アウトブレイク(1995年アメリカ)

Outbreak

コロナ禍に見舞われた2021年現在からしたら、実にタイムリーな内容のサスペンスだ。

当初はリドリー・スコット監督で企画が立ち上がったと記憶してますが、
『U・ボート』などで知られるドイツ人監督ウォルフガング・ペーターゼンがメガホンをとりました。
日本はじめ、世界各国でそこそこヒットしていたのですが、当初はこの世界が現実になるとは思っていなかったですね。

映画では、細菌とウイルスがゴチャゴチャになって語られているような気がしましたが、
映画の冒頭にもあった通り、ウイルス・パニックとは現実に起こると、とても大変な世界に一変します。

それは人間が活動すればするほど、他人と接触するわけでウイルスが伝播していきます。
この感染拡大スピードは恐ろしいもので、情報化社会が発達し、同時に人々の交友範囲も拡がり、
豊かな生活が形成された現代社会に於いて、ウイルス・パニックは日常生活を破壊するものになります。

映画では、ベトナム戦争時代に米軍が関与したウイルス兵器がアフリカのザイールで暴露し、
多くの人々が犠牲になった結果、集落ごと爆撃することで駆逐した際に血清を開発していて、
以来、約30年間の間、この歴史と血清は米軍の管理下に置かれていたものの、ザイールで野生動物に伝播し、
そのウイルスが密かに生残し続けて、30年もの年月を経てヒトに感染が移行し、すぐにヒト同士の感染に発展します。

アメリカに密輸入されたサルの野生動物をアメリカ国内に輸入し転売されようとしていたところを、
売り先がない現実に、バイヤーが野生に外来種として離してしまったこと、そして自身が感染して、
次々と人々に空気感染させ、感染が拡がるにつれて、ウイルスが変異をしていく脅威を描いています。

まんま、現在の新型コロナウイルスによるコロナ禍を予見しているような内容ですが、
映画ではウイルス・パニックに陥る田舎町の感染者を検査しては隔離しつつ、米軍は事実の隠蔽に
暴走する上官が躍起になる姿を描いているのですが、例え危険な新生物の発見とは言え、
侵された町自体を爆破して、感染拡大を防ごうという発想自体が、あまりにスゴいというか、唖然とさせられる。

昨今のコロナ禍にも共通するものを描いている作品ではありますが、
それをダスティン・ホフマン、レネ・ルッソ、モーガン・フリーマン、ドナルド・サザーランド、ケビン・スペイシーと
豪華キャストで実現させたというのが、また凄い。なかなかこの豪華なキャスティングは実現が難しいだろう。

映画の焦点となるのは、謎の出血熱をもたらすウイルスの感染ルートはどういったものか?と、
ウイルスの変異性の調査、そして宿主となる生物がどこに存在しているのか?といったことになります。

昨今の新型コロナウイルスになると、未だ発生源の検証が行き届いていませんが、
当初は2019年の年末に、武漢の市場で労働者で原因不明の肺炎が流行しているとの報道に始まって、
一時期は実は2019年の夏頃から、武漢のウイルス研究所の近くで流行っていたとの情報もありました。

当初の市場での流行だったことから、野生動物を喫食する習慣から
新規の感染症の流行に至ったのではないかとの推測もあり、本作でも軽く触れられている、
“バイオセーフティ・レベルW”という最大級の警戒を要するエボラ出血熱のような、致死性が極めて高い感染症も、
アフリカで野生動物を殺めて、人が喫食したことから感染が始まったともされており、食習慣として一般化されていない
野生動物の喫食というのは、極めて危険な行為であると認識しているが、どうしても一部の国と地域では止められない。

日本でも、獣肉の喫食という観点では、トリヒナ症という人獣共通感染症があります。
これは野生動物に噛まれたり、野生動物を捕食した家畜を食べるとトリヒナという寄生虫の宿主となり、
寄生された獣肉を加熱不十分な状態で喫食すると、高い確率でトリヒナ症という重篤な感染症を発症します。

そもそもトリヒナ症は、しっかりとしたと畜検査を受けた、と体であれば検査員が目視で
一目瞭然というくらい発見できるとのことですが、これが“ジビエ”みたいなものでは通用しなくなる。

