オルカ(1977年アメリカ・イタリア合作)

Orca

75年にスピルバーグが人食い鮫の恐怖を描いて、
世界中の映画ファンの度肝を抜きましたが、今度は知能の高いシャチが復讐心に燃えて、
人を襲うパニックと恐怖を描いた、如何にも70年代らしい海洋パニック・サスペンス。

監督は『80日間世界一周』を撮ったマイケル・アンダーソンで、
一部ではスピルバーグの『JAWS/ジョーズ』の二番煎じという批判もあったそうですが、
僕には毛色が異なる映画に見えたせいか、あまり『JAWS/ジョーズ』の二番煎じという印象は無かったかなぁ。

それより、ある意味では同じ立場でお互いに対決をするという、
シャチにも明らかに人間的な意思があって、対決が成立しているかのような構図であり、
凄まじいまでの復讐合戦に発展し、最終的にはある種のカタルシスを感じさせる演出なのはさすがだ。

結局、これが本作と他の動物パニック映画との大きな違いだと思いますね。
それまでは得体の知れない野生動物が人間たちを闇雲に襲ってくる恐怖を描いていたのに対し、
本作ではまるでシャチを擬人化して、家族愛から復讐していることを明確にしているのが新鮮な設定で、
映画を最後まで観終わって強く感じることではあるのですが、悲壮感すら漂わせるラストにつながっていて、
明らかに他の動物パニック映画とは一線を画す作りになっており、これこそが本作の大きな特徴なのです。

ネックなのは、やはりマイケル・アンダーソンの描写が雑なことだろう。
ほとんどが力技で切り抜けようとするせいか、どうも映画が全体的に荒っぽい印象を受ける。
そしてリチャード・ハリス演じるノーラン船長に、女性海洋生物学者レイチェルが語るという設定になるせいか、
何故か映画は急激にドキュメンタリー・タッチに変わっていき、その演出の意図がよく分からない。

これはもっと一貫したストーリーテリングを採った方が良かったと思う。
映画の最初は確かにレイチェルのナレーションを使っていましたが、途中からはノーラン船長が主体になり、
そしてクライマックスに至るまでは、やはりレイチェルによるナレーションで物語が進んでいくイメージだ。
これは映画の視点として、どっちつかずの散漫になってしまう印象しか残さず、まったくもっと失敗だと思いますね。

とは言え、日本ではどうやら1977年暮れの正月映画として拡大公開されたらしく、
鳴り物入りで劇場公開となっただけに、いざ劇場公開が始まると、評論家のウケは最悪で酷評され、
予想外なほどの不入りで、興行収入面でも散々たる成績だったらしいのですが、
僕が観た印象としては、酷評するほど酷い出来の映画という感じはしないんですがねぇ〜。

相変わらず、この時期のシャーロット・ランプリングは妙に色っぽいですな(笑)。
おそらく北極海に近い海域に到達して、ボロい船の客室内だから寒いはずなのですが、
何故か薄着だったりするのですが、寒空で活動していたリチャード・ハリスに「暖めてあげる」なんて言って、
添い寝までするというサービスぶりで(笑)、おそらく当時の映画ファンの多くが嫉妬したことでしょう(笑)。

さすがに『さらば愛しき女よ』のシャーロット・ランプリングほどではありませんが、
この映画でも妙に色っぽい部分があって、氷山に逃げ込むシーンでも凄いオシャレに見える(笑)。

こういう現実性の欠片もないシャーロット・ランプリングの女優魂ですが(笑)、
何度でも言いますが、それでもこの時代のシャーロット・ランプリングは妙に脳裏に焼き付きます。

どうでもいいけど、ノーラン船長が映画の途中からビクビクと怖がり始めるのが印象的でしたね。
演じるリチャード・ハリスも映画の前半から強気で血気盛んな調子で芝居をするものですから、
ずっと如何にも“海の男”みたいな感じで、言わば『JAWS/ジョーズ』のロバート・ショーのように、
映画の最後まで演じ切るのかと思いきや、執拗な復讐心を燃やして何度もアタックしてくるシャチとの対決を
自ら「望まない」と公言して、表情に不安さを見せるというのは、個人的には逆に新鮮に見えたかもしれません。

まぁこの役作りこそが、『JAWS/ジョーズ』のロバート・ショーと印象が被るのを
本作の作り手は嫌って、敢えてノーラン船長の人間臭さを演出しようとしたのかもしれませんがね。

この映画の美術的なこだわりには思わず驚かされましたね。
おそらく当時としては、最高水準のシャチの造形だったと思うんですよね。
特に冒頭にあるシャチの捕獲シーンで、捕獲に至るまでの必死の抵抗と、船のスクリューに巻き込まれる描写、
そしてボー・デレクの叫び声の通り、あまりに衝撃的なメスのシャチが赤ん坊を産み落とすシーンも凄い。

映像的なインパクトだけで、本作の全てを語るつもりは毛頭ありませんが、
正直言って、この映画のシャチに関する描写の一つ一つには驚かされたことは否定できません。
ほとんどがミニチュアを作成しての撮影でしょうが、これは驚くべきスタッフの苦労があったのではないでしょうか。

ある種、この映画は西部劇のような性格を持っていて、
何故か物語の舞台となる島の現地人ウミラクを、先住民という設定でウィル・サンプソンが配役され、
主演のリチャード・ハリス自身も、まるで西部のならず者であるかのように演じています。
また、島の漁師たちはどちらかと言えば、閉鎖的な考え方を持っていて、メスのシャチを殺害して、
オスのシャチから復讐の対象とされているノーランに対して、島の漁師たちは彼を敢えて突き放します。

シャチと対決する気がないノーランを「弱虫!」と非難し、
漁場から魚がいなくなってしまったことから、ノーランにシャチと対決するよう仕向けます。
個人的には本作のこういう部分って、ユニークで面白いなぁと思いますけどね・・・。

この映画では、前述したシャチに関する描写も含めて、
とにかく感覚的に“痛くて”、残酷な描写が幾度となく登場してきます。
まだ初々しいボー・デレク演じるノーラン船長の仲間の一人である、若い女性にしても最後はトンデモないことに
なってしまい、思わず目を背けたくなりますが、これは『JAWS/ジョーズ』の亜流と言われても、仕方ないかな。

惜しむらくは、映画のエンド・クレジットであまりに場違いな主題歌が流れることで(笑)、
どうやらこの主題歌は、以前はカットされていたらしいのですが、最近、DVD化されたソフトでは、
再度、復活させたらしいのですが、好きな人には申し訳ないのですが...これは完全な場違いな感じだ(笑)。

まぁこれを失敗作と言ってしまっては、あまりに勿体ない気がします。
存在的には、既にマニアックなカルト・フィルムの一本なのかもしれませんが、
動物を擬人化させて描いたサスペンス映画として、忘れては欲しくない一本ですね。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マイケル・アンダーソン
製作 ルチアーノ・ヴェンチェンツォーニ
脚本 ルチアーノ・ヴェンチェンツォーニ
    セルジオ・ドナティ
撮影 テッド・ムーア
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 リチャード・ハリス
    シャーロット・ランプリング
    ウィル・サンプソン
    ボー・デレク
    キーナン・ウィン
    ロバート・キャラダイン
    スコット・ウォーカー
    ピーター・フートン