻でした。

本作では『L.A.コンフィデンシャル』などの脚本家として、
ハリウッドでも評価の高いブライアン・ヘルゲランドの監督デビュー作となりましたが、
どうやら撮影現場ではハリウッドを代表するトラブル・メーカーとして有名だったメル・ギブソンの意見力が強く、
ブライアン・ヘルゲランドとメル・ギブソンは何度も衝突を繰り返して、かなり険悪な空気が流れていたらしい。
(クレジットでは残っていますが、ブライアン・ヘルゲランドは途中で実質的に降板していたらしい・・・)

まぁ・・・正直言って、映画の後半もそれなりに頑張ってはいるけど、
どうも映画の前半の良い雰囲気は次第に消え失せていき、失速している感があるのは否めない。

劇場公開当時、メル・ギブソンが初めて本格的に悪役に挑戦したことが話題になりましたけど、
やはり当時のメル・ギブソンは完全なる悪役を素直に受け入れられなかったのではないでしょうか。
映画を最後まで観ると強く感じるのですが、どこか主人公をカッコ良く描き過ぎている気がします。

あまり比較しても仕方ありませんが、
『殺しの分け前/ポイント・ブランク』で主人公を演じたリー・マービンには違うカッコ良さがあり、
黙々と仕事を遂行していく非情さがありながらも、愛した女性には強い情念を抱いているという
内面的な熱さを両立させながら、実に簡素に描いたことから、カッコ良さというのを演出できていました。

ところが本作のメル・ギブソンは完全に“美味しい”役どころといった印象で、
何度観ても、彼がカッコ良く描かれ過ぎているのが、どうしても気になってしまいます(笑)。

クリス・ボードマンが書いた、ミュージック・スコアもすこぶるカッコ良く、
かつての『サブウェイ・パニック』を想起させる音楽で、70年代のアメリカン・ニューシネマな雰囲気を
帯びているのですが、映画の中身自体はニューシネマという感じではなく、実にオーソドックスな犯罪映画。

まぁ、ただ単にアメリカン・ニューシネマの時代によくあったスタイルを踏襲しただけであって、
既に30年以上前からあったタイプの映画なわけですから、ニューシネマとは言い難いでしょう。

おそらく撮影当時、ブライアン・ヘルゲランドの監督デビュー作ということで、
ハリウッドのプロダクションでも鳴り物入りで撮影がスタートになった企画だったのでしょうが、
当時はハリウッドでも代表するナイスガイなスター俳優だったメル・ギブソンを主演に据える企画だったわけで、
ましてや『ブレイブハート』などで既に映画監督としても高く評価されていたメル・ギブソンでしたから、
撮影現場での意見力はメル・ギブソンの力もかなり大きかったのではないかと思われます。

ブライアン・ヘルゲランドも映画の前半では、凄く上手いこと進めていて、
少し冷めたようなカラーを基調としたカメラで、映画の雰囲気に統一感を出していて、良かったんですがねぇ。。。

こういう統一感って、映画に於いては凄く大事で、映画の途中で作り手が変わってしまったのは痛いですね。
個人的には最後までブライアン・ヘルゲランドに任せれば良かったのに・・・と思えるぐらいの仕上がりで、
本作の後の01年に『ROCK YOU![ロック・ユー!]』は、今一つな出来だっただけに、
本作で全てを出し切れなかったことが、映画監督としてのキャリアに悪い影響を及ぼしたような気がします。

おそらくブライアン・ヘルゲランドって、映像作家としても十分に活躍できたと思うんですよねぇ・・・。

但し、この映画で決定的に不足していうのは主人公の執念だろう。
勿論、映画の途中で“組織”から拷問を受けるシ−ンがあるにはあるのですが、
別にそれらが主人公が常軌を逸したかのような執念の持ち主であることを象徴しているわけではなく、
ただただ辛抱強いというところだけしか描けていないのですが、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』で
リー・マービンが演じていた主人公は、訳の分からない狂気が描かれていました。

それを観客に特に説明することなく、唐突かつ一方的に描いて、
「これが、この映画のスタイルだ!」と押し切ったことにジョン・ブアマンの映像作家としての高みがあったと
思っているのですが、本作のブライアン・ヘルゲランドにはそういった部分が無いというのが、どうしても見劣りする。

リチャード・スタークが原作で描いた、ハードボイルドな部分は
ブライアン・ヘルゲランドの嗜好と一致するところがあるのだと思うのですが、
やはりエンターテイメント性を意識してか、良い意味で観客に不親切な映画になり切れなかったのでしょうね。

メル・ギブソンはハリウッドでも、90年代後半まではマネーメイキング・スターでしたが、
00年代後半には、様々なゴシップの対象となり、すっかりトラブル・メーカーとしての扱いになってしまいました。

個人的には『リーサル・ウェポン』シリーズなどで慣れ親しんだスターなので、
こうまで急降下してしまったのは、とても残念でなりませんね。もう復活することはないのでしょうか?

ちなみに本作はウィリアム・ディベイン、クリス・クリストファーソン、ジェームズ・コバーンと
往年の懐かしの俳優たちが映画の終盤で揃って出演しています。特にウィリアム・ディベインは
80年代以降は俳優として目立った活動がなかっただけに、まだ元気そうにしていたのが嬉しかったですね。

映画の終盤の見せどころは、彼らの登場というのが、またなんとも寂しい・・・(苦笑)。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ブライアン・ヘルゲランド
製作 ブルース・デイヴィ
原作 リチャード・スターク
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
    テリー・ヘイズ
撮影 エリクソン・コア
音楽 クリス・ボードマン
出演 メル・ギブソン
    グレッグ・ヘンリー
    マリア・ベロ
    デビッド・ペイマー
    ビル・デューク
    ルーシー・リュー
    デボラ・カーラ・アンガー
    ウィリアム・ディベイン
    クリス・クリストファーソン
    ジェームズ・コバーン
    ジョン・グローヴァー