女王陛下の007(1969年イギリス)

On Her Majesty's Secret Service

国際犯罪組織ブロフェルドがアルプスの山頂に、近代的なバイオ研究施設を作り、
数人の女性に洗脳教育を実施し、バイオテロを起こすことを国連に脅迫する計画を知ったボンドが、
英国諜報局本部の意向を無視し、単身で研究施設の破壊を試みる姿を描いたシリーズ第6弾。

有名な話しではありますが、67年の前作『007は二度死ぬ』まで、
初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーがキャストされておりましたが、
本作では二代目ボンドこと、ジョージ・レーゼンビーに交代するも、彼が撮影スタッフと揉めてしまったがために、
結果として本作だけで終わってしまい、迷走した次作はショーン・コネリーが戻ってくるという騒動になりました。

正直言って、ジェームズ・ボンドと言ったら、
オールドなシリーズのファンにはショーン・コネリーやロジャー・ムーアの印象が強いだろうから、
本作のジョージ・レーゼンビーは影が薄く、作品自体もあまり有名ではない気がするのですが、
本作で初めてシリーズのメガホンを握ったピーター・ハントの仕事ぶりは悪くなく、ひじょうに面白いと思いますね。

上映時間もこの頃の“007シリーズ”としては長く、2時間を大きく越えます。

でも、そのせいか映画のラストに半ばオマケのように描かれるのですが、
たいへん珍しいことに、ショーン・コネリーが演じていた頃はどうしようもない女ったらしだったボンドが、
何故か富豪の荒くれな娘と、真剣に恋に落ちてしまい、結果として結婚までするというストーリー展開で、
映画の前半はショーン・コネリー時代と同様に、片っ端からクドいていくのですが(笑)、
映画が進むにつれて、シリーズにしては珍しく随分と一途な恋愛映画のような切なさすら感じさせます。

そうなだけに...これは本編を観れば分かりますが、
この映画の唐突に訪れるクライマックスは、無性に切ない気分にさせられてしまいます。

本作で幸運な映画デビューとなったジョージ・レーゼンビーですが、
前述した通り、撮影スタッフと衝突を繰り返したジョージ・レーゼンビーは本作のみで、
せっかくのボンド役を降ろされてしまい、映画俳優としては不遇な扱いになってしまいます。
どうやら俳優業とは別に、レーサーや不動産実業家として活動しているらしく、たまに映画に出演する程度だ。

ただ、これは撮影当時、スターダムを駆け上がることを約束されたと実感した彼が、
あまりに傍若無人かつ傲慢な振舞いをしたことにより、撮影スタッフから総スカンを喰らい、
共演者を怪我させてしまったり、露骨に不仲に陥ったりと、トラブルメーカーだったことに原因があるらしい。

最後の最後までジョージ・レーゼンビーを支持した監督のピーター・ハントも、
結局、“007シリーズ”のプロダクション本体と対立してしまい、彼も本作のみの“命”でした。
(勘違いしないで欲しい。本作でのピーター・ハントの仕事ぶりは、とても素晴らしい!)

この映画は悪役がとても良いし、過度に飛び道具に頼らずに、
生身のアクション・シーンにこだわったことが、それまでの迷走ぶりを顕著にした前作より、ずっと良い。

特にブロフェルドを演じたテリー・サバラスの悪役ぶりが素晴らしく、
合成映像も使われてはいますが、スキーでのチェイス・シーンやボブスレーで猛スピード疾走中の
ボンドとブロフェルドの格闘シーンの撮り方など、製作当時としてはかなり革新的だったのではないでしょうか。
本作以前にこのようなアクション・シーンを撮った映画というのは、おそらく無かったんじゃないかな?

劇場公開当時は否定的な意見が多かったとのことなのですが、
確かに本作はほとんどのアクション・シーンに低速度撮影が採り入れられていて、
言葉では表現し難い違和感があるアクション・シーンになってしまっている点がネックなのですが、
それでも一連の山岳アクション・シーンの迫力は、何度観ても、他を圧倒していると思いますけどね。

映画の後半にあるスキー・チェイスは、極めて長い時間に及んでおり、延々と続くイメージ。
それ終わらせるかのように、ブロフェルドが巨大な雪崩を発生させるシーンがあるのですが、
おそらくこの映画のために撮影した映像ではないような気がするのですが、それでも凄まじい規模で驚く。
数名のスタントがスキーで滑りながら、雪崩に巻き込まれるシーンにしても、凄い臨場感でした。
それぞれのアクション・シーンには、とても気合が入っている感じで、好感が持てるんですよね。

そうなだけに勿体ないと思います、この映画。
もう少し上映時間としてもタイトに引き締めて、もっと凝縮していれば最高のエンターテイメントでしょう。

そして、劇場公開当時にマスコミで騒がれたという、ジョージ・レーゼンビーの素行の悪さがなければ、
もう少しは映画の純粋な面白さを、正当に評価してもらえたであろうと思えるだけに、ホントに勿体ないですね。

それと、ボンドをスイスのスキー・リゾート地までダイアナ・リグ演じるテレサが助けに来て、
偶然、2人が合流して車でブロフェルド一味の追跡から逃げ回るカー・チェイスも悪くない出来で、
大勢が集まるカー・レース会場に侵入するなど、かなり破天荒なアクションではありますが、
小型車が狭い会場で周回する中を逃走し、ツルツルな凍結路面を疾走する緊張感はなかなかのものです。

どうやら、ジョージ・レーゼンビーの嫌われっぷりは半端なものではなく、
監督だったピーター・ハント以外は、誰も彼の肩を持つ者はいなかったようで、
撮影当時からプロデューサーのアルバート・R・ブロッコリは「ジョージは本作が最初で最後だろう」と
コメントするなど、ある意味で「よく映画が完成までこぎ着けたなぁ」と感心させられるぐらい、険悪だったようだ。

それを思うと、ボンドの結婚式のシーンでマネーペニーが涙するなんてシーンも、
ジョージ・レーゼンビーとの別れを象徴するかのようで意味深長ですが、皮肉にも彼の姿を見て、
プロダクションはショーン・コネリーの偉大さを痛感し、次作ではカムバックさせることが強い意向だったらしい。

いつも話題になるはずの主題歌なのですが、
本作はルイ・アームストロングが担当だったのですが、悲しいことに、確かにあまり印象に残らない。。。

いろんな意味で、映画って、余計な騒動を起こして足を引っ張らないということの重要性を
認識させられてしまう作品で、一つのチャンスを棒に振ると、とりかえしがつかないことも象徴する作品ですね。
本作でジョージ・レーゼンビーの悪評が流れなければ、ひょっとすると彼は大スターになっていたかもしれない。。。

(上映時間142分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ピーター・ハント
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 ウォルフ・マンキウィッツ
    リチャード・メイボーム
    サイモン・レイヴン
撮影 マイケル・リード
    エギル・S・ウォックスホルト
音楽 ジョン・バリー
出演 ジョージ・レーゼンビー
    ダイアナ・リグ
    テリー・サバラス
    ガブリエル・フェルゼッティ
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    デスモンド・リュウェリン