ストーカー(2002年アメリカ)

One Hour Photo

格安スーパーマーケット内に構える写真ショップの店員が、
自分の憧れる幸せな家族に目を付け、次第に常軌を逸した行動にではじめ、
やがてはトンデモない事件へと発展してしまう様子を描いたサスペンス・ドラマ。

本作は劇場公開当時から言われていたことですが、
まずはこの『ストーカー』という邦題は、どうにかならなかったのかと問いたい。

確かにそんなニュアンスも匂わせる内容ではあるのですが、
本質的には別にストーキングを描くことに目的があったわけではなく、
理想を手に入れるために、自分を見失い、理性を失った男の悲しいドラマなわけで、
こういったタイトルを付けてしまうと、多くの人々を勘違いさせてしまうのではないだろうか。

僕も最初は、この映画の狙いがよく分からなくって戸惑っていたのですが、
映画の主人公サイの行動は確かにストーキングに当たるのかもしれませんが、
一見すると、一家の妻ニーナにストーキングしているのかと思いきや、理想の家庭の一員に
息子ジェイクの伯父として加わりたかったんですね。その思いは、理想的な家族を欲していることが原点であり、
そんな理想の一家を実現させるにあたり、邪魔になっているものは何かと考え、常軌を逸してしまいます。

まぁ異常行動でも、ニーナやジェイクに危害を加えるような精神状態ではなかったと思われますが、
ニーナの夫に強制した常軌を逸した行動は恐ろしく、何が目的か分からぬ不可解さが怖い。

監督のマーク・ロマネクはPV[プロモーション・ビデオ]を中心に活動していましたから、
映画を監督した経験はほとんどありませんが、そこまで変な演出といったわけでもありません。
むしろ実質的に初めて規模の大きな映画を手掛けた割りには、ひじょうに良く出来ています。

大きく歯車が狂ってしまい、サイが高級ホテルで犯行に及んだクライマックスの攻防なんかは、
実に落ち着いたタッチでいながらも、画面に緊張感があり、グイグイ観客を力強く引っ張っていきます。
それでいながらダラダラ映画を続けるわけでもなく、ひじょうにタイトに良くまとまっています。
これは、そうそう容易い仕事ではなかったと思うんですよね。下手に撮れば、大失敗していた可能性もある。

今でも以前ほどの数はありませんが、DPE店って残っているし、
おそらくこれからしばらくの間、ネガを必要とするフィルムカメラを使用する人はいるでしょう。
デジカメって、確かにキレイな画質をすぐに確認でき、加工も簡単で、たくさん撮れるんだけど、
やっぱりフィルムカメラって独特な味わいがあって、デジカメでそれはでないんですよねぇ。
僕はカメラの趣味はありませんけど、その独特な味わいって、何となく感じるんですよね。

一般家庭で、なかなかフィルム現像までできる人は少ないでしょうから、
これからもDPE店のニーズって、少ないながらも根強く残っていくものと思われます。

ただ、かつては普通だったDPE店も、よくよく考えれば写真の中身を他人に見られるという意味で、
チョット気味悪い部分はありますね(苦笑)。見ようと思えば、いくらだって見られるでしょうしね。
思わず、今までホントにトラブルはなかったのだろうかと勘ぐってしまいたくなりましたね。

当時、ロビン・ウィリアムスが本格的に悪役に挑戦したとのことで、
本作は話題になっておりましたが、02年の『インソムニア』の方が悪役としては魅力があったかな。
本作でのサイ役は悪漢というよりも、物悲しさが残る役柄で、場合によっては観客の同情を誘うかも。
個人的にはもっとサイコパスなキャラクターを造詣して欲しかったし、同情の余地がないぐらいの、
悪どさや精神的な錯乱を表現して欲しかったと思いますね。申し訳ないけど、これでは中途半端です。

『グラディエーター』にヒロインとして出演した、
デンマーク出身のコニー・ニールセンがニーナ役で出演していますが、彼女が良かったですね。

夫との不和から、浪費癖が出てきたり、夫の浮気癖に不安を感じ、
愛する息子ジェイクとの今後の生活に不安を抱いたり、複雑な設定も難なくこなしている。
そんな彼女たちにサイが不気味に接するのですが、ここが惜しいんですよね。
この程度の不気味さでストーカーと言ってしまうには、若干の弱さがあることは否定できません。
(勿論、覗き見なんかをしており、写真のコピーを家に貼り付けるあたりは、完全なストーカー行為だけど・・・)

映画の中盤でサイは修繕業者とのトラブルを公然と見せてしまったこと、
会計が一致しないこと、昼休みの時間を守らないことを理由に、クビになってしまいますが、
解雇されたことへの恨みから、陰湿ないやがらせに走るという展開も活かしても良かったですね。

かつてデ・ニーロが執念深くサイコパスを演じた『ケープ・フィアー』や、
何もかもが上手くいかなくなり、完全に破綻してしまった中年サラリーマンをマイケル・ダグラスが怪演した、
『フォーリング・ダウン』など、数多くの映画で常軌を逸した中年男の執念が描かれてきましたが、
本作が勿体ないところは、サイの描写の甘さで、もっと徹底したものがあった方が良かったですね。

やはり子供から同情をかうようなキャラクターでは、やはり映画として弱さを持つ原因になっていますね。

さりとて、要所でしっかりとした映画にはなっており、
つまらないミステイクをしていないあたりには、好感が持てる内容にはなっています。
今後のマーク・ロマネクの創作活動にも期待できる作品であることは、間違いないようです。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーク・ロマネク
製作 パメラ・コフラー
    クリスティーン・ヴェイコン
    スタン・ブロドコウスキー
脚本 マーク・ロマネク
撮影 ジェフ・クローネンウェス
編集 ジェフリー・フォード
音楽 ラインホルト・ハイル
    ジョニー・クリメック
出演 ロビン・ウィリアムス
    コニー・ニールセン
    マイケル・ヴァルタン
    ディラン・スミス
    エリック・ラ・サル
    エリン・ダニエルズ