パニック・ルーム(2002年アメリカ)

Panic Room

大富豪の夫が、B級女優と不倫したことをキッカケに
11歳になる先天性の糖尿病を患う思春期の娘と共に家を出たメグが、夫への腹いせにと借りた、
ニューヨークの閑静な住宅街にある、4階建ての豪邸の契約を結び、引っ越しを終え、暮らし始める最初の夜に
その豪邸の“パニック・ルーム”と呼ばれる、緊急時の避難部屋に隠された、家の前のオーナーが残した、
莫大な遺産を狙う、3人の押し入り強盗の凶行に、必死に抵抗する姿を描いたサスペンス映画。

劇場公開当時、そこそこ話題になっていた作品で、
当時、僕も珍しく映画館で観た作品の一つだったのですが、これが正直言って、チョット肩透かしだった。

映画の冒頭の無駄に凝ったタイトル・バックが、ある意味ではヒッチコックを思い出させるし、
映画の演出自体も、全体的にヒッチコックを意識しているのは、ほぼ間違いないと思うのですが、
どうにも映画が盛り上がらず、心理的な緊張感が張り詰めた画面というほどにはならなかったのが残念。

でも、この映画、一見するとヒッチコックっぽいんだけど、
何故か「実際にヒッチコックが撮っていたら、こうではないだろうなぁ〜」と思えてしまうから不思議。

監督のデビッド・フィンチャーは『エイリアン3』以降、
ハリウッドでも売れっ子映画監督として有名になり、日本でもコアなファンが多い映像作家ではありますが、
おそらく本作に対する期待値はかなり高かったのでしょうが、もっと色々と仕掛けられたのに・・・と思えてしまう。

ストーリー上では、オーソドックスな展開になってしまうことはやむをえないと思うし、
本作のシナリオ自体は、僕はそんなに悪い出来だとは思わないけれども、デビッド・フィンチャーはあまりに
このシナリオに対して、真正面から取り組み過ぎたというか、全体的にストレート過ぎる作りになったのが残念。

勿論、デビッド・フィンチャーなりに誤魔化しの無いよう、
正々堂々と観客と対峙した映画を撮りたいという意思が強く反映されたからこそ、この中身だと思うのですが、
さすがにデビッド・フィンチャーのフォロワーは世界中に多くいるわけで、個人的にはハッタリでも構わないから、
もっと観客に対して、「なんかやってやるぞ!」という“揺さぶり”があっても良かったのではないかと思う。

観ていて、最後の最後まで気になっていたのですが・・・
本作には、そういったデビッド・フィンチャーの観客に対する挑戦といったものが全く感じられず、
悪く言えば、平凡なストーリーをそのまま描き、凡庸な映画の仕上がりになってしまったと解釈できてしまいます。

これでは、あまりに勿体ないというか、観客が期待するものとのギャップが大き過ぎた感があります。

メグを演じた主演のジョディ・フォスターは凄く頑張ったのですが、
個人的には本作は、ニコール・キッドマン主演で描かれるはずだったのですが、
01年に彼女が出演した、『ムーラン・ルージュ!』の撮影で怪我をしてしまったせいで降板し、
その代役としてジョディ・フォスターが主演という形になっただけに、ニコール・キッドマン主演でも観たかったなぁ。
(この時期、ニコール・キッドマンは『アザーズ』などにも出演し、サスペンス映画への志向も高かったようですし・・・)

映画の前提条件自体を否定しかねないから、あまりこういう言い方はしたくないのですが、
押し入り強盗と闘わなければならないというテーマを持った映画であるにも関わらず、
抵抗する側が“パニック・ルーム”という限定された空間に逃げ込み、むしろ実質的に隔離状態になりながらも、
何故か押し入り強盗相手には主導権を握っているかのように、必死に抵抗するという発想は凄く面白いのだけど、
残念ながら、この設定のおかげで、本来的にこの手の映画に不可欠な、登場人物の攻防という動きを
制約してしているというのは、自分自身でハードルを高くしてしまって、むしろ自分の首を絞めてしまった感じですね。

せっかく着想点は面白いのですが、どうせ主人公の動きを制約するのであれば、
もっと“パニック・ルーム”に抵抗するためのアイテムを与えないと、あまりに非現実的な展開に見えてしまう。
得てして、映画とはご都合主義がなければ成り立たない部分があることを僕も認めますが、
それにしても本作で描いたことは、悪い意味での力技が目立つというか、どうも納得性に欠けるんですよね。

おそらく、そこはデビッド・フィンチャーも気づいていたのでしょうが、
彼が描く映像の魅力だけではカバーし切れず、ただただ魅力を生かし切れなかった映画で終わってしまった感が強い。

もう少し言うと...やはりこの手の映画の悪役で、作り手が露骨に同情的に描き、
例えばフォレスト・ウィテカー演じる黒人の警備会社に勤める男のような、優しい性格を持つキャラクターを
登場させてしまうのは賢明とは思えないですね。こういう映画では、悪役はもっと悪役らしき描かないと。
(まぁ・・・残虐性はドワイト・ヨーカム演じる、当日、加わった男に象徴させてはいるのですがねぇ・・・)

こういう言い方は、本作が好きな人には申し訳ないけど、
やっぱり、近年、デビッド・フィンチャーが監督した映画の中では、最も中途半端な仕上がりになってしまっている。
どうせなら、もっとエンターテイメント性も意識して欲しかったし、どの方向性を考慮しても、悪い意味で中途半端。

別に無理して、ショッキングな演出をする必要もないけれども、
半ば、観客に怖いもの見たさの興味を刺激させるようなこともなく、結局、何がしたいのかよく分からないんだなぁ。

結局、暴力的な手段にでる強盗犯たちなのですが、
“パニック・ルーム”に立てこもる被害者が主導権を握っているため、どうやっても入れない強盗犯たちは、
ある意味で心理戦で、あれやこれやと手を尽くして“パニック・ルーム”に入ろうとします。
ただ、最終的には暴力的な方法論で問題は解決に向かっていくのですが、これが中途半端さに輪をかけた。

デビッド・フィンチャーの狙いは、ひょっとすると、また別なところにあったのかもしれませんが、
それが見えてこないところが、大きな難点。やや企画倒れになってしまった作品という気がしてしまいます。

まぁ、この映画で描かれている、大きな教訓って...
掘り出し物のコスト・パフォーマンの高い物件には、必ず“何か”がある・・・ということでしょうか(笑)。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 デビッド・フィンチャー
製作 セアン・チャフィン
    ジュディ・ホフランド
    デビッド・コープ
    ギャヴィン・ポローン
脚本 デビッド・コープ
撮影 コンラッド・W・ホール
    ダリウス・コンジ
編集 ジェームズ・ヘイグッド
    アンガス・ウォール
音楽 ハワード・ショア
出演 ジョディ・フォスター
    フォレスト・ウィテカー
    ジャレッド・レト
    クリステン・スチュワート
    ドワイト・ヨーカム
    パトリック・ボーショー
    イアン・ブキャナン
    アンドリュー・ケビン・ウォーカー
    ポール・シュルツ