おくりびと(2008年日本)

08年度アカデミー賞で、日本映画としては久しぶりに外国語映画賞を受賞した話題作。
僕はもうひょっとしたら、日本映画がアカデミー外国語映画賞を受賞することはないのではないかと、
根拠のない心配をしていたのですが、こういう形で評価されたことはひじょうに嬉しいですね。

まぁ劇場公開当時から、ネット上なんかではあんあり評価は高くなかったのですが、
僕はこの映画、立派な映画だと思いますね。そして、十分に面白い、実に日本映画らしい映画だと思う。

モントリオール世界映画祭でもグランプリを獲得するなど、
世界各国で絶賛されましたが、これはホントに嬉しい結果ですね。
これを機に更に日本映画の活発化、そして高評価の機運が高まることを期待しています。

映画で描かれた納棺師という職業は、思えば世界的に決してマイナーな存在ではないのかもしれませんね。
古くはハリウッドの西部劇などでも、棺屋というキャラクターは登場してきており、
納棺師という存在は、誰もピンと来ない職業というわけではないでしょう。
確かにこれまで映画界が中心的に描いてはこなかった存在ではありますが、
万国共通の認識があるだけに、受け入れられ易かったというのは、あるのかもしれませんねぇ。

まぁ悪く言えば、冒険の感じられない無難な作りではありますが、
これだけ安定した内容で、上手く整理できた内容に仕上げることができたというのは、
滝田 洋二郎の手腕の高さだと思いますね。映画の雰囲気をブチ壊す破綻が無かったのも、収穫の一つだ。

やや尺が長いのは気になるが、最後までダレたようなシーンは無く、
目立った無駄はほとんどありません。全てが必要なシーンだったと解釈して良いでしょうね。

キャスティングも上手くいっているようで、
観る前の僕の勝手な予想よりは、主人公の妻を演じた広末 涼子が意外に良い。
映画の中盤でストーリー上、一時的な退場を余儀なくされるのですが、もっと出しても良かったと思う。
(まぁ彼女の芝居も評判は悪かったけれども・・・)

この映画を観て、チョット理解し難かったのは、その主人公の妻だったのですが、
彼女の芝居自体は、僕は決して悪いものではなかったような印象を受けました。

その理解し難かったというのは、確かに納棺師という職業に対して抵抗感を持つ人もいるだろう。
映画の途中で紹介されたバイク事故で死んだ女性の遺族が、納棺を行う主人公を指差して、
「あの人みたいなことして、一生償うか?」とバイクを運転していた少年たちに説教するように、
ああいった価値観を持っている人というのは、今でも少なくはないだろう。

ただ一方で、主人公の妻は高額なチェロを買って1800万の借金を背負っても、
「さっ、ご飯したくしよっ」と言ってキッチンに笑顔で向かっていったのに、
いざ主人公が納棺師になったことを知ると、激怒して家出してしまうというのは、いささか合理性に欠けるかな。

勿論、人間のやることですから全てが合理性を満たすものとは限りませんが、
映画自体の説得力という観点においても、弱くなってしまいますね。

そういった細部での粗(あら)というのは、正直言ってあると思うのですが、
それでも映画の質を損ねるほど致命的な難点には至っていないと思います。
そういう意味では、徹底したリサーチを基に、納棺師という職業を中途半端に描かなかったのは大きいですね。
比較的、淡々としてはいますが、繰り返し納棺の仕事を映していき、その中で主人公が学習していく過程を
克明に描いており、彼が納棺師として成長していくのが明確になっていて、好感が持てますね。

人生で最後の旅立ちとも言える、死に化粧にあたって、
遺族から「こんなにキレイにやってくれて、どうもありがとう」と感謝されるのが、納棺師の真髄だろう。
そういったエピソードが過剰に美化されるわけではなく、自然に描けているのは良かったですね。

ただ、僕がこの映画を観ていて残念だったのは、
せっかく主人公は東京から故郷の山形に帰ってきて、納棺師という職業に就いたという設定なのに、
あまり山形という地域性が活きた内容になっていないのは残念かな。
メジャー映画の中で山形という土地がクローズアップされることは、そう多くないですから、
是非ともこういう映画では山形という地方都市を、もっと魅力的に撮って欲しかったなぁ。

とは言え、昨今の日本映画としてはほぼ間違いなく出色の出来。

最近の日本映画ではドラマ系統の作品で上手い映画って、ホントに無かったのですが、
本作が明らかにレヴェルの違う次元に到達したと言っても過言ではないと思います。

滝田 洋二郎にはこの調子で次の作品も頑張って欲しいですね。
日本映画が再び世界的に席巻するキッカケはできてますので、次の一手が重要ですね。
そういう意味でも、一つのターニング・ポイントとなってくる作品だと思いますね。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 滝田 洋二郎
製作 信国 一朗
脚本 小山 薫堂
撮影 浜田 毅
美術 小川 富美夫
編集 川島 章正
音楽 久石 譲
出演 本木 雅弘
    広末 涼子
    山崎 努
    余 貴美子
    吉行 和子
    笹野 高史
    峰岸 徹
    杉本 哲太

2008年度アカデミー外国語映画賞 受賞