素晴らしき日(1996年アメリカ)

One Fine Day

ニューヨークでキャリアウーマンとして働くシングルマザーと、
大手新聞社のコラムニストとして働くバツイチ男が、それぞれ自身の子供を面倒をみることになった、
お互いに忙しい、しかもとても重要な一日をなんとかして切り抜けようと奮闘する姿を描いたコメディ・ドラマ。

監督は91年の『ソープディッシュ』のマイケル・ホフマンで、
実に手堅くも、ソツの無い演出で、映画はとても安定感があって、出来がとても良いですね。
日本ではあまり知名度が高いディレクターではありませんが、本作での仕事ぶりはホントに素晴らしいと思う。

シングルマザーのメラニーは建築デザイン会社でキャリアウーマンとして働いていて、
重要なクライアントの担当者となる案件を勝ち取るために、社長へのプレゼンを行う重要な一日。
一方、大手新聞社のコラムニストとして働くバツイチ男ジャックは、自身のコラムでニューヨーク市長の
スキャンダルを糾弾した結果、市長から徹底否定され、新聞社内で矢面に立たされており、
街をかけずり、自らの威信を賭けてスクープの正しさを証明しなければならない忙しい一日。

そんな一日に2人は、保育園の遠足に預けて、ハードな一日に勤しむ予定だったのですが、
忙しない朝の影響を受けて、ギリギリのところで遠足の出発に間に合わず、
子供の面倒をどうやって看ようかと悩んでいたところで、お互いに協力し合うことになります。

この映画の成功の大きな秘訣はキャスティングそのもので、
ヒロインを演じたミシェル・ファイファーがどことなく映画の主導権を握っている感じなのですが、
それでも当時、TVシリーズ『ER −緊急救命室−』でブレイクしていたジョージ・クルーニーが
映画出演を活発化させていた頃の出演作であり、それにしては健闘していると思いますね。

主演2人の息がとてもピッタリで、特に映画の前半で2人がいがみ合いながら、
なんとかしてお互いの子供の面倒を看る方法を探すシークエンスでのコンビネーションは抜群で、
特に映画の前半に於いては、映画のテンポの良さ、リズム感を出すのに一役かっていますね。

個人的にはミシェル・ファイファー演じるメラニーの一人息子が、
やたらと彼女の足を引っ張るので、子供が大人の思い通りに行動してくれないもどかしさばかり、
劇中で強調されるがために、個人的にはあまりこの映画に良い印象が無かったのですが、
次第に子供にフォーカスするよりも、メラニーとジョージ・クルーニー演じるジャックがお互いにいがみ合いながらも、
次第に距離を縮めていくという過程を、1日という制約のある時間内で描くというスタンスに感心してしまいましたね。

ある意味では、古き良きハリウッド映画を想起させられるぐらい、
ハートウォーミングな展開ではあるのですが、上手く現代的な感覚に焼き直されている部分はあって、
携帯電話のとり違いやら、キャリアウーマンが子育てと両立させる難しさを描いたりと、
往年のハリウッド映画には無いファクターが描かれていて、さり気なく新しい空気は取り入れているんですよね。

おそらくジャック演じたジョージ・クルーニーは、
これから映画スターとしての評価を上げようとしていたはずで、その意気込みの強さでしょうか、
ほとんどの時間出ずっぱりで、持ち味を生かしながらも奮闘していますね。
(仮にこの映画が50年代に製作されていたとしたら、彼の役はクラーク・ゲーブルだったのでは?)

まぁ・・・さすがに本作のジョージ・クルーニーが、
往年のクラーク・ゲーブルに匹敵するとまでは言えませんが、初期の出演作としてはとっても良い仕事だと思う。

このキャスティングの良さも含めて、本作はマイケル・ホフマンの手腕の高さを感じますね。
ホントにこの映画は、忙しい一日をドタバタとする様子を描いただけなのですが、
得てして、こういう映画は散漫になりがちなので、そう容易い企画ではなかったのではないかと思います。

一切の無駄を許さない、ピンホイントによくまとめられた作品になっておりますし、
おそらく脚本の出来もかなり良いんでしょうね。マイケル・ホフマンは、環境に恵まれた面はありますが、
この映画での仕事ぶりは、もっと高く評価されても良かったような気がしますねぇ。

クライマックスでの、何とも言えない後味の良さは、往年のハリウッド映画であったテイストで、
本作が日本をはじめ、本国アメリカでもそこまでヒットしなかったというのが、不思議でならないですね。
マイケル・ホフマンって、意外にキャリアが長い人ではあるのですが、おそらく現時点でのベストワークでしょうし。
内容的にも安心して観れる内容だし、映画の後味は良いものだし、比較的、万人ウケすると思うんだけどなぁ〜。

あくまで、個人的な意見ではあるのですが...
女優ミシェル・ファイファーとしては、この頃が一番、良い時代だったと思う(笑)。
確かに80年代後半から数多くの映画に出演しておりましたが、この頃、一番、女優として輝いていた。
当時、ピープル誌の「世界で最も美しい女性100人」の常連ではありましたが、本作での芝居の質、存在感、
どれを取っても、最も勢いがあった頃で、できればこの頃にオスカーを取れる出演作があれば・・・と思いますね。
(ちなみにミシェル・ファイファーは未だにオスカーに関しては、無冠の女優の一人なのです・・・)

ちなみにプロデューサーのリンダ・オブストは93年に『めぐり逢えたら』をヒットさせた女性プロデューサー。
恋愛映画を数多くプロデュースしていますが、91年に『フィッシャー・キング』を製作していたり、
意外にレンジが広いプロデューサーなんですねぇ。確かに本作なんかも、女性の恋愛観が強く反映された作品で、
どちらかと言えば、男性よりも女性ウケし易い映画という位置づけの方が、適切かもしれませんね。

映画は“ケンカするほど、仲が良い”を地でいったような内容です。
好きな人ほど、意地悪したくなるという感じで、顔を会わせれば素直になれない姿を
大人も楽しめるロマンスに仕上げていますが、やはり窓越しに見せたメラニーの息子の表情が良い。

個人的には、映画の作り手がもう少し子供の描き方が上手ければ・・・という、
惜しい気持ちもありますが、このシーンを見せられたときに、それまでの粗を許容したくなったほど。
ある意味で、そのツボをしっかりと押さえられたことだけで、ある意味では作り手の勝利なのかもしれない。

いずれにしても、もう少し注目してあげて欲しいなぁ・・・と思えてならない、
ひじょうに丁寧に作られた、質の高い作品なだけに、この不遇の扱いは実に勿体ない。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マイケル・ホフマン
製作 リンダ・オブスト
脚本 テレル・セルツァー
    エレン・サイモン
撮影 オリバー・ステイプルトン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ミシェル・ファイファー
    ジョージ・クルーニー
    メイ・ホイットマン
    アレックス・D・リンツ
    チャールズ・ダーニング
    エレン・グリーン
    シーラ・ケリー
    アマンダ・ピート

1996年度アカデミー主題歌賞 ノミネート