海街diary(2015年日本)

世界に羽ばたく是枝 裕和が描く、3人娘だけの生活を強いられ、
古い鎌倉の生家に健気に暮らす姿を描いた、劇場公開当時に大ヒットしたヒューマン・ドラマ。

詳しくは知らなかったのですが、2017年に舞台劇にもなっていたんですね。

本作は当時、綾瀬 はるかと長澤 まさみが姉妹として共演していたことも
大きな話題性があってヒットしていたのかなぁくらいにしか思っていなかったのですが、
いざ本編を観てみると、なかなか丁寧に作られていて、如何にも是枝 裕和の映画って感じですが、
実に好感が持てる作りで、相応の見応えがある仕上がりですね。それでいて、日本映画らしさも兼ね備えている。

おそらく、是枝 裕和の映画って、少し洗練されたタッチで家族を描きながらも、
どこか懐かしい古き良き日本映画の風格を兼ね備えているところが、世界的にも評価される所以なのかも。

連載漫画の映画化なので、あまり大胆に脚色できないところがキツい部分かもしれませんが、
正直、「このシーン、必要?」と感じたシーンも無くはなかったのですが(笑)、それでも是枝 裕和自身が
連載漫画を読んで気に入って、「これを映画化したい」と熱望し、自ら脚本を執筆しているだけあって、
少しずつ外堀を埋めるかのように、家族の情景を描いて、映画の世界観を演出していく手法が実に見事だ。
編集の段階で悩んだ部分もあるでしょうが、そのせいか俯瞰的に観ると、少々の無駄はあるかもしれないが、
それでも、これだけの出来の良さなので、これは是枝 裕和が日本映画界に留まらない活躍が期待されることを
予期させられるくらい、示唆に富んだ映画である。これは単なる美人女優勢ぞろいというだけの映画ではありません。

おそらく原作のファンからすると、逆に「あれが無い」、「これが無い」と
不満に感じられる部分はあるのでしょうが、これは映画という2時間程度の尺の長さに収める命題があるので、
ある程度の取捨は仕方がない部分ですので、それは原作と切り離して楽しむしか、僕はないと思っています。
これは別に原作に対するリスペクトがないということではなく、作り手が何を描き、何を表現したいのかということで、
僕はそれが原作者の見解と、映画の内容に大きな相違が無いのであれば、許容されるべきことと思っています。

ただ、物足りない部分としては、一家で暮らす4人姉妹以外の脇役に
あまり魅力的なキャラクターがいないという点だ。特に男性キャストの描き方が粗雑に感じる。

まぁ、見せたいものは姉妹の生活だと思うので、ある程度は仕方ないにしろ、
もっと重要な役どころを与えられる人物が出てきてもいいところだし、例えば姉妹と恋仲になる男性を
登場させて深掘りするなど、もっと重要なポストを与えられるキャストがいた方が、僕は良かったと思う。
これは映画が散漫になることを恐れていたのかもしれないが、別に一家の父親を描くことでも良かったはず。

姉妹の父親については、敢えて一切描かずに、台詞として語らせることで浮かび上がらせようとしたのだろうが、
正直、この映画の言及は弱く、ほぼどんな父親であったのか、その実像が語られていないので少々物足りない。
この辺は原作が補完している部分なのかもしれませんが、敢えて説明しないということに、こだわり過ぎたのかな。

姉妹としては、当時は広瀬 すずが話題になっていたと記憶していますけど、
やっぱり綾瀬 はるかと長澤 まさみは上手かった。この2人は日本の若手女優としても別格と言っていいと思う。
現実にこういう関係性の姉妹がいそうだなぁと思わせられる説得力がありながらも、押しつけがましくない芝居だ。

「実家を守る」という言葉は、あまり最近では聞かない言葉ですけど、
今でもきっと、地方で代々住んできた家を所有している家庭では、根付いているところもあると思います。
日本は諸外国以上のスピードで、猛烈に少子高齢化社会へと突き進んでおり、こういう家も維持しづらくなっています。
この映画でも語られていますが、「いずれはみんな嫁に出てしまうんだから」と樹木 希林が言っていましたけど、
いろんな理由で家を維持することが経済的にも家庭環境的にも難しくなっていくのだから、仕方ないのかもしれません。

それでも是枝 裕和は、敢えてそういった感覚を持つ若い女性を主人公に据えて、映画を撮りました。
まぁ・・・やはり古き日本の家庭像を、敢えて現代社会に吹き込むことにこだわった感が強い作品ですね。

