カッコーの巣の上で(1975年アメリカ)

One Flew Over The Cuckoo's Nest

まず、この映画のDVDの裏パッケージに一言言いたい。

「感動のラストシーンが印象的」...

確かに人によって、感じ方はそれぞれだし、確かに僕もこのラストには心を突き動かされたけれども、
ただ・・・僕はこのラスト、かなり衝撃的で初めて観た時は、ショックという言葉の方が適切だったと思う。
今となってはこういった類型的な構図は少なくなったためか、よりショッキングな内容として捉えられると思う。

75年度のアカデミー賞で作品賞を含む主要5部門を獲得した不朽の名作なのですが、
本作での熱演によってジャック・ニコルソンがハリウッドを代表する名優の仲間入りを果たしたと言えます。

映画は主人公のマクマーフィが刑務所の強制労働から逃れるため、
精神疾患を装って精神病院に入院するシーンから始まります。
画面に映るマクマーフィは精神を病んでいるというより、社会不適応者といった具合で問題児だ。

数日、入院して異常なし診断されれば強制労働は逃れられると踏んでいたマクマーフィでしたが、
半ば患者を人間扱いしない強烈な管理体制を敷く病院の姿勢に愕然とします。
患者たちは毎日のように同じ日課を強いられ、訳の分かんない薬を飲ませられている。
挙句、大好きな野球中継を聞くことを取り合ってもらえなかったマクマーフィは反抗の態度を示すことを決意、
そんなマクマーフィのことを病院は問題視し、過激な治療を施すようになる・・・。

危険分子を手段選ばず排除しようとする、強烈な管理体制を痛切に批判した作品ではあるのですが、
故国チェコから亡命した過去を持つミロシュ・フォアマンらしく反骨精神溢れる素晴らしい名画です。

マクマーフィが最初に看護婦長に明確な反抗的態度を示したシーンとして、
野球中継を聞けない不満を露にして消えたテレビの前に座って、
架空の野球中継を始め、周囲の患者たちが次々と寄ってきて、やがては映ってないテレビを眺めて、
マクマーフィの架空の実況を聞いて、大歓声を上げ始めるシーンは素晴らしいですね。
僕はこの映画の中で、このシーンが大好きだ。このシーンがあるからこそ、傑作と呼べます。

まぁクライマックスでビビットの悲劇の描写にはあまり感心しませんでしたけど、
それでもエピソードそのものとしては、映画にとって必要なものだったとして理解はできます。

そもそもこの映画は舞台劇としてヒットしたケン・キージー原作の作品なのですが、
舞台でマクマーフィを演じたカーク・ダグラスが映画化の権利を持っていたそうで、
当時、テレビ俳優として活躍していた彼の息子マイケル・ダグラスにその権利を譲った結果、
スタッフはアメリカン・ニューシネマを支えた面々で固められ、結果として全世界的なヒットとなります。

まぁカーク・ダグラスの舞台版がどうだったかは分かりませんが、
本作でマクマーフィを演じたジャック・ニコルソンは観客をも圧倒する素晴らしい名演ですね。

この映画の中では大きな議論を呼ぶところだとは思うのですが、
このマクマーフィはホントに精神疾患を装っていたのか、その真相はよく分かりません。
もっとも、管理者である病院から見れば、マクマーフィのような社会不適応者も
治療を必要とする患者なのかもしれませんが、だからと言って、荒療治に出る発想が凄い。

特に映画も後半に差し掛かると、反抗的なマクマーフィは電気ショック療法を受けたりして、
肉体的かつ精神的にかなりの苦痛を強いられますが、これは彼にとって大きなターニング・ポイントですね。

事実、マクマーフィは知り合いのガールフレンドの手を借りて脱出しようとしますが、
チョットのつもりで女性の一人にビビットの相手をさせてる間に飲んだ酒のせいで、酔い潰れてします。
このシークエンスは色々な解釈ができるとは思うのですが、酒を飲んだときの彼の表情を意味ありげに映します。
これはマクマーフィが既に通常とは違った体調であったことを示唆していますね。
極端に言えば、アッという間に酔い潰れてしまうほど、彼はショック療法によって体が弱っていたのです。
それゆえ、彼は脱出に失敗します。それだけでなく、彼は大きな代償を払うはめになってしまいます。

この映画でセンセーショナルなものとして描かれているのは、ロボトミー手術だ。
現在は生命倫理学的な観点から、精神外科的アプローチの代表であるロボトミー手術は禁止されたけど、
一時期はかなり斬新な医療行為として臨床データが数多くとられ、実際、日本でも数多くの実例がある。

具体的には脳の前頭葉切除をすることによって、反応を遅くさせることが目的で、
かなり気性が荒い粗暴な振る舞いの絶えない人に有効とされていたそうなのですが、
実際にこの映画で描かれたような廃人同様になってしまう症例が数多く出て、死者も出ている。
このリスクと治療効果を疑問視する論調が一気に高まり、現在は禁止されているとは言え、これは衝撃的だ。
正に「臭い物には蓋をしてしまえ」とはよく言ったもので、多少、この辺はステレオタイプに描かれている。

タイトルからして、ノホホンとしたヒューマン・ドラマと思って観たら、ガツン!とやられます。
それぐらいのパワーは持っている、実に力強い作品と言っていいと思います。

決して明るい気持ちになれる類いの映画ではありませんが、
いろんな意味で一度、観ておいた方がいい映画だと思いますね。
ラストの“インディアン”の行動には、飛び抜けた力強さと、至上のカタルシスを感じます。

そこから続く無音のエンド・クレジットもまた凄く良い。ここで見事に激動の映画の余韻を作っている。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ミロシュ・フォアマン
製作 ソウル・ゼインツ
    マイケル・ダグラス
原作 ケン・キージー
脚本 ローレンス・ホーベン
    ボー・ゴールドマン
撮影 ハスケル・ウェクスラー
    ビル・バトラー
音楽 ジャック・ニッチェ
出演 ジャック・ニコルソン
    ルイーズ・フレッチャー
    マイケル・ベリーマン
    ブラッド・ドゥーリフ
    ウィル・サンプソン
    クリストファー・ロイド
    ダニー・デビート
    スキャットマン・クローザス

1975年度アカデミー作品賞 受賞
1975年度アカデミー主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1975年度アカデミー主演女優賞(ルイーズ・フレッチャー) 受賞
1975年度アカデミー助演男優賞(ブラッド・ドゥーリフ) ノミネート
1975年度アカデミー監督賞(ミロシュ・フォアマン) 受賞
1975年度アカデミー脚色賞(ローレンス・ホーベン、ボー・ゴールドマン) 受賞
1975年度アカデミー撮影賞(ハスケル・ウェクスラー、ビル・バトラー) ノミネート
1975年度アカデミー作曲賞(ジャック・ニッチェ) ノミネート
1975年度アカデミー編集賞 ノミネート
1975年度全米脚本家組合賞脚色賞<ドラマ部門>(ローレンス・ホーベン、ボー・ゴールドマン) 受賞
1975年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ルイーズ・フレッチャー) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ブラッド・ドゥーリフ) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞監督賞(ミロシュ・フォアマン) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1975年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1975年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(ジャック・ニコルソン) 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(ルイーズ・フレッチャー) 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ミロシュ・フォアマン) 受賞
1975年度ゴールデン・フローブ賞脚本賞(ローレンス・ホーベン、ボー・ゴールドマン) 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞新人男優賞(ブラッド・ドゥーリフ) 受賞