アウト・オブ・サイト(1998年アメリカ)

Out Of Sight

この頃、ハリウッドで最も注目されていた映像作家であり、
後に『トラフィック』、『オーシャンズ11』と黄金期を作っていくスティーブン・ソダーバーグが
一気に評価を上げていくキッカケとなったスタイリッシュな編集が光る、ラブ・サスペンス。

原作がエルモア・レナードですので、ウィットに富んだ部分のある映画になっていて、
スティーブン・ソダーバーグの当時の嗜好性と合っていて、オマケと言ってはナンですが...
当時、女優業を本格化させ旬な存在だったジェニファー・ロペスをヒロインにキャスティングできたことが大きかった。

やはり映画にとって、キャスティングってホントに大事だなぁって、こういう映画を観ると実感します。

ジョージ・クルーニーとジェニファー・ロペスという、
当時のハリウッドでも、匂い立つほど濃い2人の組み合わせで、ややもするとミスマッチになりそうな感じですが、
あまりやり過ぎると、映画の方向性がおかしくなってしまうギリギリのところで、上手くバランスがとられている。

この頃のジェニファー・ロペスって、やはり凄いアトラクテイヴですね。
一介のラテン系のシンガーから、モデルや女優をやらないかと声がかかった理由がよく分かります。

正直言って、僕は最初に本作を約17〜18年前に鑑賞したとき、
どうしても本作の“通好み”な作風が好きになれず、編集でどうにかしよう小手先の手法に
走っているような気がして、そういう部分が好きにはなれなかったのですが...
僕も年をとったのか(笑)、長い年月を経て、あらためて鑑賞したら、なんだか魅力的な映画に観えましてねぇ。

やはり観るときのコンディション、年齢によって、映画の観方が変わっているということなのかもしれませんね。

監督のスティーブン・ソダーバーグは、元々注目されてはいましたが、
本作のスタイリッシュさが評価されて、一気に若手有望株としてハリウッドで地位を上げました。
この辺はおそらく彼の狙い通りで、ある意味でマーケティングに長けた作品だったように思います。
(当時の映画産業は今よりもアクティヴで、01年頃をピークにして、その後、緩やかに下降したように思う)

実際、3Dとか新技術を駆使した映画というのは、
ずっと発達し続けているとは思いますが、本作のような派手さのない映画って、
今よりも数多く作られて、当時はミニシアターという存在が地位を確立していたし、
今よりも世界各国の映画が日本にも、数多く配給されてきていたような気がしますね。

脱獄した銀行強盗犯が、美人FBI捜査官と遭遇して彼女を車のトランクに押し込めて、
逃走を図った際に、トランク内で彼女をクドくというストーリー自体がありえないとは思いますが、
そのありえなさをジョージ・クルーニーの魅力で押し切ってしまうのも凄いですね。

言えば、銀行強盗犯ジャックはもう若くはないし、中年オッサン。
対するFBI捜査官カレンは当然、ティーンというわけではないにしろ、ジャックよりは若い。

でも、そんな2人が恋に落ちる。恋に落ちることに理由などなく、
通常だったらいきなりトランクに押し込められて恋に落ちるはずなどないのですが、
偶発的な出会いから、どうあがいても2人は恋に落ちる運命だったということなのでしょう。
ジャックはジャックで、カレンと出会ってからは何をしてもカレンのことを考えてしまうし、
どうやったら再びカレンと会えるかということしか考えていない。それくらい夢中だということ。

カレンはカレンで、周囲から「そんなツラいこと(拉致)があって・・・」と声をかけられながらも、
実はジャックの虜になっていて、仕事でジャックのことを追い、仕事から離れても頭からジャックのことが離れず、
プライベートのことは何一つ手につかない状態。言わば、両想いというやつですが、なかなか上手く交わりません。
何故なら、お互いがFBI捜査官、そして逃亡する脱獄囚という両極の存在だからということでしょう。

しかし、このお互いに虜になったかのように想い合う姿が
なんとも、まるで思春期の男女のような初々しさをも感じさせ、それでいながら駆け引きとしては
アダルティーなニュアンスがあって、とてもナイーブでありながらも大人な雰囲気が実にスリリングだ。

だからこそ、この2人のロマンスは肉体的に結ばれても、完結ではない。
そうであるがゆえに、情熱の夜が明けたら、すぐにお互いに腹の探り合いが始まるのが何とも面白い。

映画の前半では、お互いに微妙な距離感を置いて惹かれ合いながらも、
実際に近づいて、お互いに視認すると、一気に恋愛感情が高ぶっていく様子を
スティーブン・ソダーバーグらしいスタイリッシュさを追求した映像・編集センスを炸裂させ、
なかなか他にはない感覚を持ち合わせた映画になっており、20年経った今も尚、その新鮮さは健在です。

但し、クライマックスのリプリーの邸宅での攻防はチョット物足りない。
リプリーの愛人としてナンシー・アレンが登場してきたのには驚きでしたが(笑)、
もっとスリリングで緊張感あるシーン演出にはして欲しかったなぁと思いますね。その方が映画が引き締まりました。

ジョージ・クルーニーも本作出演当時は、まだ人気TVシリーズ『ER−緊急救命室−』に出演中で
TVドラマ撮影の合間に映画に出演している感じで、多忙を極めていたようですが、
やはり当時はそれだけ人気があり注目される存在でしたし、出演する映画もヒットを連発していました。
本作を観ると、当時それだけの勢いがあったことを象徴しているようで、オーラが漂っていますね(笑)。

やはりファッション・センスも抜群で、着こなしや立ち振る舞い一つ一つに色気がプンプン漂ってます。

ところで、マイケル・キートンとサミュエル・L・ジャクソンがカメオ出演しています。
マイケル・キートンはジェニファー・ロペス演じるカレンのカレシ役で、カレンの父親の女性蔑視的な発言を
聞いている役柄で、サミュエル・L・ジャクソンはラストシーンで「かつて9回脱獄した」と語る囚人役。

お互いにあまり目立ち過ぎない程度の出演と言いたいところですが...
最後のサミュエル・L・ジャクソンはかなりの存在感で(笑)、映画の後日談を想像させる強いインパクトだ。

まぁ・・・エルモア・レナードの世界観が好きな人には、そこそこ再現された映画で満足度が高いのかもしれません。
多少なりともスティーブン・ソダーバーグのテイストも入っていて、作り手の主張のない映画というわけでもありません。

そういう意味でも、これはとっても良く出来た映画でしょう。今でも、一見の価値ありです。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 ダニー・デビート
   マイケル・シャンバーグ
   ステイシー・シェア
原作 エルモア・レナード
脚本 スコット・フランク
撮影 エリオット・デイヴィス
編集 アン・V・コーツ
音楽 クリフ・マルティネス
出演 ジョージ・クルーニー
   ジェニファー・ロペス
   ビング・レイムス
   ドン・チードル
   デニス・ファリーナ
   アルバート・ブルックス
   ナンシー・アレン
   アイザイワ・ワシントン
   キャサリン・キーナー
   スティーブ・ザーン
   ルイス・ガスマン
   ヴィオラ・デイヴィス
   マイケル・キートン
   サミュエル・L・ジャクソン

1998年度アカデミー脚色賞(スコット・フランク) ノミネート
1998年度アカデミー編集賞(アン・V・コーツ) ノミネ−ト
1998年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1998年度全米映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・ソダーバーグ) 受賞
1998年度全米映画批評家協会賞脚本賞(スコット・フランク) 受賞