パットン大戦車軍団(1970年アメリカ)

Patton

これは...まるで第二次世界大戦中のトランプ大統領を描いたような映画ですね(笑)。

第二次世界大戦の米陸軍の欧州作戦の指揮をとった実在の軍人、ジョージ・パットンを描いた伝記映画。
監督は68年に『猿の惑星』で世界をワッと驚かせたフランクリン・J・シャフナーで、超タカ派な思想で個性的な
軍人であったジョージ・パットンを、時にシリアスに時にシニカルに描いていて、チョット変わった戦争映画とも言える。

70年度アカデミー賞で大量10部門でノミネートされて、作品賞含む7部門を獲得した大作です。
有名な話しではありますが、主演のジョージ・C・スコットは映画賞が大嫌いだっただけに受賞を拒否しました。

フランクリン・J・シャフナーもダイナミックに撮ることがあるディレクターですが、
本作は映画の前半に迫力ある戦闘シーンがあるものの、映画が進むにつれて次第にドラマ描写がメインになる。
と言うのも、映画の冒頭から如何にも昔の軍人っぽいタカ派な思想丸出しで、あれやこれやと兵士を縛り付ける。
医師にも「恐怖症、神経症での入院を認めるな!」と謎の指示を出し、全員にパットンの主義主張を押し付ける。

当然、そんなパットンの評判は芳しいものではなく、兵士たちからの人望が厚いわけではない。
しかもパットンは典型的なビッグマウスで、大袈裟に喋ったり自分の思想を過激に表現したりするので、
マスコミも彼の言動を追い続け、その結果、パットンの発言や振る舞いが仇となって、彼はハシゴを外されてしまう。

しかし、これはハッキリ言って、自業自得。パットンは正義漢という感じではないし、かなりクセが強い。
人徳を得られる人物像とも言い難く、舌禍もしばしば。軍内部でも、こういう人間性であれば疎まれる存在だろう。
公然と大統領批判はするし、上層部の指示に従わず、しかも勝手なマイルールで部隊を強烈に締め付ける。

パットンはマスメディアへのサービスも半分で、医療チームへ慰問した際に戦死した兵士を見送った後に
戦地での日々に恐怖を抱き精神を病んだ兵士の話しを聞き、「弱虫め! 戦地で死ね! さもなくばオレが殺す!」と
恫喝して兵士を追い出す光景をマスコミに見られ、その様子がそのまま報道されることで軍本部は問題視します。
「アメリカは戦争が好きなんだ」と豪語していたパットンでしたが、彼の行き過ぎた論理は容認されなくなっていきます。

それに聞く耳を持たざるを得ず、大統領からの指示で自分たちの部隊に謝罪するように求められ、
側近からも監視されてるかの如く、ビッグハウスや横暴な態度がでたら側近から指摘される体制になっていく。

パットン自身が望んでいた展開ではなかったでしょうが、降参したかのように受け入れる人間臭いパットン。
軍内での形勢が悪くなってきたことを悟ったパットンは、上層部の指示を聞かざるを得なくなり、
柔軟にやると宣言していたパットンですが、やはりいざ司令本部で感情が入ってくると、すぐに元に戻ってしまう。
結局、「人は簡単に変わることはできない」ということなのだろうけど、戦績は立派なパットンも次第に孤立していく。

そんなパットンの唯一の理解者と言ってもいいブラッドを演じたのが、ベテラン俳優のカール・マルデンで
映画の冒頭で久しぶりのパットンとの再会で、自分のオフィスに入り込んできて、パットンが我が物顔で机につき、
自分の上官であるかのように振る舞い始めて、とても複雑な表情を浮かべるシーンが印象的で、気心が知れた
間柄だからこそケンカにはならずに丸く収まるけれども、ブラッドも我の強い性格だったら、もうケンカでしょうね(笑)。

ジョージ・C・スコットは撮影当時43歳という年齢でしたが、メイクを駆使して老け役にチャレンジしてますが、
ご本人も相当に頑固な役者さんだったようですので、ある意味でパットンのキャラクターとカブる部分はあったのかも。

特に映画の冒頭6分間に亘って、合衆国の星条旗の前で彼の持論を展開して熱弁を振るうシーンは圧巻です。
ある意味では、この冒頭で既にパットンが“裸の王様”であることを象徴しているようで、なんとも皮肉が利いている。
この辺はコッポラの脚本ということもあったのだろうけど、僕の中ではこのオープニングで本作のイメージが決まった。
それくらいに、この冒頭の6分間に及ぶパットンの熱弁はインパクトがデカかった。正しく最高のオープニングである。

しかし、残念ながら映画全体としては、この冒頭のインパクトに勝るものがなく映画が終わってしまった印象だ。

ちなみに邦題に“大戦車軍団”というタイトルがつけられていますが、ここから戦車が大活躍する内容を
期待すると肩透かしを喰らうので要注意です。パットンは戦車隊を仕切るのが上手かったようですけど、
ただそれだけで、戦車が大活躍する映画というわけではありません。映画の前半に少しだけ、あるにはありますがね。

現代で言うと、パットンのような上官は部下たちのモチベーターとしての役割を果たすべきと言われるのでしょうが、
本作で描かれるパットンは部下たちのモチベーションを上げるどころか、彼の哲学を押し付けることでモチベーションを
ただひたすら下げているようにしか見えない、トンデモないパワハラ上官だ。とにかく相手を叱責することしかしません。
こんな調子でも、実績十分な軍人として評価されているわけですから、ある意味ではザルな時代に見えてしまう。

