パトリオット・ゲーム(1992年アメリカ)
Patriot Game
トム・クランシーの人気小説『愛国者のゲーム』を映画化したサスペンス・アクション。
ハリソン・フォードが演じる元CIAアナリストであるジャック・ライアンの最初の作品で
実質的に90年の『レッド・オクトーバーを追え!』の続編らしいのですが、さすがにアレック・ボールドウィンと
ハリソン・フォードとでは、そうとうに演じるジャック・ライアンの印象が違っていて、あまり続編という感じはしない(笑)。
監督はオーストラリア出身のフィリップ・ノイスで、88年の『デッド・カーム/戦慄の航海』で評価されて、
89年の『ブラインド・フューリー』からハリウッドに活動の場を移して以降、アメリカで映画を撮り続けています。
まぁ、ハリウッドお得意のフォーマット化されたアクション映画のパッケージという感じに仕上がっていて、
正直、ある一定の満足は得られるけど、どうしても出来の良いアクション映画という感じではなかったというのが本音。
本作でハリソン・フォードが演じたジャック・ライアンも、あまりアナリストっぽい風格が漂っているわけではなく、
復讐の対象として祭り上げられた悲劇の家族の父親が、怒りの反撃にでるという一般市民な感じが出過ぎている。
べつにスーパーマンである必要はないと思いますが、もう少しプロフェッショナルな側面があっても良かったかも。
家族を守るという観点でもそうですが、あまりに危機管理意識が低過ぎて、映画とは言え、少々ビックリしてしまう。
知的な部分もそうですが、もう少しジャックの能力の高さというのを強調して表現して欲しかったんだけどなぁ。
さすがに映画のクライマックスで、自宅に英国の皇族を招いて夕食をとるということ自体、無理がある話しだし、
悪役を演じたショーン・ビーンにしても、ほぼほぼ個人的な恨みだけで組織からはみ出して行動するというのも、
なんだか違和感があって、あれだけジャック・ライアンへの復讐に反対していた組織のリーダーがいたにも関わらず、
そのリーダーもいつしか、その個人的な復讐に加わって組織を率いているというのは、あんまり説得力がない流れだ。
まぁ、みんな愛国者なのかもしれないけど、ショーン・ビーン演じる悪党はあまりアイルランドのために
何かを訴えているという感じではなく、単に弟を殺されたことへの復讐心なんだけど、そこまで弟への愛が
深かったのかが不明瞭で、何故にそこまでして怒っているのかがよく分からず、思わず何か“裏”があるのかと思った。
でも、そんな“裏”はなくって、単に兄弟愛が深かったようで、周囲が反対しても彼は復讐を遂げようとする。
いくらIRAに近いところにある組織で過激に活動するテロ組織とは言え、冷静に考えると個人的復讐のために
被害をもたらす可能性のある計画を、組織の武力を行使しようとすること自体、チョットありえないことに思えます。
この辺を本作はクリアして欲しかったところで、原作通りのシナリオなのかもしれませんが、
この映画で描かれたことだけを観ると、どうしても少々チグハグな印象を受けることは否定できません。
だって、相手はCIAアナリストですよ。オマケに異国の大国アメリカに暮らしているわけで。
そんなジャック・ライアンに復讐を果たそうとするなんて無謀な計画に見えるわけで、僕はむしろ組織ではなく、
個人で行動した方がジャック・ライアンへの復讐は成功するかも・・・なんて思っちゃえるくらい、あまりに無謀な物語。
フィリップ・ノイスはどちらかと言えば、サスペンス映画の方が得意なのかなと思えたので、
本作ももっとサスペンスフルな展開にした方が、映画の緊張感もピリッと高まったでしょうし、引き締まったでしょう。
撮影当時、主演のハリソン・フォードも既に50歳近い年齢だったせいか、キレのあるアクション・シーンをこなすにも、
少々無理がある年齢だったせいか、アクション映画としても少し苦しいところがあるのは否定できないですからねぇ。
そういう意味では、ジャック・ライアンがテロリストたちの情報を得るために、IRAに近い政治家を演じた
リチャード・ハリスに接触するエピソードなんかを、もっと深掘りして情報アナリストとしての駆け引きを描いた欲しかった。
その方がずっと魅力的な映画に仕上がったと思うんだよなぁ。本作はどこか悪い意味で中途半端に映ってしまったので。
前述したように、ジャック・ライアンはCIAの情報アナリストで職業柄、色々な想定をしていると思うのですが、
そもそもが危機管理意識が低くて、家族を悪い意味で騒動に巻き込み過ぎて、家庭人としてはダメでしょう(笑)。
あくまで映画ですけどね・・・愛する娘が自動車事故で脾臓摘出なんてことになってしまうというのは、
凄まじい悲劇だと思うし、ましてやそれを悪びれずに更なる挑発として電話してくる悪党には、怒りを感じるでしょう。
そういう意味では、徹底したショーン・ビーンの悪役キャラクター造詣は実に素晴らしく、これはこれで貢献度がデカい。
だからこそ、そこまで個人的な恨みを晴らすことに執着する理由を描いて欲しかったし、なんだか勿体なく思える。
子役時代だったソーラ・バーチも、結構、悲惨な目にあう役柄でなんだか可哀想に見えてしまった・・・。
