ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984年アメリカ)

Once Upon A Time In America

うーーーーむ...長い。実に長い映画だ。
3時間48分、現在、市場で流通している本作の完全版の上映時間だ。

実は初見時、あまり記憶が定かではないのですが、あまり印象が良くなかった作品でした。
ところが、今回、この完全版を観て、全く本作に対する印象が様変わりしてしまったようです。
ひょっとしたら、僕が初見時に観たのは3時間強のオリジナル版だったのかもしれません。

イタリア出身の巨匠セルジオ・レオーネが晩年、巨額の製作費を投じて完成した本作は、
あまりに長い上映時間のため、かなり大胆な編集が為されて完成にこぎつけたようです。
元来、長過ぎる映画はズルいと主張してマイナス要素として考えてきた僕ですが、
本作はこの長さでこそ、初めて魅力を出します。おそらくチョットでも編集すれば、訳が分からないだろう。
これはこれでまとまった映画なのですよね、複数の時制を上手く制御して巧みに構成しています。

残念ながら本作はセルジオ・レオーネの遺作となってしまいましたが、
実に多くの議論を呼ぶ、ミステリアスな作品でもあります。
解釈は自由ですが、ラスト・ショットのヌードルスの笑顔が全てを物語っています。

この映画、途中から仲間に加わった銀行員の妻が語った、
「死ぬよりマシよ」という台詞に集約されているような気がするんですよね。
少なくとも、この台詞、ヌードルスは同調していただろうし、彼はもっと仲間と共に生きたかったはずだ。
だからこそ常に殺されないように生きてきたわけで、人生の危ない橋を渡る気など、毛頭無かったはずだ。

だからこそマックスの連邦準備銀行襲撃の計画には賛同できなかったのです。

もっと仲間と生きたかったからこそ、彼は様々な思いを巡らせます。
楽しかった日々、そして明るい未来です。だからこそ彼は苦痛を嫌い、快楽に走ります。

映画はアヘン窟で恍惚に浸るヌードルスに始まり、
やはりアヘンを吸い、定まらない視線をウロウロさせながら、ニヤッと笑うヌードルスに終わります。
少年時代のヤンチャな頃、禁酒法で大儲けした頃、マックスがヤバい方向へと動き出した頃、
アヘン窟を訪れた頃、そして老境にさしかかった頃と複数の時制が複雑に絡み合って構成され、
観客に想像の余地を与えながらも、当然、作り手として答えを持っている映画です。

ヤンチャな少年時代とは言え、街の少年犯罪を牛耳るバグジーの縄張りを荒らし、
禁酒法を逆手に取った裏商売で儲けていたヌードルスはじめとする少年グループ。
あくまで映画は彼らを中心に映すのですが、バグジーを怒らせてしまったがために、
グループの年少格ドミニクを射殺されたことに怒り、ヌードルスはバグジーを殺してしまう。

当然のように長い懲役刑を喰らいヌードルスが出所する頃には、
残されたグループのリーダー格マックスを中心に禁酒法下の夜のニューヨークで荒稼ぎをしていた。
ナイト・クラブ経営、葬儀屋経営、そして請負強盗などで多額の利益を得ていた彼らでしたが、
当然のように彼らを恨む連中が、彼らの命を狙ったり、対立関係が明確になったりします。

やがてマックスは自暴自棄になるように連邦準備銀行襲撃をヌードルスらに持ちかけ、
強引に無謀な計画を実行に移そうと準備を進めるものの、ヌードルスは何とかしてマックスを止めようとします。

一方で、映画のサイド・ストーリーとして進んでいくのは30年後、
隠居生活から、久しぶりにニューヨークに戻ってきたヌードルスが仲間の墓を探訪する姿です。
彼が久しぶりにニューヨークを訪れたのは、スキャンダルが噂されるベイリー商務長官の邸宅で開かれる、
高級官僚や財界人が招かれるパーティへの招待状が届いたためでした。
ヌードルスは何故、自分がこのパーティへの招待状が届いたのか、よく分からなかったのです・・・。

やや懲り過ぎた感はありますが、時制をバラバラに羅列させて映画を構成し、
意図的にフラッシュ・バックを多用していますが、その全てが伏線であったことに観終わってから気づく。

ただ、敢えて注文を付ければ、出所して間もない頃のヌードルスをデ・ニーロが演じたのは違和感があった。
撮影当時、既に彼は40代にさしかかっていたのですが、正直言って、別の役者を立てても良かったと思う。
(まぁそんなことを言ったら、彼が演じるのは老年期しか無くなってしまうのですが。。。)

さすがに僕が今まで観た映画の中で、本作の完全版が最長ですね(笑)。
しかもさすがにここまで集中力と体力が続かないせいか、1回に一気に観ることができません(笑)。
でも、不思議とその長さもラストシーンのヌードルスの笑みを観ると、許せてしまう気がします。
このミステリーにこそ本作の価値があるわけで、これは映画史に残る名ラストシーンと言ってもいい。

それから女の子向けにクリームケーキを買ってきて、家の玄関の前で待たされていた少年が、
空腹のあまり、思わず包装をめくってクリームを舐め始め、やがては我慢し切れずケーキにかぶりつき、
最終的に全て完食してしまうシーンがありますが、これもまた僕の中では大好きなシーンの一つ。

過激な描写があったりして、決してセンチな映画ではないけど、こういった可愛らしさもあります。

これほどまでに観る人によって、多種多様な解釈が生まれる作品も珍しいだけに、
長い映画だからと敬遠せずに、できるだけ多くの方々に観て頂きたい一本。

(上映時間204分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 セルジオ・レオーネ
製作 アーノン・ミルチャン
原作 ハリー・グレイ
脚本 レオナルド・ベンヴェヌーチ
    ピエロ・デ・ベルナルディ
    セルジオ・レオーネ
撮影 トニーノ・デリ・コリ
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 ロバート・デ・ニーロ
    ジェームズ・ウッズ
    エリザベス・マクガバン
    ジェニファー・コネリー
    ダーラン・フリューゲル
    トリート・ウィリアムズ
    チューズデー・ウェルド
    バート・ヤング
    ジョー・ペシ
    ウィリアム・フォーサイス
    スコット・タイラー
    ラスティ・ジェイコブス
    ダニー・アイエロ

1984年度ロサンゼルス映画批評家協会賞音楽賞(エンニオ・モリコーネ) 受賞
1984年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(エンニオ・モリコーネ) 受賞
1984年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞 受賞