タイムリミット(2003年アメリカ)

Out Of Time

つまらない...とは言わないけど、どうしてもこういう映画は87年の『追いつめられて』と比較してしまうなぁ。
『追いつめられて』は国家的陰謀を描いていましたが、本作は個人が起こした事件がモデルでスケールは小さい。

物語の舞台はマイアミの小さな島で、この島の警察署の署長が学生時代の同級生と
不倫関係にあって、自分は本土で刑事として活躍する妻から離婚の申し立てを受けていて、生活が荒んでいる。
そんな中で、不倫相手の女性から、粗暴な夫との生活に悩む中、自身が末期がんに冒されていることを告げられる。
生命保険の受取人についての相談を受ける中で、同情的になり越えてはならない一線を越えようとしてしまう。

そして、とある事件が発生し、その捜査を任される中で署長は自分が被疑者としてマークされていくことを恐れ、
次々とあらゆる工作活動の先手を打っていきますが、捜査協力をする妻にも隠し切れなくなっていきます。

随分と物語はスピーディーに展開していくのですが、どうもあんまりシックリ来なかったなぁ。
監督のカール・フランクリンは『青いドレスの女』でもデンゼル・ワシントンを主演に起用していましたが、
ハッキリ言って、本作の警察署長にデンゼル・ワシントンのキャストはあんまり合っていない気がしましたね。
それが決め手になるとまでは言わずとも、映画にとってキャスティングって、スゴく大事だなぁとあらためて実感した。

そりゃ、デンゼル・ワシントンは実力ある俳優なので、それなりの仕事はしてますけど、
この映画のデンゼル・ワシントンは肝が据わり過ぎというか、慌てたり焦りが無さ過ぎて、緊張感が伝わらない。
彼が画策する妨害が上手くいき過ぎて、言葉悪く言えば、都合の良過ぎるストーリー展開には見えるかもしれません。

ハラハラドキドキという展開はあるにはあるけど、全てが単発的でつながりが無いのは寂しい。
もっと工夫して描こうとすれば出来たと思うのですが、「ここでのエピソードは終わり。はい、次!」みたいな感じで
映画の作り手も刹那的に綴ってしまっているように見えてしまう。クライマックスの対決も、雑過ぎるように見えたし。

どう考えても、この主人公が置かれた状況は“不利”でかなりの窮地だ。
現実的に考えれば、いくら離婚を迫られて関係が悪化しているとは言え、刑事である妻に全てを正直に
打ち明けた方が状況を打破することに苦労しなさそうなのですが、それでは映画にならないということで(笑)、
色々と先手を打って捜査を妨害していって、自分に疑惑の目が向けられないようにはするのですが、
それでも彼は止めきれず、次第に自分自身が被疑者になっていくことを実感し、最後は彼なりの勝負にでるわけです。

でも、その全てが手際が良過ぎて、映画の緊張感がイマイチ盛り上がってこなかったのは致命的だ。
この手の映画は、次から次へと自分が不利な状況に追い込まれていき、なんとかギリギリのところで切り抜けるという、
そのスリルを楽しむしかないタイプの映画なはずなのですが、本作はその辺をもっと盛り上げられたはずなのですがね。

そして、女性陣のキャスティングとしても、主人公が離婚を迫られている妻にエヴァ・メンデスで
不倫相手の女性がサナ・レイサンということになっているのですが、これも正直言って、逆が良かったのでは・・・?

本作でもエヴァ・メンデスの沸き立つような魅力が全開の存在感なので、
関係が悪化している妻を演じさせるよりも、危険な関係を断ち切れない不倫相手の方が合っていたと感じる。
01年の『トレーニング・デイ』に続いてのデンゼル・ワシントンとの共演でしたが、2人のコンビは合っていましたしね。

それにしても、いくら同情したからとは言え、不倫相手に警察署で預かっていた多額の現金(証拠品)を
どうせ必要になるのは数年後だと言って、業務上横領にあたる行為をするなんて、トンデモない警察署長だ(笑)。
それをデンゼル・ワシントンが演じるのですから、この頃のデンゼル・ワシントンは悪役やダークな役柄を
敢えてチョイスしていたような気がしますね。ハリウッドを代表する好漢というイメージから脱却したかったのかも。

映画としては、イタズラにドンデン返しを連続させるような展開にするのではなく、
主人公の警察署長がシンプルに追い詰められて、それをどうかわすかにこだわったのは良かったですね。
この類いの映画で、「実はこうでした」とか言い訳がましい展開を何度も連続させることもあるのですが、
そうなってしまうと映画が一気に崩れてしまうような気がして、「なんでもあり」の映画になってしまいますからねぇ。

