波止場(1954年アメリカ)

On The Waterfront

54年度のアカデミー賞で最多8部門を獲得した不朽の名作。

波止場における荷物降ろしの業務につく低所得労働者たちを一括して牛耳り、
更に業務によって発生する莫大な利益を独占するボスは、各職場管理者に高額なリベートを与え、
自身の影響力がしっかりと末端労働者に及ぶように職場を支配し管理していた。

汚職にまみれた体質の波止場を告発しようものなら、彼らは手段を選ばない。
かつて数多くの密告者が現れようとしたが、全て彼らは抹殺し、証拠も隠滅してきた。

そんなボスがスカウトし、波止場で働いていた主人公のテリーは元ボクサーの荒くれ者。
しかし本質的にテリーは正直者で、純粋な心を持つ素直な若者だ。
ただ彼は兄のチャーリーがボスの片腕と呼ばれる実力者だったため、逆らえないでいる。
しかし、テリーが殺人の片棒を担がされたために、次第にボスへの反抗心を強めていく・・・。

この映画は社会の変革が問われていた1950年代アメリカの社会を投影した、
もっと大袈裟な言い方をすれば当時の民主主義の本質を捉えた社会派映画として高く評価されました。

僕も実際、この映画を観て強く感心したのは、かなり挑戦的な内容の映画であるにも関わらず、
エリア・カザンの主張がとても骨太で強いものになっていることで、これは彼の一貫したスタイルになっている。
残念ながら、この後、エリア・カザンは私生活でもこういった骨太な姿勢を出して、それが仇となってしまい、
ハリウッドの共産主義者を裁判で証言しハリウッドを追放されてしまいますが(いわゆる“赤狩り”)、
本作を観るに、映画監督としての手腕はかなり高いものであることは紛れも無い事実である。

彼の作風を舞台劇風として評価しない人もいるけど、
彼やマイク・ニコルズのようなタイプの映像作家は、一概に舞台劇特有の嫌味を出す人ではないと思う。

勿論、全ての作品がそんな嫌味を出していないとまでは断言できないが、
本作なんかは嫌味なニュアンスといった次元を超越した、とてつもない力強さが映画の中で活きている。
少なくとも、こういったディレクターとして強い姿勢は昨今の映画界では、ほぼ間違いなく見られない。
どれだけ映画の中で新たな試みをアプローチできていたかという観点においては、
エリア・カザンのような映像作家には昨今の映像作家の多くは、遠く及ばないであろう。

また、主演のマーロン・ブランドもひじょうに良い目をしている。チョット過剰気味な芝居も見られるが、
恋に落ちたエヴァ・マリー・セイント演じるイディとのツーショットのシーンは全て良い感じだと思う。
豪快さの中に彼なりのストイックな雰囲気がよく出ており、彼が如何にカリスマ性溢れる存在だったかが分かる。

同じエリア・カザンの映画としては51年の『欲望という名の電車』以来のコンビで、
『欲望という名の電車』でミッチ役で出演していたカール・マルデンとも再び共演しておりますが、
今回のマーロン・ブランドはどちらかと言えば、好漢役といった具合で、ひじょうに器用なところが出ています。
神父を演じたカール・マルデンも名バイプレイヤーとして、最高の仕事をしていますね。

当時、アクターズ・スタジオを出て俳優として、ハリウッドの若手俳優を代表する存在だったマーロン・ブランドは、
本作での熱演が認められて初のオスカー受賞となります。当時から彼の豪快なスタイルは有名でしたが、
黒人やネイティヴ・アメリカンなどへの人種差別には徹底的に対抗し、公民権運動などには率先して参加します。
ある意味では、そういったスタイルというのは本作でのテリーが彼の生きざま、そのまんまですね。

撮影当時、30歳ぐらいだったマーロン・ブランドですが、
波止場のボスを演じたリー・J・コッブなんかは完全に彼のカリスマ性に押し負けてますもんね。

この映画の製作が進んでいた時期も、アメリカ政府主導によるマッカーシズムは浸透していたわけで、
ハリウッドでもかなり大規模な“赤狩り”が行われることは、誰しも予測可能だったわけだ。
僕はそもそもマッカーシズムが悲劇を生む原因となったと考えておりますので、
証言台でハリウッドの共産主義者を密告したとして、裏切り者扱いされハリウッドを追放になった、
エリア・カザンのような映画人は非難されるべきではないと思っています。
それゆえ、ハリウッド追放となったエリア・カザンのあまりに不遇な扱いには不満を感じます。
それだけでなく、そんな“赤狩り”の予感を感じながらも、本作のような内容の映画を製作するに至った、
当時のエリア・カザンの心境は想像するに、とてもツラいものだっただろうと思う。

それでもこれだけ強い映画を作れるわけなのですから、やっぱり凄い映画監督です。

ちなみにこのマッカーシズムこそが、
今でもショービズの世界に民主党支持者が多いことの原因となっていることは否定できません。

八百長を強いられチャンピオンという名誉を得られず、結局、金に逃げてしまったテリー。
兄に従うがままに、気づけばヤバい商売をする波止場のボスの手下として働いている。
ボスからは監視下に置かれ、テリーと一緒に働く低所得労働者からは煙たい目で見られる。

しかし、そんなテリーが波止場のボスへ反旗を掲げる姿に労働者たちは心を動かされます。
悲しいことに労働者たちもすぐには、テリーに賛同できず、テリーは拷問されてしまいますが、
結果的には労働者たちはテリーの勇気に付いていくことを決心し、悪徳ボスは求心力を失ってしまいます。

そんな密告者を保護するメッセージがこめられた映画をハリウッドは認め、
8部門でオスカー獲得に至ったというのに、文字通り密告者になったエリア・カザンを
事実上のハリウッド追放に追いやってしまうという矛盾が生じることを、当時誰が予想していただろうか?

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 エリア・カザン
製作 サム・スピーゲル
原作 バッド・シュールバーグ
脚本 バッド・シュールバーグ
撮影 ボリス・カウフマン
音楽 レナード・バーンスタイン
出演 マーロン・ブランド
    リー・J・コッブ
    エヴァ・マリー・セイント
    ロッド・スタイガー
    カール・マルデン
    マーチン・バルサム

1954年度アカデミー作品賞 受賞
1954年度アカデミー主演男優賞(マーロン・ブランド) 受賞
1954年度アカデミー助演男優賞(リー・J・コッブ) ノミネート
1954年度アカデミー助演男優賞(カール・マルデン) ノミネート
1954年度アカデミー助演男優賞(ロッド・スタイガー) ノミネート
1954年度アカデミー助演女優賞(エヴァ・マリー・セイント) 受賞
1954年度アカデミー監督賞(エリア・カザン) 受賞
1954年度アカデミーオリジナル脚本賞(バッド・シュールバーグ) 受賞
1954年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(ボリス・カウフアン) 受賞
1954年度アカデミー劇・喜劇映画音楽賞(レナード・バーンスタイン) ノミネート
1954年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門> 受賞
1954年度アカデミー編集賞 受賞
1954年度全米脚本家組合賞脚本賞<ドラマ部門>(バッド・シュールバーグ) 受賞
1954年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1954年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(マーロン・ブランド) 受賞
1954年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(エリア・カザン) 受賞
1954年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(マーロン・ブランド) 受賞
1954年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1954年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(マーロン・ブランド) 受賞
1954年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(エリア・カザン) 受賞
1954年度ゴールデン・グローブ賞撮影賞<白黒部門>(ボリス・カウフマン) 受賞