パピヨン(1973年フランス)

Papillon

なんか...スゴい映画であることは確かなんだけど、これは観ていて食欲を失う映画だ(笑)。

いや、映画は濡れ衣を着せられて終身犯となったパピヨンが、
脱獄不可能とされる悪名高い孤島に位置する刑務所に入所して、偽札作りの常習犯ドガと仲良くなって、
リスクを承知で幾度となく、積極果敢に脱獄にチャレンジする姿を描いたサバイバル・ドラマなんですが、
あまりにタフな内容で、オマケに2時間30分もあるもんだから、観るのにそうとう体力を使います。

そして、とにかくパピヨンが受ける待遇が劣悪で、
飢えを通り越して、あまりの壮絶さに食欲を失うような感覚に陥ります。

思うのですが、これがスティーブ・マックイーンの集大成なのかもしれませんね。
74年に『タワーリング・インフェルノ』に出演はしていますけど、その圧倒的な存在感を誇示できたのは、
生前、本作が最後ではないでしょうか。そう思わせるぐらい、本作での彼は凄い入れ込みようです。

映画の中盤、パピヨンは気分が悪くなってしまったドガが更に暴行を受けているのを見かねて、
看守に暴行をはたらいてしまったことから、ペナルティとして2年間の独房生活を強いられます。
この独房での文字通り、孤独と静寂との闘いがあまりに壮絶で、密かにドガからココナッツの差し入れを
もらっていた事実を看守に察知され、更に四六時中、暗闇での生活を強いられてしまいます。

それでもパピヨンはドガの名前をリークすることを拒み、ひたすら耐えしのぎます。
まぁこのパピヨンの決断が正しいかはともかく、どんな苦境に追いやられても負けず、
妄想にも耐えしのぎ、ただひたすら生きることに執着する姿は圧巻としか言いようがありません。

いや、ここまでの執念は僕には到底、真似できないだろうし、
肉体的・精神的なタフネスぶりが、この映画に猛烈なエネルギーとして乗り移っているのが凄い。

ナイフが刺さる描写であったり、切り傷を作る描写であったり、首チョンパだったり...
フランクリン・J・シャフナーも何一つ躊躇せず、残酷描写を採用しており、
視覚的な意味合いでもかなり覚悟した方がいいだろう。でも、それらが一人歩きするわけではなく、
見事に一つの映画の中で調和しているのだから、彼の演出力の高さは凄いですね。

但し、本音を白状すれば、少し無駄の目立つ映画ではある。
徹底したパピヨンの執念を描きたい気持ちは分かるが、個人的には映画の終盤はもっとタイトにして欲しい。
特に先住民たちとの交流や、老いたドガとの再会のエピソードなどは、もっと省略できただろう。

まぁとは言え、実はこれはノンフィクションの映画化ですから、
ある程度は原作を尊重した内容にしなければならなかったでしょうから、こういった内容なのかもしれませんね。

実在のパピヨンは1931年の投獄から、約12年もの歳月を経て、脱走に成功します。
彼はあくまで容疑であるポン引きを殺害した罪は認めておりませんが、
「人生を無駄にしてきた」という罪に関しては認め、有罪止む無しとする妄想を見ます。
まぁ事実かどうかは知りませんが、投獄前のパピヨンはいい加減な男だったのでしょうね。

一方のドガはドガで、偽の国債を勝手に発行した罪で投獄されたのですが、
フランス社会に対する影響力はとても甚大で、その被害者も多く、これが刑務所でもハンデとなります。
(そのハンデが映画の冒頭で、刑務官の買収に失敗するシーンで表現されている)

スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマン共にまだ老け込むには早い頃に撮影しており、
さすがに老け込んだように見せる芝居には違和感はあるのですが、それでも彼らの役作りは半端じゃない。

加えて、スティーブ・マックイーンが痩せこけて目つきも変になってくる芝居が強烈で、
60年代後半〜70年代にかけて役者としてピークを迎え、ピークのまま他界してしまったことを考えても、
本作の入念な役作りに精魂捧げ過ぎたせいか(?)、燃え尽きたのではなかろうかと思えてなりません。

しっかし、いくら刑務所とは言え、さすがにここまでの待遇の劣悪さがあったのだろうか?
僕は別に死刑廃止論者ではないし、人権推進派というわけではないけど、ここまでの壮絶さを知ると、
思わず「もうチョット、マシな待遇にしてやってくれよ」と言ってあげたくなるから、不思議。

ただ、そういう意味ではパピヨンの真実に触れずに、
パピヨンの境遇に同情的になるように誘導しているような感じがして、ズルさは感じますね。

何せ脚本に『ジョニーは戦場に行った』のダルトン・トランボがクレジットされていますから、
こういった体制に反抗していく内容に傾倒していくというのは、至極当然な話しかもしれませんね。
(勘違いしないで欲しい・・・決して彼が書いたシナリオが悪いという意味ではない)

前述した先住民族との交流という意味では、
命を狙われたパピヨンが、何故か先住民族に助けられ、何故か先住民族の娘に恋され、
何故か彼女とイチャイチャするシークエンスが半ば無理矢理に組み込まれている。
個人的には、これらは全てカットで良かったと思うのですが、やっぱり全体的を見渡すと“浮いて”いますね。

まぁ如何にも、この辺はダイナミックな演出を好む、フランクリン・J・シャフナーらしいと言えば、らしい(笑)。
故意に手持ちカメラを多用したことによる、臨場感溢れる演出も彼ならではの仕掛けと言っていいだろう。

でも、あとチョットなんだよなぁ。
もう少しで傑作と呼べたのに、映画としての決定打が感じられないのは致命的だ。
まぁこういう部分も、フランクリン・J・シャフナーらしいと言えば、らしい(笑)。

(上映時間150分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フランクリン・J・シャフナー
製作 ロベール・ドルフマン
    フランクリン・J・シャフナー
原作 アンリ・シャリエール
脚本 ダルトン・トランボ
    ロレンツォ・センプルJr
撮影 フレッド・コーネカンプ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 スティーブ・マックイーン
    ダスティン・ホフマン
    ビクター・ジョリイ
    アンソニー・ザーブ
    ドン・ゴードン
    ロバート・デマン

1973年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート