アウトレイジ(2010年日本)

日本の裏社会で暗躍するヤクザの激しいまでの内部抗争を、
今や日本映画界を代表する北野 武が定評のあるバイオレンス描写を交えて描いたヒット作。

結論から申しますと、まずまずの面白さでしたが、
北野 武の映画というブランド力を考えれば、「もっと出来るだろう」と思えてしまうというのが本音でした。
良く言えば、もはや安心感すら感じさせる映画。悪く言えば、物足りなさを感じる映画といったところでしょうか。

もうイヤってぐらい血生臭い暴力描写を見せられるのですが(苦笑)、
逆に言えば、これだけ徹底してくれると、観ている者としても開き直って観てしまう部分もあるかな。
但し、同じバイオレンス描写という観点から言えば、例えば『その男、凶暴につき』のそれと比べれば、
かなりトーンダウンしてしまった感は否めず、そろそろ北野 武の監督作品も一つの転換期を迎えると思いますね。

もはや北野 武の監督作品は一つのブランドですから、
日本だけではなく、世界各国で上映されるわけで、本作のようなタイプの映画が海外には、
一体どこまで通用するのか?という観点からは、これからが勝負といったところかなぁ。

さすがにこれだけのタフな内容を飽きさせずに最後まで観せるのは流石ですが、
おそらく内容的には賛否両論で、裏切り合いだけが“頼りの綱”って感じなのは、ツラいところかなぁ。

一見すると、2つの兄弟関係にある派閥が麻薬ビジネスの“シマ”を巡って、
血生臭い抗争に発展するという構図なのですが、実はそれら構想の一つ一つについて、
それぞれの派閥の親組織が面白いように操っているという構図はなかなか面白かったですね。

久々に映画で注目された三浦 友和が、ある意味で“おいしい”役どころでしたが、
実はこの映画で最も“おいしい”役どころだったのは、北村 総一朗演じる組のボスだったのかもしれません。

いつもの北野 武の映画と一緒で、相変わらず北野 武が撮る映画はテンポが良い。
この躍動感ある映画を撮れる映像作家は、今の日本映画界には北野 武しかいないと言っても、過言ではない。
北野 武の監督作品という枠組みの中では、正直言って、及第点レヴェルの映画だと思うけれども、
これはこれで十分に楽しませてくれる作品に仕上がっているし、そうとうに期待値が高いことを示していますね。

効果的なカット割りの使い方や、映画のテンポに緩急を付けて、
映画にスピード感を付けるなど、いつもの北野映画にあるものは全てあるのですが、
本作は基本的に、“どういう風に殺害していくかを描きながら、後から理由付けする”というアプローチだったためか、
どうも登場人物が如何に残忍に殺されていくか、そして殺される理由を付けるのに一生懸命になってしまい、
全体的に映画が安っぽく見えてしまった部分は大きく、いつもの北野映画と比べれば、落ちるところはあるかなぁ。

例えば石橋 蓮司演じる村瀬が、歯医者で痛ぶられるシーンなどは、
まんまジョン・シュレシンジャーの『マラソン マン』を想起させられるし、各表現にオリジナリティは無いかなぁ。

カジノで池元が襲撃されるシーンにしても、
確かに舌を噛み切って倒されるなんて、強烈な最期なんだけれども、
北野 武も半分、面白がって残虐描写をしたような感があって、なぁーんか引っ掛かるんだなぁ・・・。

全体的な傾向として、残虐描写が唐突に訪れる印象も強く、
あまりつながりが無いせいか、観客を精神的に異常な感覚に追い詰めていくタイプの映画でもない。
この辺りは『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』と決定的に違うところかもしれません。

まぁ・・・映画は各登場人物が相次ぐ裏切り合いから片っ端から殺害されて、
最終的にはほとんど残る人間がいないという構図を楽しむためにあることに等しいせいか、
当然のように映画にメッセージ性なんかないし、ある種のカタルシスを感じさせることも無い。
北野映画に共通したテーマではあるだろうが、本作のスタイルがこれからもずっと理解されるかと言うと、
チョット疑問なところはあるかなぁ。映像作家としての力量は高いと思えるだけに、これは少し気がかりかなぁ。

いや、勿論、大衆ウケする作品を発表すればいいってもんじゃないのですが、
あまりこの路線に固執し続けるというのは、感心できることもないと思うんだよなぁ・・・。
(過去には96年に『キッズ・リターン』などのような作品を撮っているだけに、尚更ね・・・)

しかし、繰り返しになりますが...決して出来の悪い映画などではなく、
前述したように、この内容でこれだけの見応えを出せるのは、北野 武ぐらいしかいないと思います。

ひょっとしたら、この映画の発想の原点は
かつてビート たけしも出演して話題となった、『バトル・ロワイヤル』にあるのかもしれません。
敵も味方かもよく分からないまま、お互いに殺し合いに発展して、最終的には生き残る者が“勝者”という構図は
『バトル・ロワイヤル』とよく似ていて、これのヤクザ版映画と言っても、過言ではない気がします。

内容を深読みせずに楽しめるという意味では、実に優れた映画であり、
あまりに過激な暴力描写や残虐描写があるおかげで、視聴制限はせざるをえない内容ですが、
意外にエンターテイメント性の高い作品と判断され、カンヌ映画祭で絶賛された理由はなんとなく分かる気がします。

しかし、やはりこれぐらいの勢いを持った映像作家が
今の日本映画にはもっと必要だなぁ。これが北野 武ぐらいという現状が寂しい。。。

欲を言えば、ビート たけしの恋人役を演じた板谷 由夏など、
女性キャラクターがもっと生かされれば、映画の幅が広がったと思うんですよねぇ。
これは従来の北野映画に共通して言えることではあるのですが、もうチョット女性の描き方が上手ければ・・・。

まぁ、そういう不器用さも含めて、北野 武らしいと言えば、それまでだけど(笑)。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開j時[R−15]

監督 北野 武
製作 森 昌行
    吉田 多喜男
脚本 北野 武
撮影 柳島 克己
衣装 山本 耀司
音楽 鈴木 慶一
出演 ビート たけし
    椎名 桔平
    加瀬 亮
    小日向 文世
    北村 総一朗
    塚本 高史
    板谷 由夏
    中野 英雄
    杉本 哲太
    石橋 蓮司
    國村 隼
    三浦 友和