素晴らしき日(1996年アメリカ)

One Fine Day

大都会ニューヨークで働く男女が、それぞれ別れた妻や夫との子どもを課外授業に預けるはずが
船に乗り遅れてしまったがために、それぞれ仕事しながら子どもの面倒を看ることになって、
お互いに反目しながらも、徐々に大人の男女としての距離を縮めていく姿を描いたハートフル・コメディ。

監督は91年の『ソープディッシュ』などで知られるマイケル・ホフマンで、本作は手堅い出来と言っていいと思う。

主演に当時、大ヒットしていたTVドラマ『ER −緊急救命室−』で大ブレイクし、
映画スターとしてのキャリアもスタートさせつつあったジョージ・クルーニーで、確かにシビれるカッコ良さだ。
ヒロイン役としてミシェル・ファイファーという、なんとも贅沢なキャスティングで映画は実にウェルメイドな仕上がりだ。

ほぼほぼジョージ・クルーニーとミシェル・ファイファー、それと子役たちの活躍で成り立っているのですが、
それでも映画全体としての雰囲気作りや、映画の流れをストップさせない流麗な構成を維持させながらも、
古き良きハリウッド映画の懐の深さや、味わいを感じさせる作りになっていて、もっとヒットしても良かったと思う。

映画の流れをストップさせないというのは、この手の映画としては大事なことであって、
それは勿論、映画のテンポやスピード感にもつながると思うのですが、たくさんの出来事が詰め込まれた一日の
目の回るような展開を表現することに寄与していて、これだけ一貫した徹底ぶりは、そうそう多くありません。

シナリオ自体が良いということもあるのでしょうけど、それ以上にこのスピード感を演出できたのは
やはりマイケル・ホフマンの全体を構成する力のおかげでしょう。おそらく、本作は彼の現時点での最高の出来だろう。

基本はコミカルな映画ではありますが、本作は密かに片親が子どもを育てることの難しさを描いている。
日本でも久しく待機児童のことが話題となったり、女性が働きやすい社会を創出するという観点からも、
子育てと働くことの両立が如何に難しいかということが、社会的に浮き彫りになり、様々な問題に直面しています。
実際問題として、子どもを預けるといっても当然お金がかかるし、預ける施設が潤沢にあるわけではありません。

しかも、本作でも描かれていますが、環境が悪いところもあったりして、
どこでもいいというわけでもない。その一方で、働いていたり、子育てに煮詰まってしまったりして、
短時間でも面倒を看てもらえる環境があることで助けられる親もたくさんいる。僕はそこに正解など、ないと思う。

特にミシェル・ファイファー演じるヒロインが、施設でいじめられたり、父親がいないことで見せる、
チョットした孤独の表情を見て苦悩する姿が印象的で、一人が子どもを育てながら仕事をする、ということは
あまりに課せられた現実が過酷で重たいものだなぁと実感する。サポートできる環境が整えられればいいのだけど・・・。

ただ、強いて言えば...やっぱりこの2人が恋に落ちる過程は弱いかなぁ。
ジョージ・クルーニーは彼の持ち味というのがあるにしろ、最初っからヒロインに色目を使ってる感じだし、
それでもツンケンした態度でヒロインじゃ接し続けるわけで、次第にジョージ・クルーニーも彼女に苛立ちを覚える。
少々気まずいことがあったとは言え、ヒロインが何故に彼に気を遣っちゃうのかも分かりにくく、説得力が弱いかな。

これは本作にとっては大事なところだったと思うので、もう少し丁寧には描いて欲しかったところだ。
マイケル・ホフマンもどちらかと言えば、本作では慌ただしい一日が目まぐるしい過ぎていく表現に注力している。
これはよく描けていて感心したのですが、やはり大人のロマンスを描いた作品なだけに、ここは大切にして欲しかった。

ましてやジョージ・クルーニーとミシェル・ファイファー、当時のハリウッドでも抜群なキャスティングであり、
この2人の共演ともなれば共にバツイチでいながらも、徐々にお互いの距離を近づける大人の恋を期待したけど、
その距離を近づける過程があまり描かれておらず、結果としてかなり強引な展開に見えてしまったのが少々残念。

そのせいか、ラスト10分間でヒロインのアパートを訪れるシーンは賛否が分かれるところかもしれない。
それまでのストーリー展開としては、大人のロマンスまでは肉薄しないのか思いきや、最後に一気に引き寄せる。
しかし、僕にはどうしてもこのラストが蛇足に見えて仕方がなかった。正直、サッカーの試合終了後にお別れの方が
まだキレイに映画を終わらせられたと思う。確かに、この映画のラストシーンも少しひねくれたところがあるのだけど、
それでも、どこか消化不良なまま終わってしまい、それまでの映画のテンポの良さがここで一気に失われてしまう。

決して致命的なほど酷いシーンというわけではないのですが、この2人がお互いに距離を縮めて、
お互いに男女として意識する決定的なことがあって、お互いに“余裕”を持ったロマンスとして表現する。
それが本作のセオリーであったとも思うし、無理にアパートに押し掛けるようなシーンもいらなかったのではないかと。