劇中、パットンは「早く日本と戦いたい」みたいなことを言ってのけてますが...
実在のパットンは第二次世界大戦が終焉した直後の1945年12月、突然の交通事故に遭って入院します。
入院中に他界してしまうのですが、パットンの最期には憶測を呼ぶところがあり、アメリカでは暗殺説すらあるとか。

確かに部隊の士気を高めるために暴言上等で部下たちを締め付け、時に合衆国政府の批判も公言する。
映画でも描かれておりましたが、微妙な関係にあったソ連のことを差別的な物言いしたりと、とにかくやりたい放題。
全く言うことを聞かないパットンに対して、当時の軍司令部は快く思っていなかったことは有名な話しであり、
どうやらパットンも相性で慕っていた、合衆国大統領のアイゼンハワーも何か理由を見つけて、パットンを最前線から
撤収させたかったらしく、扱いに手を焼いていたことから察するに、彼の最期に諸説生まれることは仕方ないのかも。

映画はそういったパットンの最期も含めて描いているのかと思いきや、映画はそこまで扱っていない。
フランクリン・J・シャフナーのビジョンと違ったのかもしれませんが、僕はそこまで描いた伝記映画にして欲しかった。
その方が映画がミステリアスなものに仕上がっただろうし、パットンの生きざまによりクローズアップできただろう。

そもそも軍司令部がパットンのどこを評価していたのかと言うと、彼の戦略家としての一面とその戦略を
前に進める実行力なのだろう。しかし、そこに副作用があることも軍司令部はよく分かっていて、パットンの扱いに
苦慮していたような描写がある。軍司令部では有能な人間ではあるけど、取扱要注意ということだったのだろう。

映画でメインとして描かれるのは、結局はパットンの舌禍に関わるエピソードになる。
これは作り手がパットンの人間性を描きたかったことの表れでしょうね。そのせいか、映画の訴求力は弱いと感じた。
生まれつきの口の悪さが災いすることは勿論のこと、チョットしたサービス精神が仇となることもあったのだろう。
言葉尻まで取られ、モラルも強く問われる現代社会ではパットンは間違いなく生き残れないタイプでしょうね(苦笑)。

戦闘シーンは激しさはあまりありませんが、次々と銃撃が襲い掛かる中でもパットンが前進することを
指揮する姿は印象的だ。周囲の緊張感とは打って変わって、パットン自身はいつもの調子で叱咤しながら歩く。

スゴいなぁと唸らせられたのは、パットンが司令部を構えていた部屋が機銃掃射を受けたとき、
怒り狂ったパットンは部屋のベランダから階下まで降りていき、襲い掛かってくる戦闘機に向かって反撃しようとする。
ほぼほぼ奇襲を受けたのと同様で、なかなかパットンのような行動力のある軍人というのも数少ないと思います。

それだけパットンには強い信念とバイタリティが強かったおかげでしょうし、それゆえ彼はアクも強かった(笑)。
それだもん、戦地に行けば精神を病んだ兵士に面と向かって、「腰抜けが!」と大声で叱責するわけですね。
まぁ、このパットンの強い信念ってのが一般人から見ると、かなり右傾化して歪んでいたことは否めなかったのだろう。
しかし、一方で彼に忠実な部下や友人には優しさを見せる一面があったりするから、人間ってやっぱり複雑だなぁ。

本作が高く評価されたことで、コッポラは72年に『ゴッドファーザー』の仕事を得ることになります。
そう思うと、本作の存在価値は凄まじく高い。しかし、個人的にはオスカーを総なめした理由は、よく分からない。
確かに主演のジョージ・C・スコットが地で演じたとしか思えないくらい、主人公パットンにピッタリではあったけど・・・。

本作はこのキャスティングを実現しただけで、成功が約束されたようなものだっただろう。
そして、前述したオープニングのパットンの大演説。このインパクトで本作は、歴史に名を残す作品となったのです。

「終わり良ければ、全て良し」と言わんばかりに、映画のラストにインパクトを持ってくる手法は多いけど、
本作は真逆をいったような作品で、最後はあまり訴求しない。面白い対比ではあるけど、どうにも釈然としないのです。

(上映時間169分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 フランクリン・J・シャフナー
製作 フランク・マッカーシー
脚本 フランシス・フォード・コッポラ
   エドマンド・H・ノース
撮影 フレッド・コーネカンプ
特撮 L・B・アボット
編集 ヒュー・S・フォウラー
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ジョージ・C・スコット
   カール・マルデン
   マイケル・ストロング
   カール・ミヒャエル・フォーグラー
   スティーブン・ヤング
   フランク・ラティモア
   マイケル・ベイツ
   エド・ビンズ

1970年度アカデミー作品賞 受賞
1970年度アカデミー主演男優賞(ジョージ・C・スコット) 受賞
1970年度アカデミー監督賞(フランクリン・J・シャフナー) 受賞
1970年度アカデミーオリジナル脚本賞(フランシス・フォード・コッポラ、エドマンド・H・ノース) 受賞
1970年度アカデミー撮影賞(フレッド・コーネカンプ) ノミネート
1970年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート
1970年度アカデミー美術監督・装置賞 受賞
1970年度アカデミー特殊視覚効果賞 ノミネート
1970年度アカデミー音響賞 受賞
1970年度アカデミー編集賞(ヒュー・S・フォウラー) 受賞
1970年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・C・スコット) 受賞
1970年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・C・スコット) 受賞
1970年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ジョージ・C・スコット) 受賞