前述したように、本作のクライマックスの攻防は何もかもが無茶苦茶な展開に見える。
そもそもが海外の要人をいくら英雄的行動をして表彰されるからとは言え、自宅に招くという設定に無理があるし、
そこに堂々と悪党連中が忍び込んで、ジャックに個人的な恨みを晴らそうという強引さに違和感がある。
そもそもが国際的にも知られるテロ組織であって、メディアでも取り上げられている立場だからこそ、
もっと慎重に行動するだろうし、ショーン・ビーンの悪役造詣は素晴らしいにしても、もっとクレバーに描いて欲しかった。
これでは、組織のリーダーを演じたパトリック・バーギンも、女性テロリストを演じたポリー・ウォーカーも
霞んでしまっているし、結局、彼らが映画の中であまり重要な意味を為さない存在になってしまったのが残念。
この辺は作り手であるフィリップ・ノイスがもっと映画全体のバランスを整えて、磨き上げなきゃダメですね。
きっと、トム・クランシーの原作小説ももっとエキサイティングに表現していたのでしょうから、
フィリップ・ノイスには敢えて映画化する意味を、もっとよく考えて欲しかった。これでは、映画化した意味が無い。
そういう意味では、もっとターゲットにされたジャック・ライアン自身とテロ組織との間で、
駆け引きのようなものがあっても良かったし、もっと複雑に絡み合う緊張感がある関係性であって欲しかった。
ハリソン・フォード演じるジャック・ライアンはどうしても、自分だけで解決しようとするように見えて、どうもダメ(笑)。
この辺は『レッド・オクトーバーを追え!』でジャック・ライアンを演じたアレック・ボールドウィンの方がずっと良かった。
しかしフィリップ・ノイスとハリソン・フォードのコンビは、本作に続いて94年に『今そこにある危機』で
ジャック・ライアンのシリーズの続編を製作しており、ハリウッドのプロダクションでは評価が高かったのかもしれません。
まぁ・・・本作よりはエンターテイメント・アクションに寄った作品だったので、それなりにヒットはしてましたけど、
個人的にはどれだけトム・クランシーの原作の魅力を、スクリーンで表現できたのかは疑問で、原作には無い魅力を
映画というメディアで表現するのは良いけど、少なくとも原作がある以上は、その原作の良さも吹き込まないととも思う。
本作に至っては、『レッド・オクトーバーを追え!』のような緊張感も感じられなければ、
『今そこにある危機』のようなスケール感も希薄で、アクション・シーンもどこか緩慢な印象を受けてしまう。
決してフィリップ・ノイスは力の無いディレクターだとは思わないけど、本作は良くも悪くも当たり障りが無い仕上がりだ。
結局、ハリソン・フォードというスター俳優を主演に据えて、人気小説を映画化したという枠組みが
本作最大の“売り”ということになってしまっていて、肝心かなめの中身が伴わなかったというのが、なんとも残念だ。
まだ、脇役ではありましたがサミュエル・L・ジャクソンが印象に残る役どころで出演しているのには注目。
ジャック・ライアンと懇意にしている海兵学校の教官役でしたが、彼がクライマックスの攻防に絡んでいるのは嬉しい。
いっそのこと、“裏”のあるキャラクターにしても面白かったけど、あくまで原作通りで、これは仕方ないところです。
それにしても、映画の冒頭に描かれるバッキンガム宮殿前でテロ組織が王室のファミリーを襲うという発想がスゴい。
そこにたまたま立ち会ってしまうジャック・ライアンの運命がスゴいけど、防具なしに襲撃現場に割って入っていく、
ジャック・ライアンの勇敢さ(?)が圧巻です。襲撃したIRAも無計画に、スゴい場所で襲撃するものだとしか思えず、
なんとも無謀な実行内容です。そういう意味で、この組織は有能なのか何なのか、サッパリよく分からないのです。
そんな組織だから、ショーン・ビーンの個人的な恨みを晴らすのに利用されてしまうのかもしれませんが、
もう少し組織の中で孤立していき、勝手な行動をとっていく構図で描いた方が良かったのかもしれませんね。
こういうチグハグな部分がどうしても目立ってしまっていて、どうしてもノレない一作だったなぁ。
トム・クランシーの原作シリーズが好きな人であれば楽しめるのかもしれませんが、この内容ならば駆け引きを描いて、
もっとヒリヒリするような緊張感を演出して欲しかったし、クライマックスのアクションもしっかり見せて欲しかったなぁ。
ご懐妊をユーモアとしたかったのかもしれませんが、映画の終わり方もどうもシックリこないのも残念。
(上映時間116分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 フィリップ・ノイス
製作 メイス・ニューフェルド
ロバート・レーメ
原作 トム・クランシー
脚本 W・ピーター・イリフ
ドナルド・スチュワート
撮影 ドナルド・M・マカルパイン
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ハリソン・フォード
アン・アーチャー
ゾーラ・バーチ
ショーン・ビーン
パトリック・バーギン
ポリー・ウォーカー
サミュエル・L・ジャクソン
リチャード・ハリス
ジェームズ・アール・ジョーンズ
ジェームズ・フォックス