ここが本作に僕の中では満点という感じにはならなかった部分でして、ホントに惜しい作品だという印象。

まぁ、ジョージ・クルーニーも最初っから下心満載な男とは言え、自然体な感じもして良いですね。
本作のハイライト・シーンでもある、ジョージ・クルーニーがミシェル・ファイファーを抱き上げるシーンも
ベタではありますが、実に良いシルエットですね。やっぱりこういうシーンがある映画は強いなぁと実感させられます。

マイケル・ホフマンも、あと一押しが出来ずに、ラストを上手くまとめられなかっただけに傑作にし損ねた印象です。
しかし、まぁ・・・それでも本作は価値ある一作だと思いますよ。幼い子供がいれば、大人の都合では動けなくなる。
とは言え、大人としてはそれを言い訳になんでも許されるわけではない、という難しさを抱えつつ生活している。

幸せな家族を築きたいという気持ちは誰だって一緒だし、子どもを無事に育て上げる責任がある。
一方で収入を得るためには会社への貢献が求められ、当時の男性社会で生き抜くための胆力が必要になる。

しかし、本作のヒロインだって、いつも強いキャリアウーマンとして振る舞えるかと言われると、
決してそうではなく、弱音を吐きたくなるときだってあるけど、そんな姿を見せることは彼女のプライドが許さない。
そうなってしまうと、彼女は彼女で孤独に闘わなければならなくなります。そんな生真面目な性格とは対照的に、
ジョージ・クルーニー演じる男が、軽いタッチで近づいてくるものだから、余計に彼女の怒りを買ってしまうというわけです。

好きとか嫌いとか、言う前にこういう構図は日本社会でも多くあることだと思います。
でも、個人的には思うのは、やっぱりストレスフルな社会であるがゆえに、精神的に頑張り過ぎちゃうことは
僕はあまりオススメできない。勿論、頑張らなきゃいけないって時はあるものです。職務上のチャンスもピンチもある。

でも、常に気を張って頑張り続けることほど、精神的や肉体的にしんどいことはないし、
正直言って、「ああしたい、こうしたい」という仕事の想いが強過ぎると、良い結果を得られないことが多い印象ですね。
自分自身の健康を害することにもつながるし、周囲にもあまり良い影響を与えない結果にもなりかねないですしね。

本作のヒロインの表情にも、そんな苦悩の部分をチョットしたところで見せているのが印象的ですね。

通俗的に言えば、完璧主義やこだわりが強い性格の人は陥り易いところだとは思いますが、
性格的にも自分でそれに気付くことが難しいだろうし、本作のヒロインがそんなことに気付くキッカケとなったのは、
子どもの面倒を看るという同じ悩みを抱えている、軽いタッチの男との出会いだったということなのかもしれません。

ひたすらヤンチャ坊主で、ママの服を汚したり、鼻の穴にビー球を突っ込んで病院の世話になったりと、
色々とやらかしてくれましたけど、それでもヒロインが冷静な気持ちを持って、気持ちを持ち直して柔軟になったのは、
そんな息子の笑顔が後押ししてくれたというエピソードも、なんとも微笑ましい。そして、その想いをぶつけた
ビジネス・パートナーも彼女の気持ちを受け止め、「気に入った」と言ってくれる、そんな寛容さが嬉しくなっちゃう。

現代社会は、何かと意見をぶつけ易い環境が出来上がったというのは良い部分でもありますが、
一方でSNSなどネット・リテラシーが社会問題化しており、相手に配慮した物言いをする、とか相手の立場を汲むとか、
そういったことよりも、如何に相手にまくし立てて物言うかとか、相手を言い負かすかがポイントになっている気がする。

何でもかんでも対立構造を作るのが好きな人が増えた印象もあるし、
ミスや怠慢を叱責されるのは仕方ないとしても、度が過ぎるものも多く、社会全体の寛容さが失われた気がします。
これはこれで時代の変化で、コンプライアンスの側面などで良い部分もあるのだろうから、仕方ない部分でもあるけど。

ただ、もう少し共助というか、健全な意味で相互に理解するということがあってもいいと思うんだよなぁ。
なんでもかんでも自分の意を通すために、他人を下げるみたいな風潮があるのは、今後危惧していることですね。

最後のあの経営者の反応を見て、何故かいろんなことに考え巡らせてしまいました・・・(苦笑)。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マイケル・ホフマン
製作 リンダ・オブスト
脚本 テレル・セルツァー
   エレン・サイモン
撮影 オリバー・ステイプルトン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ミシェル・ファイファー
   ジョージ・クルーニー
   メイ・ホイットマン
   アレックス・D・リンツ
   チャールズ・ダーニング
   エレン・グリーン
   シーラ・ケリー
   アマンダ・ピート

1996年度アカデミー主題歌賞 ノミネート