パワー・ゲーム(2013年アメリカ)

Paranoia

01年の『キューティー・ブロンド』で名を上げたロバート・ルケティックの監督作品。

まぁ、本作は如何にもロバート・ルケティックらしい映画ですね。
若者を主人公に据えて、憧れのリッチな生活を手に入れることを条件に、チョットした悪い道に引き込まれ、
トンデモない陰謀に巻き込まれ窮地に追い込まれた末、用意周到に反撃に出る姿を描くサスペンスですね。

映画の出来としては、まずまずだと思います。とても面白いというレヴェルではないですけど、
ハリソン・フォードにゲイリー・オールドマンの共演という珍しいコンビですけど、意外にバチバチな感じでアツい。

本作で描かれていることは、いわゆる産業スパイとしてライバル企業に送り込まれた若者の物語ですが、
自ら目的があって産業スパイとしてライバル企業に入社するわけではなくって、クビになりかけた会社の社長から
特命を受けてライバル企業に潜入し、ライバル社の情報を盗み取って来るという役目であって、彼の私生活はおろか、
彼の父親までもが監視されているという状況で、主人公は社長の法外な要求に応じなければならなくなります。

しかし、この所属する会社には様々ないわくつきな事件があることをFBIから知らされるものの、
何故か主人公はFBI捜査官に助けを求めることができる機会を自ら拒否し、自分の力でなんとかしようとします。
そう、この主人公はかなりの自信家のようにも見え、この性格的な部分も社長から目を付けられたキッカケなのだろう。

やっていることは次世代型の携帯通信端末のソフトを開発するライバル会社同士の経営者が
もともとは師弟関係にあって、自分の功績を全て代表者に取られたと感じた、技術者が会社を立ち上げることで独立、
いつしかライバル会社として台頭するようになったものの、次第に行き詰まって、一発逆転を狙うソフト開発の情報を
奪い取ることで相手を“出し抜く”ことを目論むという、言ってしまえば経営者同士の醜い争いに若者が巻き込まれる。

この2人の経営者でカリスマ的に先を行くゴダードを演じるのがハリソン・フォードで、
ゴダートに全てを奪われたと逆恨みするワイアットを演じるのが、ゲイリー・オールドマンという絶妙なキャスティング。
彼らの争いに巻き込まれて、何もかも失ってしまうピンチに追いやられる若者アダムに、リアム・ヘムズワース。
少々、自信過剰気味な雰囲気を漂わせながらも、経済的な成功をワイアットの元で夢見ている姿を巧みに演じている。

印象的なのは、やはりアダムがクラブで一目惚れする謎めいた美女エマを演じたアンバー・ハードだろう。
プライベートでは俳優ジョニー・デップとの結婚と離婚など、ゴシップで賑わす女優さんですが、存在感は強い。
本作の姿を見ても、世の男たちを惑わすような色気がプンプン漂っているというのは、よく分かりますわ(笑)。

しかし、本作にはよくある“ご都合主義”な部分がたくさんあって、これは賛否が分かれるかもしれない。
そもそも情報化社会の弊害の一つとして、監視カメラでプライベート空間を監視されるというシーンがありますが、
いくらなんでもあれだけの監視カメラを設置するのに、どれだけの手間をかけるのかという話しで、
さすがにワイアットの会社なら、もっと違う方法を考えるだろうなぁと思えるだけに、スゴく安直な描写に見える。

だいたい、この邦題もテキトーな感じで「こりゃ、ないわ」と思っちゃいましたしね・・・。
一体、この映画の内容のどこが“パワーゲーム”なのかと問いただしたくなる。力のある者がブイブイいわせる、
という社会の一つのセオリーを主張する邦題なのだろうけど、内容的にはそういう闘争ではないあたりが合ってない。

この噛み合わない邦題も酷く足を引っ張っている感じで、せっかくのキャストの頑張りも台無しですわ。

全米では豪華キャストで映画化した作品で期待を集めていた割りには、内容が全くウケずに
興行的には失敗した作品らしいのですが、あまりゲイリー・オールドマンが主要キャストを務める作品という、
アクの強さを求めてしまいがちな先入観は捨てた方がいいですね。捨てられると、本作は楽しめると思います。

そう、本作のゲイリー・オールドマンは僕の勝手な想像を遥かに上回るほどフツーな感じで、
たいした悪党とも言えないだけに、他作品で作り上げてきた従来のインパクトには勝てないと言ってもいい。
しかし、ゲイリー・オールドマン本人のインタビューなんかを読んでいても感じますが、彼自身、こういう役でこそ
称賛されたいという想いが強いのではなかろうかと思います。『ハリー・ポッター』シリーズも自ら志願したらしいので。

対するハリソン・フォードは、アクの強さを期待してはいけないと思いますが、
それなりに嫌味なキャラクターでワイアットの主張も、「結構正しいのでは?」と観客も疑問に感じるくらい、
本作では小悪党的な発想を持った男であって、特に映画の終盤の攻防でのハリソン・フォードはとっても良かったです。

