オンリー・ユー(1994年アメリカ)

Only You

ゴメンなさい...もう、この映画は個人的感情のみでしか語れません(苦笑)。

92年、彗星の如く『いとこのビニー』でコメディエンヌとしての魅力を発揮し、
いきなりアカデミー助演女優賞を獲得したマリサ・トメイが満を持してラブコメのヒロインに抜擢されました。
そりゃ確かに本作の前年に『忘れられない人』でもヒロインを演じてはおりましたが、
スタッフ総出でとにかく彼女をプッシュしようと一丸になったのは、本作が最初でしょう(笑)。

監督は名匠ノーマン・ジュイソン。
思えば87年に『月の輝く夜に』を撮った名匠は、かつてはいろんなジャンルに手を付けていただけあって、
とにかく映画のツボを押さえている。本作なんかも、意外に計算高く、巧妙な映画だと思う。

明るく元気に健康的で奔放な女性像を体現できるマリサ・トメイが、
ようやっと彼女の適役とも言える役をゲットし、堂々、次世代の“ラブコメの女王”として君臨するはずでした...。

いや、これが商業的に成功しなかったせいか...
僕は当時からずっと彼女を応援していたつもりですが、ここから伸び悩んでしまい、
当然、“ラブコメの女王”にはならず、01年の『イン・ザ・ベッドルーム』でシリアスな役に挑戦するまで、
ほとんど大きな話題となることはありませんでした。そうなだけに、本作は余計に感慨深い作品です。

勘違いしてはいけません、あくまで本作はマリサ・トメイを観るための作品です(笑)。
というわけで、申し訳ありませんが、ストーリーの細かいところへのツッコミは避けることとします。

もう、僕なら例えヒロインがどんなに自分勝手でも、どんなにワガママ言い放題でも、
どんなに強引な手段に出ても、どんなに理想ばかりを追い求めていても、ヒロインがマリサ・トメイなら許します。
いや、冗談抜きで、本作の場合はそれぐらいの意気込みで観ないと、最大限に楽しめませんって(笑)。

現実的に考えて、いくら幼い頃にゲームと占いで“デイモン・ブラッドリー”という人物が
結ばれる相手だと言われたからといって、婚約を破棄してまで、義理の姉や現地人を巻き込んでまで、
ヴェニスからローマと“デイモン・ブラッドリー”を追いかける女性が、今の日本にどれぐらいいるでしょうか?
実際にこんなことをやっていたら、おそらく周囲からいろんな意味で心配されるでしょう。

でも、そんな奇異な行動をもアッサリとやってのけてしまうのがマリサ・トメイなんです。
それでも違和感なく押し通してしまえるわけですから、これが本作の大きな武器であることは否めません。

でも、これだけ魅力的なヒロインを立てられたことは、
ロマンチック・コメディ映画としては、ひじょうに大きな“武器”だと思うんですよね。
そういう意味では、マリサ・トメイに依存している部分はありますけど、相手役のロバート・ダウニーJrも
私生活でスキャンダルを抱える前の出演作ではありますが、まずまずの好印象ですね。

これだけのキャスティングを見事に活かしたのは監督のノーマン・ジュイソンですからねぇ。
やっぱり、この人、ベテランとしてのキャリアからも分かるように、器用なディレクターなんですね。

下手をすると、お寒い内容になりかねない内容であることは否定できないのですが、
こういった難しい部分も、いとも簡単にギリギリのラインで救ってしまうあたりも巧いとしか言いようがない。

まぁただ・・・冷静に考えれば、これほど理不尽な映画はないですね(苦笑)。
だって、いくら幼少の頃から「運命の人」と言われていた名前の人物が目の前に現れて、
結婚式直前にようやっと、その「運命の人」と親しくなったからといって、
結果的にヒロインは結婚式直前に“浮気”してしまうわけですからね。
これをハッピーエンドと言っていいのか、悪いのか、僕にはよく分かりません(苦笑)。

でも、こういった部分で変に道徳的であったり、倫理的にならないのは、
逆に考えると、本作の良さなのかもしれませんね。道徳的であったり、倫理的であったりするならば、
映画の終盤で辻褄合わせが必要になったり、説教臭い内容になっていたかもしれませんからね。

劇中、ロバート・ダウニーJr演じる靴屋はさすがにファッションに敏感なだけあって、
ヒロインを“立てる”方向へ動き続けるから、ナンダカンダで女性にモテるんでしょうね(笑)。
映画の中盤で、ホテルで必死にヒロインがオシャレに格闘しているシーンで、
ヒロインが欲しいものを次から次へと当てて、ドア越しに渡していくシーンなんかも印象的だ。

ロマンチック・コメディとして、ロマンスに偏り過ぎず、コメディに偏り過ぎず、
お互いのバランスを程よく調整し、軽妙さを上手く活かせたのはひじょうに大きいですね。
(こういう点も監督のノーマン・ジュイソンの器用さを象徴していますね)

いずれにしても、僕の中では本作でヒロインの座をゲットし、
90年代後半は順調にラブコメの女王と化し、00年代から人気女優として演技派女優へ転身し、
00年代後半にはハリウッドを代表する女優さんになっているだろうと思いきや、
残念ながらスクリーンで輝く彼女を観れるのは、本作で一旦の区切りが付いたような感じがします。

勿論、00年代以降も頑張ってはいるし、最近は特に評価が上がっているようには思いますが、
もっともっと大きなスター女優になる素質があったはずと思えるだけに、少し残念かな。。。

そういう意味では、彼女が本来的に目指していた女優像が違ったのかもしれませんね。
まだまだ活躍を期待している女優さんの一人なだけに、もう一回、本作みたいなのを観たいですね。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ノーマン・ジュイソン
製作 ノーマン・ジュイソン
    ケイリー・ウッズ
    ロバート・N・フリード
    チャールズ・マルヴェヒル
脚本 ダイアナ・ドレイク
撮影 スヴェン・ニクビスト
音楽 レイチェル・ポートマン
出演 マリサ・トメイ
    ロバート・ダウニーJr
    ボニー・ハント
    ホアキン・デ・アルメイダ
    フィッシャー・スティーブンス
    ビリー・ゼーン