愛と哀しみの果て(1985年アメリカ)

Out Of Africa

85年度アカデミー作品賞を含む、主要7部門を獲得したアフリカを舞台にした文芸ドラマ。

これは、ほぼほぼ間違いなくシドニー・ポラックの頂点となる監督作品でしょうね。
盟友ロバート・レッドフォードと、当時、ハリウッドで最も勢いのある演技派女優であったメリル・ストリープの顔合わせ。
これで映画がヒットしないわけがないだろうし、このキャスティングだけで注目を浴びることを約束されたようなもの。

でも、実は僕、この映画は何度観ても好きになれないし、賛同できない。
どうしても、チグハグしていて、中ダルみした緩慢な映画に見える。同じストーリーでも、もっと上手く撮れただろう。

言葉悪く言えば、如何にもアカデミー賞が好きそうな映画だと、皮肉の一つでも言いたくなる。
オスカーを獲った映画というのは、相応の凄みがあるとは思うけれども、それでも多くの作品には付加価値がある。
本作にはどういった特徴があるのだろうか...と考えながら観ても、僕にはただ原作をなぞっただけの映画にしか
見えず、デニスとカレンの(本当は)不倫の恋にしても燃え上がるような熱量は感じられず、心動かす力が無い。
そのせいか、映画のラストも全く訴求することなく、実にアッサリと映画が終了してしまい、見応えも無い。

僕はこの映画、実は何度か観ているのですが...
何度観ても、自分の中での感想が変わることはなく、ホントにこれでアカデミー作品賞で良かったのだろうかと、
正直言って、いつも思ってしまう。本作が好きな人もいるとは思うので、そういう人には申し訳ないけど、
僕にはこの映画、シドニー・ポラック以外のディレクターが撮っていれば、映画の出来は全く違うものになっていたと思う。

ハッキリ言って、これでは原作の表層部分をなぞっただけにすぎず、
もっと掘り下げるべきエピソードがいっぱいあったはずなのに、その原作の長さもあってか、
ただただ物語を進めていくことだけに集中してしまったかのような内容で、まったく響くものが感じられない。

アフリカの雄大なロケーションを収めたカメラは悪くないけど、
所々では明らかなセット撮影というのが明白な撮影もあり、オッ!と思ったのはライオンに囲まれたシーンくらい。
(でも、それも突然のスローモーション編集でせっかくの猛獣が迫る迫力が台無しに・・・)

もっと大胆に原作を脚色しても良かったと思う。そもそも映画にするには長過ぎるヴォリュームなのだ。
もっと削るところは削って、カレンが異国の地であるアフリカの雄大な大地でコーヒー栽培をする苦労と、
デニスとカレンの不倫の恋というところだけに要点を絞って描き、二人の恋の駆け引きももっと絞って良かったと思う。

確かに恋愛映画としての側面だけなら、二人の恋の駆け引きに時間を費やした方が
映画が面白くなるとは思うのですが、本作の場合はカレンの移住後の苦労や、“仮面夫婦”のような家庭など、
色々な要素を内包した映画であっただけに、あれやこれやと時間を費やすエピソードが多過ぎたと思うのです。
だからこそ、もっと要点を絞って端的な映画に仕上げないと、結局どこを観て欲しいのか分からない映画になってしまう。

正攻法で撮った文芸ドラマであることは分かるのですが、
シドニー・ポラックが私生活でも仲が良かったというロバート・レッドフォードを主演に据えて映画を撮ると、
例えば73年の『追憶』もそうであったように、どこかチグハグな映画になってしまうことが残念でなりません。
(同じくレッドフォード主演で撮った、72年の『大いなる勇者』は素晴らしい出来の映画なのに!)

映画は植民地支配していたアフリカはケニアでの現実も描いている。
欧州から移住してきた裕福な白人たちはアフリカで事業を起こし、現地の黒人たちを労働者として雇用し、
そこで上げた莫大な収益を自分たちの裕福な生活に費やし、たらふく贅沢三昧の生活をする。

更に映画の冒頭でも描かれたように、女人禁制の施設も堂々と存在しており、
ヒロインのカレンが婚約者を探しに中に入ろうものなら、全員が怪訝な表情を見せ、カレンを外に追い出す。

そのような環境の中で、男たちから「一体何ができるんだ?」という目線で見られていたカレンは
現地で苦労を強いられ、孤立無援ながらもデニスとの恋に支えられながら、事業を成功させようとします。
結局、映画の最後にはそんなカレンの姿に心打たれた男たちが、女人禁制のバーで酒をおごるという
素敵なエピソードがあるくらいなんで、本作の一つの大きなテーマとして、女性の自立ということもあると思います。

こういった時代性の中で独立独歩で事業を開拓して、切り開いていく勇気と行動力は素晴らしいと思う。
おそらく今の時代よりも更に男尊女卑な風当たりが強い時代であっただろうし、経営環境も過酷だったでしょう。