映画はハッキリ言って、身から出た錆を描いた映画だ。主人公の不倫が全ての原因であるのは間違いない。
欲を言えば、映画の最初っから警察署長が妻と別居状態という前提からスタートしているので、もう少し妻との不和を
しっかりと描いた方が良かったかもしれませんね。結局は、この妻が映画のキー・ポイントにもなっているのでね。

そういう意味では、映画の序盤は“前振り”が結構長くてダラダラやってしまっているので、
執拗に署長の不倫を描くよりも、妻との不和をもっとフォーカスするとか、主人公の生活環境を描いても良かったかな。
その方が妻が直感的に「おかしい」と勘付く瞬間や、映画の後半でレストラン行くシーンも利いてきたと思うのですよね。

そして、この不倫のエピソードがあまりに主人公の行動が大胆過ぎて、驚きを禁じ得ない。
いくら不倫相手の旦那が不在であることが分かっていたからとは言え、堂々と家に上がり込むのもそうですが、
その不倫相手の主治医による診察に同席するなど、通常では考えられない行動に出ているあたりが脇が甘い。
しかも、小さな島が舞台となっているわけですから、いくらなんでも警戒心の薄すぎる行動にビックリですわ。

思わず、2人は不倫関係にあることに全く後ろめたさを感じていないのかと勘ぐってしまったほど。
映画の冒頭に、署長が不倫相手の家から通報が来て、訪れるシーンなんてほとんどギャグみたいなやり取りだし。

多少なりとも脚本の問題もあったのかもしれないけど、個人的には安易にそこに帰結したくはないので、
ある程度のことは監督のカール・フランクリンがもう少し工夫して、なんとかして欲しかったなぁというのが本音。
クドいようですが、妻役のエヴァ・メンデスなんかは勿体ないくらいの見せ場が少なかったと思うんですよね。
もっとインパクトのある役柄を演じられただろうし、むしろ彼女の方がファム・ファタールな雰囲気を出せたと思うし。

僕もあまり知らなかったのだけれども、フロリダ半島の南端部には“フロリダ・キーズ”と呼ばれる、
小さな島が数多く並んでいるのですよね。総延長で290kmにも及ぶというから、結構広大な島々だ。
その中で有名なのがキーラーゴ島で、かつてハンフリー・ボガートの名画で有名になった島ではあるのですが、
1938年に開通した“オーバーシーズ・ハイウェイ”で、最南端にあたる小都市キーウェストまでつながっている。
ひたすら島々をつなぐ橋を渡ったり、リゾート地の風景が続くようですが、一度走ってみたい道路ですね。
本作の舞台となる島も、そんな“フロリダ・キーズ”の一つの島のようで、独特な空気が漂う画面を味わえる。

そこは本作の良かったところだとは思うのですが、やっぱりデンゼル・ワシントンが似合わない(苦笑)。
就業中も酒を飲むほど生活が荒れているという設定ですが、それがまた余計に似合わない感じだ。
こういう人間のダークサイドを表現したかった時期なのでしょうけど、もう一つ“なり切れない”部分を感じましたね。

映画の後半にある、ホテルでの攻防なんかは面白く撮れているとは思うのですが、
前述したように、クライマックスの対決が突然、雑に描かれているように見えて、最後は不発で終わるのが勿体ない。
勿論、展開は大筋で納得できるものではあるのですが、すぐに銃撃に頼るのではなくって、暗闇という状況を活かして、
もっとお互いにどこにいるのか分からない中での対決シーンの緊張感を、良い意味で引っ張って欲しかったなぁ。

僕にはどちらかと言えば、ホテルでの攻防のシーン演出の方が力が入っているように見えてしまいましたからね。

カール・フランクリンは本作の頃までは監督として映画を撮っていたのですが、
どちらかと言えば、テレビ業界に活動の場を移したようで、あまり積極的に映画を撮らなくなってしまいましたね。
テレビドラマの演出を手掛けているようですが、あまりヒット作を手掛けることができなかったからなのかな?

まぁ、この主人公はハッキリ言って、自業自得な感じがするので仕方ない部分もあるのですが、
そうなだけに映画のラストのあり方は、この映画で描かれた内容からでは、この収束に説得力が無いかな。
そもそも状況証拠だけでは、主人公が不利な状況だったし、これだけのイザコザがあれば収束は容易じゃないはず。

色々と細かい部分で、もう少し丁寧に描けていれば印象は変わったであろうと思えるだけに勿体ない。
デンゼル・ワシントン主演作で、ここまでB級感あるのも珍しいけど、これは撮りようによってこうはならなかったと思う。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 カール・フランクリン
製作 ジェシー・ビートン
   ニール・H・モリッツ
脚本 デイブ・コラード
撮影 テオ・ヴァン・デ・サンデ
音楽 クレーム・レヴェル
出演 デンゼル・ワシントン
   エヴァ・メンデス
   サナ・レイサン
   ディーン・ケイン
   ジョン・ビリングスレイ
   テリー・ローリン