しかし、それでも監督のロバート・ルケティックとしてはもう少し上手くまとめて欲しかったなぁ。
決して悪い仕事ぶりではないし、及第点レヴェルの仕上がりではあるのだけれども、少しずつ何かが物足りない。

そこにはゲイリー・オールドマン演じる企業経営者のワイアットに関する描写も含まれるかもしれません。
やっぱり、ゲイリー・オールドマンならもっといろんなことが出来るだろう、という期待値の高さもあるかもしれません。
前述したようにハリソン・フォードとのやり取りは、バチバチとやり合う感じでアツいのですが、それ以外がねぇ・・・。

現実に産業スパイって、どれくらい暗躍しているものなのかは分かりませんけど、
実際問題として、日本でも転職すること自体はありふれた話しだし、同業他社にヘッドハンティングされることもある。
まぁ、ヘッドハンティングじゃなくても同業他社へ転職されるということは、ナンダカンダで情報が漏れるということ。
勿論、退職する際に約束するものだし、ベラベラと前職の会社はこうだったと吹聴するものではないと思いますが、
同業他社へ転職するということの意味は、“そういうこと”でしょう。営業秘密をパクったと証明することも難しいし。

情報漏洩はどんな理由があれど肯定されることではありませんが、
企業とは営業秘密が漏れても持続可能な状態にするということも、備えとしては必要なことのように思います。
(つい先日も某回転寿司チェーンの経営者交代で、類似するような問題がありましたがね・・・)

日本も農作物を無断で国外へ持ち出され、海外でコピー品種を大量に生産されるという
知的財産権の侵害が起こり、種苗法などでも規制されてはいますが、全く抑止できていないですからねぇ。
法整備も重要なんだけど、それだけでは防ぐことはできないんだという意識と、広い意味での自衛が必要なのかも。

だからこそ、常に技術革新を求める姿勢が重要なのでしょうし、職人芸ではない程度のことでしたら
一つのノウハウや技法に何十年も秘匿して利益を上げ続けることは難しく、必ずどこか漏洩してしまう気がします。
僕の感覚としても、退職者が発生しない職場なんて無いですし、働く人ってどこかで必ず辞めますからね。
そんな退職者の全員が、素晴らしいリテラシーを持っているとも限らない。故に、少しずつでも情報は漏れるのです。

なので、企業は常に情報漏洩するものだと思って備えることが、リスク・マネジメントの一つだと思うのです。

ちなみに僕は、製造業などは事業所に出入りする営業マンや工事業者からリークすることも多いと思っています。
大抵そういう人たちって、同業他社に出入りしているケースが多くて、雑談の切り口として他社の情報をベラベラ話す、
というケースもしばしば遭遇しています。そういう人たちって、営業秘密に触れる機会がもの凄く多いですからね。

本作の主人公も、どうやってあんなに簡単にライバル会社に転職できたのかは不明ですが、
正しく同業他社への転職をするという設定を使って、産業スパイするという物語ですので、スパイ行為はともかく、
こういった転職は、前職企業の情報が漏れる最大の要素ですね。中には情報源として採用する企業もあるのかも。

でも、実際に企業に潜入してスパイ行為をするって、メチャクチャなリスクを背負う行為ですね。
僕なら間違いなく出来ないし、そんなことする余裕があるなら、もっと違うことでその才能を生かせそうと思っちゃう。
ましてやこの主人公アダムという青年が、そこまで器用そうに見えないから、少々説得力が弱いんだよなぁ・・・。
そういう意味では、このアダムの描き方に関しては、もっとスマートかつ度胸のある男として描いて欲しかった。

どうでもいい話しですが...本作の主人公が開発したソフトの“売り”である、
3Dで表示する位置情報システムというのは、誤差なく開発して上市できたらホントにヒットしそうだなぁ。

それを戦闘地での誤射を防ぐ目的で、軍隊や軍事会社に販売したらいいのではないか、
という着眼点はモラル的なところは置いといて僕は面白い発想だと思うし、アメリカならこういうことやってる企業、
なんだかいっぱいありそうだぁ。残念ながら世界平和が実現するまでは、こういう軍需産業が暗躍する社会なので。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロバート・ルケティック
製作 アレクサンドラ・ミルチャン
   スコット・ランバート
   ウィリアム・D・ジョンソン
   ディーパック・ナヤール
原作 ジョセフ・フィンダー
脚本 ジェイソン・ホール
   バリー・L・レヴィ
撮影 デビッド・タッターサル
編集 ダニー・クーパー
   トレイシー・アダムズ
音楽 ジャンキー・XL
出演 リアム・ヘムズワース
   ハリソン・フォード
   ゲイリー・オールドマン
   アンバー・ハード
   リチャード・ドレイファス
   ルーカス・ティル
   エンベス・デービッツ
   ジュリアン・マクマホン