また、これは鎌倉という地域性をフルに活かした映画という感じで好感が持てる。
僕も一度、京浜急行に乗って新逗子へ行って、逗子界隈を散策し、鎌倉へ移動して鶴岡八幡宮に訪問し、
由比ヶ浜を歩いて、江ノ電に乗って藤沢へ移動したことがありますが、あの辺はとっても良い雰囲気でした。
時期的に生シラスは食べられなかったけれども、釜上げしらすも美味しいし、しらすトーストも美味しかった。

個人的にはこういう地域の空気を大切にした映画というのが大好きで、実際に行きたくなってしまいます。

鎌倉は東京からも、そう遠くはないし、実際に通勤している人も多くいるようですが、
そんな都会の喧騒を忘れさせるくらい、のどかな空気感のある地域で、どこか時間がゆったり流れているようだ。
そういう意味では、こういった内容の映画のロケーションとして絶好の場所という感じがしますねぇ。

普通に考えれば、末っ子のすずの立場はかなり難しい。ましてや10代という難しい年頃だ。
突然、一緒に暮らしていた父が病死し、山形の郷里での生活に難しさを感じ、年上の母親違いの3人の姉から
鎌倉での共同生活の提案を受けて、是非行きたいと懇願したものの、やはり家庭環境としては難しい。
そんな中で新しい生活に順応しようとするのだから、彼女にとってはスゴく勇気のいる選択であったはず。

そんな彼女の決断をフォローするかのように、鎌倉の風はどこか優しく、緩やかである。
こういった感覚は都心ではなかなか出せない感覚でしょうし、これぞ“是枝ワールド”全開って感じがする。

映画の中では、特に大きな事件が起こるわけでも、ド派手な演出があるわけでも、
センセーショナルなストーリー展開があるわけでもない。映っているのは、4姉妹の日常の風景だけだ。
それでも2時間を超える上映時間、冗長に感じさせる瞬間が皆無なのは、ホントにスゴいことだと思います。
それだけ、自分の波長に合った作品ということなのかもしれませんが、タイトル通り、誰かの日記を読んでいる感覚だ。

映画の視点としては、4姉妹の誰かに肩入れした感じではないので、
誰が主人公であるのかを判断するのは難しいが、やはり綾瀬 はるか演じる長女がメインなのかな。
その割りに映画のスタートは、長澤 まさみ演じる次女のエピソードからスタートするのだけれども。

しかし、一家のキー・マンはこの次女でしょう。気が強く、長女とよくケンカするものの、
大事なところでは協力し合う。どこか男勝りな性格のところもありますが、所々に脆さも感じる部分がある。
この次女が良い意味で調整弁になっていることは明らかで、映画のストーリー上もキー・マンである。
特に、気の進む仕事ではなかっただろうが、食堂のオバちゃんと銀行員として接するシーンは、どこか切ない。

彼女が精神的に強くなっていくごとに、家族の絆も深まるのだろうなと実感させられます。

長女は長女で、家族の大黒柱のような役割を担っていますが、恋愛という意味では悩みを抱えている。
おそらく将来の安定というものを、最も強く求めている性格なのでしょうが、そうは向かっていない現実が
なんとも切なく、現実の難しさを感じさせますが、彼女こそホントは親の存在を渇望しているはずなのですよね。

この辺は原作でどうなっているのかは分かりませんが、
どこか頼りない母親を演じた大竹 しのぶとの対立的な関係が、長女の中でずっと尾を引いているのでしょう。
映画はこの親子関係については言及が弱いのですが、2人をつなぎ留めるアイテムとして梅酒が使われます。

梅酒を漬けるという文化がなんとも微笑ましいですが、映画の中で実に良い存在感を示している。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 是枝 裕和
製作 石原 隆
   都築 伸一郎
   市川 南
   依田 翼
原作 吉田 秋生
脚本 是枝 裕和
撮影 瀧本 幹也
美術 三ツ松 けい子
編集 是枝 裕和
音楽 菅野 よう子
出演 綾瀬 はるか
   長澤 まさみ
   夏帆
   広瀬 すず
   加瀬 亮
   鈴木 亮平
   池田 貴史
   坂口 健太郎
   前田 旺志郎
   キムラ 緑子
   風吹 ジュン
   堤 真一
   リリー・フランキー
   樹木 希林
   大竹 しのぶ