日本では古くから、このトリヒナ症は実はヒグマやツキノワグマを食べる「クマ鍋」が原因食となって、
感染してしまうことが多く確認されており、こういった肉は正式なと畜検査を受けているわけでも、
確実な殺虫ができるように加熱温度を制御された食品というわけでもありません。その他にもトキソプラズマなど、
未だに寄生虫の寄生から感染症というリスクも、実は現代社会でも低いわけではないのですよね。
(一部の肝炎ウイルスの感染も、こういった野生動物の喫食が原因となっている例も少なくありません)

賛否はあると思うが、やはり野生動物との触れ合いや喫食というのは、
取り返しのつかない大きなリスクを伴うことであるという認識は、人類が持つべき共通項なのかもしれない。

あまり想像したくはありませんが、新型コロナウイルスも収束後に
また違う未知のウイルスがヒト―ヒト感染を起こして世界的パンデミックに至る可能性もあるわけです。
そういう意味でも、感染経路に応じた対策の速達的な実行体制と、防疫への継続的な投資は必要でしょうね。

映画でも、しれっと語られていますが、飼い切れないと判断された密輸されたサルを
田舎町の森で放つシーンがあるのですが、あれはあれで正に現代社会でも問題になっている、
無責任な行為だ。外来種として、自然の生態系を破壊する脅威として、絶対にやってはいけない行為なのです。
それはウイルス学的にも、外来種が未知のウイルスを持ち込む可能性があるわけで、とても危険な行為なのです。

ウォルフガング・ペーターゼンはそういった社会的なメッセージをこめたわけではありませんが、
当時のハリウッドのパニック映画としても、生物的危害を描いた作品もそう多くはなかったので、
当時としては珍しいというか、実に鋭い視点を持ったディレクターだったのだと思いますね。

ちなみに全てのウイルスに当てはまるわけではないが...
ウイルスに一般特性からすると、やはり乾燥がした環境は大敵なのです。感染力が飛躍的に高くなります。
この映画でも描かれているのですが、空調のダクトを介してウイルスが他の部屋へ伝播することは、
数多くのウイルス感染事例があり、新型コロナウイルスの件でも「ダイアモンド・プリンセス号」で話題となりました。

空調を集中管理しているのは良いのですが、ウイルスの感染経路になり易いです。
日本でもかつて、ノロウイルスの感染が宿泊客の吐しゃ物が乾燥してウイルスが浮遊し、
ホテルの空調を介して、複数の部屋などの空間にウイルスが及び、感染が一気に拡がった事例がありました。

しっかりと映画の中でも、この空気感染の恐ろしさについて描かれているのは、感心しましたね。

映画は地味なアプローチで描かれていますが、派手な演出をほとんど排して、
感染症対策の専門家である主人公の地道な調査や、爆撃の妨害行為などをスリリングに描いていて好感が持てる。
この辺はウォルフガング・ペーターゼンの演出が実に堅実なもので、この映画にとっては良かったと思いますね。

ウォルフガング・ペーターゼンは97年の『エアフォース・ワン』が賛否両論であっただけに、
あまり規模の大きな派手なアクションを描くことは、彼の作風に合わないような気もしますねぇ・・・。

昨今の時勢にタイムリーなテーマでもあるので尚更、ということもあるけど...
サスペンス映画としての見応えはなかなかのものだし、ドナルド・サザーランドが元気に悪役に徹していて、
映画の根幹はとてもしっかりした作品だと思います。ダスティン・ホフマンとレネ・ルッソが元夫婦という設定は
少々、無理矢理だったようにも感じますが、“年の差夫婦”ということで理解すればいいのでしょうね。

まぁ・・・リドリー・スコットが本作を監督していたら、
もっとショッキングかつグロテスクな描写のある、全く別な調子の映画になっていたでしょうね。
それはそれで観たかった気もしますが、それでも本作くらいで丁度良かったのかもしれません。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ウォルフガング・ペーターゼン
製作 ウォルフガング・ペーターゼン
   アーノルド・コペルソン
   ゲイル・カッツ
脚本 ローレンス・ドゥウォレット
   ロバート・ロイ・プール
撮影 ミヒャエル・バルハウス
編集 ウィリアム・ホイ
   リンジー・クリングマン
   スティーブン・E・リフキン
   ニール・トラヴィス
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ダスティン・ホフマン
   レネ・ルッソ
   モーガン・フリーマン
   ドナルド・サザーランド
   ケビン・スペイシー
   キューバ・グッディングJr
   パトリック・デンプシー
   ゼイクス・モカエ
   マリック・ボーウェンズ

1995年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