当時の男たちが、どれだけ素直にカレンのような女性に心打たれたかは、
僕には正確なところは分かりませんが、本作のメリル・ストリープの芝居にはそういった説得力はあると思います。
僕はデニスを演じたロバート・レッドフォードのどことなく胡散クサいキャラクターよりは、彼女の方が好感を持てた。
特に梅毒を移されたなどという、デリケートなことを告白する勇気を見せる芝居などは、彼女にしかできなかっただろう。
そう思わせられるぐらい、80年代のハリウッドでメリル・ストリープは飛び抜けた女優さんだったと思います。

この映画は内容が内容なだけに、反発心を抱く人の気持ちが分からないでもない。
ハッキリ言って、支配者であった欧州から見た、植民地であったアフリカということでしかないからだ。
そうなると、どこか支配者の視点からアフリカを描いてしまう。まるで、開発することで彼らの生活が良くなったとも
言わんばかりで、本来であればカレンも気にしていたはずの、彼らが足を踏み入れたことで失われてしまった、
現地の人々の日常を失わせた現実と向き合わずに、一方的な価値観で語ってしまう傾向が目立ってしまう。

デニスにしても、サバンナに行っては狩りをしたり、セスナを操縦したりと、
自由奔放にアフリカでのアウトドア生活を楽しんでいるように見えるが、所詮は侵略者の一人である。
こういう軋轢は解消することはできないとは思うが、文芸ドラマとするならば、もう少し多角的な視点があってもいい。

それができないならば前述したように、ピンポイントに焦点を絞ることだ。
僕にはシドニー・ポラックがそんな器用なことができるディレクターだとは思えなかったから、
最初っから、デニスとカレンの燃え上がるような不倫の恋に焦点を絞った映画にした方が賢明だったと思うのですよね。

そうするには本作が描く二人の恋に、熱量を感じない。そこまで情熱的なものではないと感じてしまうのだ。
それから、デニスとの恋が成就するにつれて、カレンのコーヒー豆栽培が一時的に上手くいき始めるというような
映画全体を動かし始めるような原動力となるものが欲しい。それが無いから、全て単発的なものに見えてしまった。
だから、映画が原作の物語をただなぞっているだけ...というように感じてしまったのかなぁと思いますね。

原作のアイザック・ディネーセンは実在のデンマーク人女性であり、
僕がデンマークに会社の研修で出張したときくらいまでは、紙幣のモデルになっていた人物だ。
おそらく日本でも彼女のファンはいるだろうし、本作は彼女の自伝的小説でほぼ実話であるそうだ。

だからこそ、もっとしっかりと描いて欲しかった。やはり恋愛映画で、熱量の無い恋というのは致命的だ。
現実にこういう恋があったとしても、映画で描かれる恋愛として、これでは説得力を持たない。

散々、冗長に映画を見せていたにも関わらず、あまりに唐突に映画が終わりを迎えますが、
結末が変わらないにしても、もっとマシな“持って行き方”があるだろうと作り手に問いたくなる展開だ。
これではカレンがどうしてデニスに惚れたのか、本当にこの結末がカレンに何かをもたらしたのか、疑問に思える。
観ていて、観客の心を揺さぶる力がないのであれば、映画として成功であったとは言い難いと思うのですよね。

カレンが利害関係が一致したということで結婚したブロア役として、
クラウス・マリア・ブランダウアーが出演していて、本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされていますが、
僕は本作の彼もそこまで良いとは思わなかった。もっとネチネチと意地悪にやって欲しかったが、控え目である。

思わずロバート・レッドフォードより目立ってはいけないと、配慮したのかと邪推してしまった・・・。

(上映時間160分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 シドニー・ポラック
製作 シドニー・ポラック
原作 アイザック・ディネーセン
   ジュディス・サーマン
   エロール・トルゼビンスキー
脚本 カート・リュードック
撮影 デビッド・ワトキン
音楽 ジョン・バリー
出演 メリル・ストリープ
   ロバート・レッドフォード
   クラウス・マリア・ブランダウアー
   マイケル・ガフ
   マイケル・キッチン
   マリック・ボーウェンズ
   スザンナ・ハミルトン
   レイチェル・ケンプソン

1985年度アカデミー作品賞 受賞
1985年度アカデミー主演女優賞(メリル・ストリープ) ノミネート
1985年度アカデミー助演男優賞(クラウス・マリア・ブランダウアー) ノミネート
1985年度アカデミー監督賞(シドニー・ポラック) 受賞
1985年度アカデミー脚色賞(カート・リュードック) 受賞
1985年度アカデミー撮影賞(デビッド・ワトキン) 受賞
1985年度アカデミー作曲賞(ジョン・バリー) 受賞
1985年度アカデミー美術監督・装置賞 受賞
1985年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1985年度アカデミー音響賞 受賞
1985年度アカデミー編集賞 ノミネート
1986年度イギリス・アカデミー賞脚色賞(カート・リュードック) 受賞
1986年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(デビッド・ワトキン) 受賞
1986年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(クラウス・マリア・ブランダウアー) 受賞
1985年度ニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞(デビッド・ワトキン) 受賞
1985年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
1985年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(デビッド・ワトキン) 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(クラウス・マリア・ブランダウアー) 受賞
1985年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ジョン・バリー) 受賞